シンシアの夢
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「いい加減になさいませ」
柳眉を見事に吊り上げて畳んだ扇を手に持ったまま怒るのは、ハイドランジア王国の王妃オフィーリアである。
今回アークライド侯爵、そしてティーダー伯爵の双方ともに今回の件は無かったことで決着がついたものの王家の威信が台無しになる寸前、大惨事一歩手前だった。
今回騒動を起こしたシンシア王女は暫くの間自室での謹慎という処分となり、マーロウは従属の鎖の呪いでほぼ自我を失っていたという状態であり被害者以外の何者でもないため、お咎めなしとなった。
元を正せば、口さがない侍女達の陰口や軽口がシンシア王女の気鬱の原因である。
これに関しては、取り急ぎ後宮内の再教育を徹底して行う事が決定した。
又、王妃の間諜である『蝶』を使い王家の威信を傷つけるような発言をする侍女やメイドは即刻それぞれの監督官に通達がされ、厳しい取り調べを行う事となった。
その内容次第では、厳しい処罰を与える事となる。
そして今『蝶』によって、王女の部屋から大量の見合い用の釣書きと絵姿が発掘され、それが王妃に報告された所である。
王妃が散々他国の王族には嫁がせないと国王に言っていたにも関わらず、である。
そしてこっそりとソレを王女の部屋に送っていた陛下が、オフィーリアに土下座させられている・・・
国王なのに・・・
「何度も何度も、シンシアは他国への嫁入りは無理ですと申し上げた筈ですよねえ。なのに・何故・こんなに・お見合い用の釣書きが山の様にございますの? しかも他国の王族の物が? 国王陛下? 」
「・・・いや、だって。シンシアも二十五才だし。婚姻を結んで幸せになって欲しいと・・・どの国の王族もあの子の美しさと聡明さを称えて、何度も何度も会いたいって頼んでくるんだよ~ 」
「おだまんなさいっ! 」
「うっ・・・」
「ワタクシに黙ってコッソリ釣り書きをシンシアへ直接渡していたとは・・・あの子の性格を少しは考えてご覧なさいませ」
「シンシアは物静かで、思慮深い自慢の娘だろう? 見た目は申し分なく美しいし・・・」
「見た目の派手さに比べて根暗で地味な性格の引きこもりですっ! 社交も苦手で敢えて出席するのは必要最低限のものだけで、早々に退散するんですよっ! 」
「え、そうなの? 」
「だから前々から王宮勤務官僚で、それなりの爵位の方を探してくださいとお願いしてあったでしょう? 」
「・・・う、うん」
「いないんですの? 」
「うーん・・・」
眉尻を下げて悩む陛下。
アークライド侯爵みたいな、愛する奥方をしまい込めるような懐の深い貴族はそういない・・・
「あの子の希望は昔から変わっていません」
溜め息を付く王妃殿下。
「え、でもそれは無理だから諦めたんじゃ無かったの? 」
「それが、そうでもないらしくてコッソリ努力していたらしいんですの」
「その為に魔術の教えを乞うために、マーロウを部屋に招いて、手放せなくなったと言うことか・・・」
「ええ」
××××××××××
シンシア王女は幼い頃から本が大好きだった。
王宮図書館に入り浸り、端から端まで蔵書を読み漁り気がつけば図書館の本を全て読破していた強者である。
勿論読むだけではなく詩作も嗜み自分の独自の考察から論文なども手掛け、学術的にも評価される物を傑出する才女でもある。
その彼女が、王宮の禁書庫で見つけた王家の秘密に関する古い記述を見つけた時、あろうことか『王家の影になる』事が彼女の夢になってしまったのである。
実のところ『影』は他の諜報員と違い見た事をひたすら記録する為だけの存在であり、王宮官僚の書記官とそう変わりないのだが誰が『影』なのか知られないように隠蔽魔法の才能と、それを常に発動させるだけの魔力が必要となる。
ハイドランジア王家の血族に代々引き継がれていく光属性が実は隠蔽魔法に最も適している。
その為代々『影』の宗主は王族が多い。
それを知った彼女はなんとか隠蔽魔法を習得すべく努力したのだが、尽く失敗に終わった。
これには国王も王妃も困り果てた。
確かに文才もある、考察も独自の切り口を持っていて素晴らしい。
だが、肝心の隠蔽魔法が使えないのでは、『王家の影』にはなれない。
魔力量は問題ない程度にあるらしいのだが兎に角、魔法のセンスが無いらしく、どうしても発動しないのである・・・
ヨシ。次行こう次。