マーロウ・シンフォニア魔法伯爵という少年
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ここは、生徒会役員の執務室の向かい側に併設されている応接室である。
「どうぞ」
「ありがとうクロード」
クロードが出す紅茶に手を伸ばすマーロウ。
「でさ、僕に聞きたいことって何かな? 」
背が高いマーロウだが、座ると小さい。
これ、脚がとんでもなく長いって事だよな、と妙に感心しているクロードに笑顔を向けるブルーグレイの瞳の魔道士。
「ええ。実は聞きたいことはアークライド侯爵令嬢の事なんです」
「? 何で僕に聞くの?」
「参考意見を聞きたいんですよ。彼女に直に接したことのある人間があまりにも少ないんです。実は、アレクが彼女を王子妃にと望んでまして」
「へえ」
「国王陛下やお妃様も勿論ですが私の父であるモース宰相も賛成はしていないんです。寧ろ反対しておられる」
「ふうん。理由を聞いても良いの? 」
コテンと首を傾げるマーロウ。
眼鏡を外し眉間を指先で揉むクロード。
「アークライド侯爵家は経済的に王家を凌ぐ程の大貴族です。それが王子の婚約者、ひいては王子妃になると経済が王家に集中するという懸念が発生します。それに不満を唱える貴族が現れる可能性がある。特に同じ爵位の侯爵家や、より高い地位の公爵家からの突上げがある可能性が濃いんです」
「あはは。つまり王家がお金を独り占めするなって事だよね。金に汚くて何でも自分の利益の為にだけって動いてる王宮貴族はそれこそ山のようにそこいらに蔓延っているからねえ」
あっけらかんと笑いながらいとも簡単に言い放つマーロウ。
「まあ、有り体に言うとそういう事ですが・・・」
「僕は、あの子を王子妃にはしたくないね。それ以上に無理だとも思う」
ニンマリ笑うマーロウ。
長い付き合いのクロードでも初めて見る妖艷なその表情に驚くが、顔には出さず片方の眉だけを上げる。
「したくないというのはまあ置いておいたとしても無理とは? どうしてですか」
「ウ~ンうまく言えないけど、僕あの子を抱き上げた時に正気に戻ったでしょ? 」
「ええ、そう聞いてます」
「その時にあの子の魔力と一緒に、あの子の情報がある程度直観的に僕に入って来たんだよね。あ、この子凄いってさ」
「へえ」
「あの子はさあ何ていうのかなあ、魔力の塊だよね。普通の御令嬢なんかと全く違うんだ。強いて言えば聖王様が一番近いんじゃないかな。人間離れしてる」
「人間離れ・・・」
「僕達魔道士は闇の魔力持ちだから神聖力とか光魔力につい群がりそうになるんだよね。無いものねだりっていうのかな? そうならないように精神力で抑え込むけどさ」
「・・・」
「アレには、下級魔道士なんかじゃ太刀打ち出来ないから、おかしくなるね。自ら火に飛び込む蛾みたいにさ~ 僕はあんまり女の子に興味ないんだけど、触れたらうっとりして甘い魔力に酔っ払うね」
「どういうことでしょうか」
「それだけ凄いって事。アレクは光属性の魔力持ちだからそこは平気かもしれないけどね。もしもあの子が嫌だって他人を本気で突っぱねたら、普通の人だと死んじゃうかも」
「へ? 」
「そんな人が例えば国賓と外交したら大変でしょう? 可愛いからってゲスい下心出す変態ジジイやエロババアなんかゴロゴロしてる世界なんだからさあ、そんな相手に当たったら感情だけで殺しちゃうよ~ 」
その美しい少女のような顔に不似合いな物言いをしながらケラケラ面白そうに笑うマーロウ。
「・・・」
「王弟殿下がよく第一騎士団の演習場をぶっ壊すじゃない? あれと同じ位の破壊力のある魔力持ちだよ、やめといたほうがいい。王宮に出入りしてる助平ジジイや欲張りババアどもがあの子の感情を揺さぶったりしてご覧よ。体なんか跡形もなくなっちゃうよね。まあ、それも面白いかもだけどさあ~ 色々とヤバイよね? 」
それを想像してなのか、笑いすぎて目に涙を浮かべて拭うマーロウ。
「悪いことは言わないよ。あの子は貴族らしく無さすぎて心が綺麗すぎる。気持ちが正直に顔に出るし、感情もダダ漏れ。同じように魔力も滅茶苦茶漏れてるから、それが破壊力に繋がった時が怖いよねえ~ 個人的には一部の貴族なんかにはいい薬になるとは思うから、王子妃になったら楽しそうだけどねえ」
酷薄な笑顔を浮かべ此方にその冬の曇り空のような目を向けられ、正直クロードはゾッとした。
続きます~