ウィリアム・アークライド侯爵という人
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「陛下」
アークライド侯爵が挙手をする。
「ウィリアム、発言を許す」
今まで特には何も発言もしなかった侯爵が、立ち上がり見事な貴族の礼を取る。
「王家の皆様方には、並々ならぬご心配をおかけ致しましたが、我が娘もこの様に無事デビュタントを終えました故、タウンハウスに共に帰り暫く休ませたいと存じます」
御婦人方に付けられた『社交界の貴公子』という異名の元になった華やかで妖艶な笑みを国王陛下を正面に据えて披露すると、国王陛下と宰相がピクリとして若干顔色を変えた。
下手な威圧なんかよりコレがずっと怖いのである・・・
「うむ、相わかった。ミリアンヌ嬢共々、ウィリアム、そなたもゆるりと休むがよい。明日以降の登城は追ってこちらより連絡を入れることとする」
「はっ有難き幸せで御座います」
『暫く休むから、俺がいない間にそっちでチャッチャと片付けとけよ! 』・・・という意味に他ならないのだが、国王陛下と宰相以外には分からないのは幸いかもしれない。
明日から不眠不休かもしれない自分自身を思い浮かべた宰相が遠い目になる。
王家の『影』が、謁見室の隅でせっせと分厚い本に記録をしているのが、妙にシュールな一コマであった・・・
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さて、『何も起こらなかった』ので、当然謁見の間から退出することになったミリアンヌ達である。
先ずは王弟殿下が、次に侯爵にエスコートされてミリアンヌが廊下に出た。
近衛に案内され廊下を進もうとしていると、マーロウが父であるテイラー卿に肩を支えられ二人で部屋を出てきた。
マーロウ親子は此方を振り返りミリアを見ると、ニコリと微笑んでお辞儀をして反対方向へと去っていった。
「? 」
「シンシアが陛下に呼び出されて部屋から出た後で、自力で『隷属の鎖』を解いて逃げようとしていたそうだ。その時の解呪にお前から貰った魔力を使ったらしい。正気に戻ったのもお前の魔力に触れたお陰だと言っていた。ただ、まあ自分の魔力は枯渇状態だったらしくて力尽きて動けない所を運良く近衛に保護されたらしい」
ミゲルが 不思議そうに首を傾げるミリアンヌに小さな声で、教えてくれた。
「王弟殿下、本日は娘が重ね重ねお世話になりました」
「いや、こちらこそ世話になった。侯爵家に借りができたな」
「いえいえ、我が娘を助けて頂いたのが最初ですから」
ミリアンヌパパがミゲルとガッチリ握手を交わす。
「暫く国王御一家が大変ですが、宜しくお願いします」
侯爵が王弟殿下の耳元で小さな声でそう囁き、彼ら二人が同時に肩を竦めたのを誰も知らない。
その横で
「うーん、三倍返しって実際にやろうとしても中々に難しいわ~ 」
と侯爵令嬢が呟いていたことも・・・
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ゼノア・ティーダー伯爵はぼんやりと、近衛騎士の案内に付いて馬車溜まりへと歩を勧めていた。
父や妹はまだまだデビュタント・バルのまっ最中だろうが、まだ奪われた魔力は完全に補充されたわけでは無いらしく本調子ではなかった為伯爵邸に戻ることにしたのだ。
馬車のタラップを上がりフットマンが開けたドアをくぐり、席に座るとステッキで御者に合図をする。
静かに動き始めた伯爵家の紋章の入った馬車に向かい、騎士の礼を取り見送る美麗な制服の近衛達が窓からチラリと見えた。
「巻き込まれた、か。そうだとしても僥倖だな・・・」
未だ脳裏に残るミリアンヌの笑顔とスミレの様な甘やかな香りを胸に、フワフワとした気持ちのままで馬車の揺れに身を任せ、締め付ける胸の痛みを持て余しながら甘い溜息をつく。
伯爵の乗った馬車は暗い夜道を月に照らされながら走って行った・・・
そう、ラスボスは侯爵閣下でしたっ!