不安な靄
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森のずっと手前にある草原から騎乗したまま空を見上げる王弟殿下ミゲルと侯爵令嬢ミリアンヌ。
上空には黒い靄のようなモノが広範囲に広がり、景色が霞んでいるように見える。
栗毛の馬も耳をピルピル震わせ不安そうに嘶いた。
「ミゲル様、森の全体を、覆ってませんか? あの靄っぽいヤツ」
「ああ、あれは恐らく瘴気だな。ヤバい大物が森に入ってきたもんだ」
「うへえ、アレですか? 大型のモンスターから流れ出る、生き物が触ったら凶暴になっちゃうヤツですか? 」
「まあ、騎士団はマントに加護が付いてるから大丈夫だが。詳しいな。勉強したのか? 」
「いえ、『乙花』の解説書を覚えてました」
「・・・便利だな」
「でも、なんでですかね~ お爺ちゃんの神聖魔法の結界があるのに」
「結界石に異常があったのかもしれんな。滅多なことでは壊れる事は無いはずだが、稀れに老朽化で割れる事があるんだよ」
結界石を起点として神聖魔法の結界は張り巡らされるためその魔法石が壊れると、そこだけ編み目が大きくなるような状態になるため隙間から結界の外に生息せいそくする大型の凶暴な魔物が入り込むことがある。
小型の魔獣は総じて大人しく簡単には人を襲わないが繁殖力が強いため増えすぎると食料が足りなくなり、人の住む場所まで進出し始める。
それを防ぐのが騎士団による間引きの魔獣討伐である。
その討伐の際、同時に結界石の点検は行われているのだが稀に点検後でもすぐに割れてしまう物があり気が付かないまま時間が経つと今現在、目の前にある森のようになってしまうのだ。
「瘴気の発生源がダンジョンの主だと面倒だな」
「どうしてですか? 」
「ダンジョンの最奥に立て籠もってるだろ? だから討伐に時間がかかる上に、止まらない瘴気で凶暴なモンスターが増えるんだ」
「うええ。迷惑なヤツですねえ」
「仕方ないだろ。出来ちまったもんは攻略しねえと大変だ」
「もう、最初の突撃隊は森に入ってるんですかね?」
「あー、今さっき将軍が突っ込んで行ったのが見えたぞ」
「・・・それ、いいんですか」
ミリアの目が点になる。
「将軍は本来は総指揮官だから良くねえな。まあ、団長と副団長が指揮はなんとかするんだろ」
ストレリチア将軍閣下、間違いなく脳筋である・・・
××××××××××
「殿下、将軍閣下が森に突っ込んで行きました! 」
半泣きで副団長の階級章を付けたオジサンが軍馬で駆けてきた。
「ああ、此処から突っ込んで行くのが見えた。団長は? 」
「陣地で騎士達の指揮に当ってますが」
「が? 」
「前代未聞の瘴気の濃さで、森の中に入った途端に靄で前方が塞がれてしまい、将軍を追いかけられません! 」
「マジか? 将軍はどうやって突っ込んで行ったんだ? 」
「心頭滅却すれば~! と何やら分からない呪文を発動しながら突っ込んでいかれました! 」
「「・・・修行? 」」
ミゲルとミリアは馬上で顔を見合わせた。
「ミリー、良かったな」
「何がですか? 」
「修行の成果が試される時だな」
素敵な黒髪のイケメンが爽やかに微笑んだ。
「・・・」
××××××××××
ストレリチア将軍閣下が突っ込んで行ったであろう森の入口で突っ立つミリアンヌ。
「ありゃりゃ、真っ暗ですねえ~、コレじゃあ前が見えませんよ」
「ミリー、普通の霧じゃないからな。瘴気は神聖魔法の浄化じゃねえと中和できん。思いっきり浄化してくれ」
「ハイハイ」
手首に巻いてあった鎖をシャラリと音をさせると掌にペンダントトップをのせ、魔力を流す。
ロッドがあっという間に元の大きさに戻り、ミリアンヌの右手に収まる。
「じゃあ、ミリアいきまーす」
息を一気に吐き切り、杖尻を地面にトンと打ち付ける。
地面の表面を鈴の音のような音色の波紋が広がって行く。波打ち際で飛沫を浴びるように周辺の空気が心地よく感じられその場の者達は信じられない気持ちになり、目を瞬かせた。
ロッドの本体がシャラシャラと鈴のような音をさせて鳴り響き、綺麗な空気がどんどん広がリ始めると空を黒く染めていた靄があっという間に晴れていく。
「「「「「おおお~ 」」」」」
後ろにひしめき合うように控えていた騎士団員達がざわめき始める。
「ミリアンヌ嬢が瘴気を払い続けている間に突入せよ! 第一部隊より突入始めい! 」
「「「「「おお!」」」」」
騎士団長の号令に続き角笛の音と共に行軍が始まったのである。
「あ、圧倒的じゃないか」
・・・スイマセン