慈しみの魔法
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新しく出来たこのダンジョンは、地下に向かって進んでいくタイプではなく洞窟が奥へと続くだけの平面的な物だった。
勿論迷路の様になってはいるのだが、ミリア達は風の探査魔法で、有機物である魔獣の卵を探し出し最短距離を進んでいる。
「一本道ではないですが、まあまあ奥ですね~ 」
「雄があのサイズだ。雌はもっと大きかっただろうからなあ」
ミゲルによると、魔物は大きくなればなるほど奥へ奥へと住処を求めて進んでいく性質らしいのだ。
昆虫は雌の方が大きい傾向があるので、ストレリチア将軍が倒したボスは余程大きかったに違いない。凄いな将軍閣下。
流石は国の英雄である。
「あ、何かココ反応が有ります」
「そうだな」
二人でそ~っと、くり抜いただけの部屋の壁穴から奥を覗き込む。
「「!」」
薄いベージュ色の泡が固まった海綿の様な壁と天井と床がずっと先まで続いている。
「ええぇ~ 塊どころか全面が卵の壁ですよコレ」
「まいったな。将軍が逃げるハズだよなあ」
「「・・・」」
ロッドを両手でしっかり持ち直して、正面に構えるミリアンヌ。
「でも、逃げたらスタンピードですよね」
「ウ~ン、お前の厨二魔法なら職滅出来る様な気もするがな」
ジト目になってミゲルをチラッと横目で見るミリアンヌ。
美しい星空の様なラピスラズリの瞳が優しく此方を見つめているのが判って、驚いた。
ああ、この人は。そうか。
前世でもこうやって、大丈夫な時は背中を押してくれていたんだっけ。
やり過ぎたら怒りながらでも全力で止めてくれていた・・・
「とにかく『聖女の癒やし』をやってみますね」
だからきっと大丈夫。
くすぐったい感情を笑顔で誤魔化した。
××××××××××
ロッドの杖尻を足元に軽くトンと浄化と同じ仕草で打ち付ける。
『集中して』
頭の中心に意識を集めて自分の中の神聖な魔力を感じ取る。
母なる大地と父なる大気の中に流れる慈愛のエネルギーが体中を巡っている事を確信したらソレをこの眼の前の部屋にゆっくりと祈りを込めて広げていく。
ロッドがシャラシャラと音を立て始め、波紋が広がっていくのが分かる・・・部屋中が金色の光に満たされ、一気に眩しい光へと拡大した。
××××××××××
討伐隊は急遽国王陛下の指示により結界石の回収と交換作業に変更された。
「うわあ、森に今入るのか。魔獣の卵がいつ孵化するのか分からんのだろう? 」
「まあなあ~ 仕方ないだろ仕事だ仕事」
軽口を叩きながら準備をする騎士達だったが、誰かが
「おい、アレ何だ」
「空、空見ろ、空」
と、言い始めるのが聞こえ、手を止めて全員が見上げる。
森から上空に向けて金色の光の柱が音も無く立ち上がる。
真っ直ぐに。
何処までも真っ直ぐに伸びてゆく荘厳で美しい光から、キラキラと金の粉が雪の様に自分達のいる場所まで舞い落ちてくる。
「何だコレ? 」
掴もうと手を伸ばすと、手の中で鈴の音がすると消えてしまう・・・
「金色の雪? 」
ストレリチア将軍がタープから出て来て空を見上げる。
「空気が何やらスッキリしてきたな」
「ええ、何処からか花の香りがして来ました」
団長が首を捻る。
何の音もしなかった森に向かって小鳥が沢山飛んでいくのが見える。
ヒバリの囀りが何処からともなく聞こえ始めた。
「うわあ、何だ」
「うわわわぁ~ 」
大声が聞こえたのでそちらに目を向けると、立派な角を持った鹿の集団が森を目指して頭を抱えて伏せている騎士達を飛び越えて草原を駆け抜けるのが見えた。
その後ろを追いかける様にウサギやアナグマ、リスや野ネズミといった小動物が付いていく・・・
「何だコレは? 」
「ひょっとして、森が安全になったということか? 」
「動物が戻ってきてると言う事はそういう事だろう・・・」
金色の雪のように光が降り注ぐ中で誰かが、
「聖女の奇跡だ・・・」
と呟いた。
「だれか、俺を殴ってくれ~、泣きそうだ! 」
「俺もう泣いちゃってる、なんでだろ~ 」
屈強な騎士達が理由も無くボロボロと涙を流す・・・
エヴァンスも団長も一緒になって涙ぐむ。
「アークライド侯爵令嬢が恐らくダンジョンの中の例の卵を処理するために発動させた魔法でしょうなあ」
厳ついオジサン達が涙ぐみながら鼻を啜
る。
「先程の軍馬を助けた時の魔法とは全く違うな」
ストレリチア将軍がハンカチで鼻を擤む。
「「年寄りにコレはキツイ」」
オジサンたちは涙もろい生き物なのである・・・
ハンカチ必須!




