迷惑な噂話?
ハリーにレバニラ炒めを・・・
その頃学園では一つの噂が駆け巡っていた。
アークライド侯爵家の『妖精姫』ことミリアンヌ嬢がアレクシス第一王子殿下の、筆頭婚約者候補になったという噂である。
もしミリアンヌ本人の耳に入れば青筋を額に浮かべながら全力で否定したのだろうが、残念ながら彼女は学園には通っておらず現在は神殿へ修行の為にせっせと通っている。
そのせいもあってか特に否定する者もおらず、面白がって囁かれた唯の憶測が、まことしやかに拡がり本当の事の様に噂が一人歩きをし始めたのである・・・
知らないのは当の王子本人と側近達という程度に広まった頃に生徒会役員の執務室にやって来たのは、例によって事実上の筆頭婚約者候補であるティーダー侯爵家のティリア嬢。
毎度の事ながらコレもテンプレになりつつある。
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「どういう事でしょうか? 」
笑顔を貼り付け、王子とその側近候補達に問うティリア嬢。
「どういう事かご令嬢にお聞きしたいのはこちらなのですが? 」
眉間にシワを寄せつつ返すクロード。
「アークライド侯爵家のミリアンヌ嬢はこの学園に通っておられません。ですので殿下に事実確認をする他は手立てが御座いませんので、婚約者候補代表としてお伺いをさせて頂きたく存じます」
綺麗なお辞儀をするティリア嬢。
今日もティリア令嬢のドリルヘアーは絶好調のようである。
「何故こんなにもアークライド侯爵令嬢と殿下が噂になるのかをこちらが聞きたいくらいですよ」
例によって例の如く、額に青筋を浮かべる次期宰相候補。
「ミリアンヌ嬢は聖女候補であり、大神官様の寵もお受けの方です。何故そのような噂が学園内に出回るのか理解に苦しみます。デビュタントも終え、これから婚約者候補全員と殿下との交流会も始まるという大事な時期にこのような流言に振り回されなければいけないとは・・・」
非常に大袈裟にため息をつくと、ガックリと肩を落とすクロード。
当然だがパフォーマンスであって、けして本気でクロードは意気消沈しているわけではない。
貴族の暗黙の了解で『コレでわかれよ!』というやつである。
だが、それを見たハリーが慌てて
「大丈夫だってクロード! ミリアンヌ嬢はミゲル殿下と懇意にされていて、この間も第一騎士団の鍛錬場で仲睦まじく過ごしていたから! アレクの入り込む隙なんて無いからなっ! 」
と慌てて立ち上がりそう言った途端、鼻から赤いものがブフッという音と共に・・・部屋に美しく(?)散った。
「うわああぁ~! ハリー下向け下! 」
「きゃああぁ~! ストレリチア様、これ、コレ、早く早くっ! 」
「うわわわ~ お前鼻血! またか! 」
ティリア令嬢が、慌てて自分のハンカチを差出し、クロードがハリーの首根っこを押さえて下を向かせ、何故か王子が雑巾を取りに走るという大騒ぎになったのである・・・
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「お、驚きましたわ・・・ストレリチア様は大丈夫ですの? 」
「恐らく大丈夫かと・・・」
「最近、酷く血の気が多いらしくあの様な事が度々あるのだ。ティリア嬢、迷惑をかけたな。すまない」
又も発熱が確認され保健医にハリーは運ばれて行き、やっと落ち着いた残り三人である。
執務室のソファーにぐったりと腰掛けるティリア嬢はご自慢のドリルヘアーが乱れに乱れて普通の縦ロールになってしまっている・・・
「ティリア嬢、髪の毛が・・・」
クロードが、立ち上がりサッと侍従のように彼女の髪型を手直しする。
「申し訳御座いません。本来なら女性の髪の毛に触れるなど失礼極まりないのですが、執務室から出たときに余りにもお姿が乱れていると妙な噂が流れる恐れもありますので」
とか言いながら、頭頂部のリボンを結び直しツインドリルを縦ロールを生かしたハーフアップアレンジに変えてしまう。
「元の形に戻すほどの技量は御座いませんのでお許し下さい・・・」
流石は(王子専属)オカン。
流行りの髪型にちゃっかり手直ししてしまう。
しかもティリアは元々が美人なので豊かな金髪によく似合っている。
寧ろ何故あの髪型をするのかが疑問である・・・
「あ。ありがとうございますモース侯爵子息様」
ちょっと恥らい顔を朱に染めるティーダー侯爵令嬢。血の繋がった兄であるゼノア・ティーダー伯爵が王子様の様な風貌なら、此方はユリの花の様な姫君といった所だろうか。
兄妹で実は良く似ていたりする。
「・・・その髪型似合ってるよ」
アレク殿下がちょっとだけ咳払いをしてからボソッと呟く。
「ありがとうございます殿下」
ニコリと笑う御令嬢。
いい雰囲気じゃないか? と思ったのはクロードだけじゃ無い筈である。
怪我の功名? どうかな~~
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