緊急事態?
お読み頂きありがとうございます!
鞍の後ろ側に載せた荷物から取り出した大きな厚みのあるビスケットと金属のマグを渡され、昼の小休憩を取るミリア。
魔道具のマグは騎士団の支給品で、魔力を流すと水が適量湧いてくるスグレモノらしく、一般人には手に入らないらしい。
どうりで見たことがないはずである。
「コレめちゃくちゃ便利ですねえ」
「二重底になってて、水の魔石が仕込んである。まあ、魔力持ちしか使えない難点はあるが王宮魔道士達が開発してるんだよ。魔力の無いものでも使えるようになれば、国外にも売れるしな。騎士団のはプロトタイプだなあ」
「へえ~。シンフォニア伯爵様達が作ってるんですね」
「そうだ。コレは息子のマーロウの立案で研究開発してるんだ」
「ああ、あの美少年・・・攻略対象第四位の・・・」
「お前、そういう変なとこだけ覚えてるなあ・・・」
「人生かかってましたから、子供の時に必死でノートに書き留めましたよ。今見たら日本語のはずなんですが、謎の呪い文字みたいですよ」
「・・・そうか・・・」
一瞬遠い目になるミゲル。
その時、角笛が三回高らかに鳴り響き、遠くに先発隊の馬が全速力でこちらに向かってくるのが見えた。
「緊急事態みたいだな」
××××××××××
先発隊は騎士団の中でも特に脚の早い三騎が先行し本日の目的地である森を調査するのが仕事であり、異常がない場合は本隊の到着を現地で待つのが常である。
それが引き返して来たということは、討伐予定地で何かしら異変があるという事だ。
「殿下、どうやら森にダンジョンが発生したようですぞ」
ストレリチア将軍がやって来た。
「へえ、珍しいな。何かデカいのが住み着いたのか? 」
「分かりませんが、ダンジョンの周りには小物も見当たらないらしいので、大物だろうと思われますなあ」
顎を擦りながら目を輝かせる将軍殿。ちょっと楽しそう・・・?
「どうしますか? 」
「どうするって何がだ? 」
「いや、今日は見学予定でしょう? 」
「ああ。ミリーの事か」
小首を傾げ此方を見ているミリアを振り替えるミゲル。
「おい、ミリー」
「何ですか殿下? 」
「ダンジョンが発生したらしいぞ」
「へえ~。お宝ですねえ。楽しそう」
将軍の方を向き直り、
「な? 大丈夫だから気にするな。面倒は見とくわ俺が」
「・・・いいんですかなあ」
「大丈夫だ。見かけはああだが、中身はアークライド侯爵の娘だぞ」
「・・・成程。では十五分後には出発しますので」
何故か股間に手を当てながら、そそくさと去っていく将軍閣下を首を捻って見送るミリアンヌであった。
××××××××××
「ミリー、そのロッド何時でも持てるように手首に巻いとけよ」
「へ? 分かりました」
首に下げているチェーンを外し手首に巻きつけ直すミリアンヌ。
ペンダントトップがミゲルから貰ったロッドのミニチュアで、魔力を流すと元のサイズに戻る仕組みだ。
「じゃあ、行くぞ此処からはノンストップで森まで駆けるから舌噛まねえように黙っとけよ」
「はい」
討伐隊の先頭にいるストレリチア将軍の愛馬が動き始めると、徐々にそれに付いて全体が動き始める。
最後尾で待機中のミゲルを見上げると形の良い顎が見えた。
「殿下」
「何だ? 」
「ロッド使った事ないです」
「ああ。それな、魔法の増幅機だから持ってりゃ良いだけだ。あと、手近なモンは先のチャクラムの部分でぶん殴れることと、ダニーの『魔剣』みたいな事もできるからやってみな」
「成程。魔剣ですか~ 」
「ダニーに教えたんだから出来るだろう? 」
「ええ。勿論です! 最近はやってなかったので全力でいっちゃいますね~ 」
「・・・」
魔物がちょっとだけ憐れに思えた王弟殿下である。
「いいか、危ないと思ったときは引くんだぞ。後は俺から絶対離れない事。ダンジョンの周りに小物が居ないってことは、かなり大型の魔獣がダンジョンの主だから何があるか分からんからな」
頷いたミリアを確認した後、ミゲルは遠くを見ながら手綱を引き寄せると鐙で馬の腹に軽く合図を送る。
栗毛の馬は二人を乗せて軽やかに森へと向けて出発した。
アークライド侯爵閣下の所業をよくご存知のストレリチア将軍・・・