聖女悟りを開く?
ミリアンヌ、ピーンチ!・・・かな。
お読みいただき感謝です( ´∀`)
「よく考えてみたら人生のゴールってこのままじゃ、お墓じゃん! 」
真夜中のベッドの上で思わず叫んで目が冷めた侯爵令嬢ミリアンヌである。
今は真夜中。
家中の者は寝静まっている。
もちろんミリアも夢の中でキャッキャウフフと何やら楽しく過ごしていたのだが、急にニ日連続で生きる目的だとか、人生のゴールだとか・・・いわゆる哲学的な問いかけ(それ程高尚では無い筈だが)をされ唐突に夢の中で気が付き、目が覚めたのである。
「武士道とは死ぬことと見つけたりって、よく斬●剣をしまう時に●川五右衛門が言ってたなあ~・・・あれ、サ●ラ●スピリッツだっけ? 」
ミゲルが居合い術や剣術の事やらを言ってたのと、お爺ちゃんの人生のゴールの話が一緒になり、どうも夢の中で考えがそこに至ったらしい・・・
「ミゲル様の生前は宮田課長・・・どんな人だったっけ? ウ~ン・・・」
霞が掛かったような記憶を、掘り起こすように思い出してみる。
「確か、いつもパンツスーツを着てる人で、ワンレングスの派手な美人だったよな~・・・ めっちゃ厳しくてそんなに効率の悪いやり方するなとか、他の連中に仕事をもっと振れとかよく言われてた様な気がする。もう事務所を閉めるから帰れって言われてよく追い出されたり、残業してたら必ず差し入れしてくれて晩飯代が浮いて・・・んん?」
何だろう? 生前の自分の事を宮田課長が好きだったって言ってたのを考えてみたら・・・それって。
「ひょっとして、自分の事を凄く心配してたって事・・・? 」
突然、ボンッと顔が赤くなった気がしたが幸い暗くて自分でもよく分からない。
何やら恥ずかしくなって布団に潜り込みもう一度自分を振り返る・・・あれ?
「死ぬ前は何か、パソコンの前で胸が急に痛くなって死んだんだよ・・・あの時って課長はアメリカへ出向してる時でいなかったんだよな。山の様に仕事が毎日有って・・・頑張らなきゃって思って・・・腹減ったな~とか思ってて・・・目の前が真っ暗になって・・・他は? 」
自分を明確に思い出せない・・・両親とか、兄弟とか、友人とか子供の時とか・・・忘れてる?
薄っすらとした記憶でしかない前世に驚くミリア。
「いつの間に・・・」
両親の事を考えると侯爵夫妻だし、兄弟といえばダニエルの顔が浮かぶ。友人はミゲルやお爺ちゃん。子供の頃は? 侯爵領で過ごした屋敷や、町並み。後は王都に来てからのタウンハウス・・・
暗闇の中で愕然として、暖かいはずの布団の中で身体が冷えて固まった。
この時、『アイデンティティの崩壊』の意味が生まれて初めて理解でき、同時にソレを突然迎えたミリアンヌだった・・・。
××××××××××
侯爵邸の朝は早い。
春になり夜明けも早いので、益々早起きの侯爵邸の侍女頭マーサ。
今日も奥様のドレスを選び、アクセサリーを整えてドアをノックする・・・筈だった。
「大変です侍女頭。お嬢様が・・・」
いつもミリアンヌを起こしに行くと、部屋にいませんでした、庭でランニングをしてました! とメイドが続けるのが日課である。
「まだ寝てます! 」
ガクっとなってしまったマーサ。
「え? 何で? 」
「分かりません。ただボンヤリしてベッドの上で座ったままになってます! おかしいです! 」
このメイドも大概だが、マーサも何で? と問い返すので、似たり寄ったりである。
「どうしたのマーサ? 騒がしいけど? 」
奥様がドアから顔をそっと出してきた。
「奥様、お嬢様の様子がおかしいらしいので、見に行って参りたいと思うのですが」
「おかしい? 」
「庭を、走っていないらしく、ベッドでボンヤリしているそうです」
「えっ? 風邪かしら・・・」
「分かりません」
「見て来てちょうだい。私も後で行くから」
「はい」
お辞儀をして、去っていくマーサを見送りながら・・・
「どうしたのかしらねミリーちゃんがランニングしないなんて? 」
この母も大概である。
※「武士道とは云々・・」
『葉隠』別名『葉隠聞書』全十一巻
口述・山本常朝 記述・田代陣基 の有名な一文で御座います。
ゲームやアニメでも使われる有名な名言ですね。