騎士って大変だな~
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第一騎士団の訓練場では、重い甲冑を全身に纏ったまま全員が可能な限りの全速力で走り込みをしていた。
金属が擦れる耳障りな音をさせながら、無言で走る騎士達。
字面で見ると大した事なさそうだが実際目で見ると結構悲惨な状態である・・・
まず、甲冑は重い。当然スピードは落ちる。そして視界が悪く、脚が上がらない。つまり、ちょっとでも油断して躓くと転ぶ。
そして関節が自由に曲がらない。そして重みが全身にのしかかる。
つまり一度転ぶと立ち上がれない・・・
ここまで来ると分かるだろうが、一人が転ぶと、何人かがそれに引っかかり将棋倒しの様にゴロゴロ転ぶ。
そして誰かが起こして甲冑を脱がしてくれるまで、丸太のように転がってそこから動けなくなるのである。
何でこんなモノを着たまま走り込みをするのか・・・はっきり言って謎である。まあ、一般人には分からない鍛錬にはなるのかもしれない。
例えば危険を素早く察知して避けるとか、拘束されても逃げるとか・・・。
「もういい加減、コレ、訓練メニューから外してもいいんじゃないかな・・・」
遠い目をしながら呟く黒髪にラピスラズリの瞳の王弟殿下。
まあ身体は甲冑、顔は甲冑のオプションであるフルフェイスヘルメットの下なので全く見えないのだが・・・
因みに殿下は最速で隊列の先頭を走っている。
走るというより大股で急ぎ歩きでしかない。いや、ホント、キツそうである。
見学用のベンチに座ってそれを見ながら目が点になるミリアとダニー。
マーサと侍従が何も言わずに、二人に向けて日傘を差し掛けて日陰を作ってくれているのだが、その二人も若干目が泳いでいる。
「姉さま、何であんな非効率な格好をするのでしょうか」
「さあ。恐らく昔からやっていたからずっとそのまま疑問も持たず続けているのでしょうね。後で殿下に聞いてみましょう」
「はい・・・」
と、言いつつも・・・
『絶対ミゲル様もこれ、何やねん!て思いながらやってるに違いないよねー』
ミゲルの胸中を思うミリアなのであった。
××××××××××
角笛のような音がして休憩時間になったようだ。
騎士たちが甲冑を侍従たちによって脱がされていく。
地獄の束縛から逃れた騎士たちは、全員滝汗である・・・
甲冑を脱がす係と水らしきものを配る係がいるらしく、金属のビアマグみたいなのを甲冑を脱ぎ終わった騎士たちが次々と口にする。
ずっと離れた場所で丸太と化した騎士たちも救助されているようだ。
騎士の鍛錬というより、まるで学生コントか、年末のタレントのギャグ番組である。
マグを片手で持ってガブガブ水を飲みながら、ミゲルが見学しているミリアたちの方に大股でやって来た。
ここでマーサがすかさず、ミリアに白いフカフカのタオルをそっと渡しそれを何も考えずにそのまま殿下に差しだす侯爵令嬢・・・
「おう、来たなミリー。気が利くな」
渡されたタオルで自然と汗を拭くミゲル。
「お疲れさまです。一体あれ、何なんですか」
「俺に聞くな。俺自身も疑問に思ってるんだぞ」
「あ、やっぱり」
「ま、タイヤをロープで引っ張ってトラック走る高校球児みたいなもんだなぁ」
顎に手を添えて考えるミゲル。
「それ、体に良くないから禁止されたやつでしょ」
ジト目になるミリア。
「後は、星飛●馬の大リー●養成ギブス的なアレかな」
「外した時にはっちゃけるアレですか」
「まあそうだな」
肩をすくめる黒髪のイケメン。
大汗をかいていても美形は得だなと、ボーッと見ていると
「どうしたミリー、何かあったって顔だぞ」
「え」
慌てて顔を触る侯爵令嬢。
「まあ、後で詳しく聞いてやるよ。こっちが弟のダニエル君? 」
ぱあっと明るい顔になるダニー。
憧れの『剣聖』のミゲルに声をかけられ舞い上がっているようである。
「はいっ、王弟殿下はじめまして!」
貴族の礼も忘れている。
「よく来たな。何か、魔剣使いってミリーに聞いてるぞ」
「え? あー・・・えへヘ♡」
盛大に頬を薔薇色に染めて照れる天使。なんと必殺斜め四十五度の上目遣い。
「姉弟揃って半端ない攻撃力だな・・・」
思わず鼻を押さえた王弟ミゲル殿下であった。
ダニエル君も斜め四十五度を習得しておりまっす! 敬礼!
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