国王陛下だって・・・・・
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デビュタント・バルでの事件は王家がひっくり返るような大騒になったとはいえ、アークライド侯爵とその御令嬢そして、ティーダー伯爵の機転で難を逃れ関係者全員が胸を撫で下ろした。
但しこの二つの家に借りが出来たのは否めない。
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「陛下、書状が。魔法便で届きました」
宰相がこめかみを押さえながら国王陛下の執務室にやって来た。
「魔法便とは・・・火急の案件か? 」
魔法便とは国家間での協議や、軍事関係の書状等の『とにかく早く目を通す必要性のある』書状である。
「アークライド侯爵当主ウィリアム卿からの書状です」
眉の間を揉みながら、非常に嫌そうに伝える宰相。
「ひっ! なんでウィリアムがそんなもの送ってくるんだよ~ こないだの後始末まだまだ終わりそうに無いから連絡して無いのに~ 」
陛下、若干涙目である。
「ホント、アークライド卿が苦手ですねえ」
「だって、アイツ怖いんだもん」
「・・・」
「で、内容は確認したのか」
恐る恐る、赤い封蝋を押された封筒を嫌そうに受け取る陛下。
「ニ大公爵家から、アークライド侯爵のご令嬢に婚約の打診が来ないようにして欲しいという『お願い』です」
「えぇ~ なんだよそれ。脅し? 」
「まあ、脅しじゃないですかね」
「あ、やっぱり」
陛下、若干顔色が悪くなる。
「公爵家に釣り合いの取れる年齢の子息って居ないよな確か」
「えーと、ソリティア家のご子息はまだ十二歳ですねえ。後グラント家は二十三歳のご子息が居ますが、こちらは既に婚約者が居られますね隣国の公爵家のご息女のはずです」
「ダヨネー」
「まあ、ミリアンヌお嬢より年下ですが、ソリティア家ならあり得なくもないかと・・・」
「予防線張っとけ」
「えー、いいんですか? 」
「いい。許可だ許可アークライド侯爵家を敵に回す位なら叔父上に釘さすほうがずっと楽! 今回の借りがあるからってぶっちゃけといてくれ」
呆れ顔の宰相。
「いいんですか? 」
「後々揉めんように根回ししとけ」
「はあ、じゃあ、まあ。通達しときますね」
「うん。頼んだ! とにかくウィルが登城して来る前に今回のゴタゴタをちゃんと始末つけとかんと・・・」
言いながら、例の首チョンパのゼスチャーをする国王陛下。
「もう私、三日程寝てないんですがねえ・・・」
「すまんが最重要事項だ」
ため息を付きながら、簡易の礼を取るモース宰相であった。
「まあ、コレでウィリアムがコッチからの借りを返せたと思ってくれれば万々歳だ」
「そう上手くいきますかな? 」
宰相の問いかけには答えず、
「そうだよ~ アイツを敵に回す位なら叔父貴共に根回し百回するよ」
遠い目で何かを思い出して独り言を言いながら、ぶるりと震える国王陛下である。
こうして国内一爵位の高い大貴族である公爵家は、ミリアに向けての釣書は発送出来ないことになったのであった。
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執務室でアークライド侯爵家当主ウィリアムは、王家の封蝋を押された一通の封筒を確認しながらその大天使のような美しい顔をにこやかに綻ばせた。
「フィル陛下は気が利きますね」
いや、多分それは違うんじゃないかな、と彼に突っ込む人はどこにもいないのである。
いや、怖いだけだってば・・・




