王家の影
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謁見室にその女性が入ってきた途端、部屋の空気が変わったのをミリアは感じた。
赤いシンプルなイブニングドレスに包まれた体は女性美を体現した見本のようである。
豊かな丸い胸は形良く上を向いており、キュッとくびれて締まったウェストから美しい曲線を描くヒップへと続く。
艶めく黒髪を軽く結い上げ、黒に近い群青色の瞳は意志の強さを表すような光を湛えている。
透き通る様な、まっ白い肌に真っ赤で弧を描く唇。高い鼻筋に品よく高い鼻梁。
女性にしては上背があるが、その動きは優雅で洗練されていて、実に王族らしいと言える。
流石は親族、ミゲルの女性版といった所だろうか。良く似ている。
ただ、醸し出す雰囲気は女性そのもので、『妖艶』という言葉がぴったりである。
傾国の美女と噂される第二王女シンシア・ハイドランジアである。
『うわ~。魔女みたい』
謁見室で遠目に見ただけではわからなかったが、近くで見ると凄い迫力である。
『スゲー、美人って迫力だあるんだ~ 知らんかった~ 』
多分、前世も合わせてこんな美女を間近で見たのは初めてだろう。
お爺ちゃん@若者バージョンに匹敵するんじゃないだろうか、いや、対極の美人さんかな~ とか頭の中で比較をし始めるミリアンヌである。
「お呼びでしょうか陛下」
美しいカーテシーをしながら微笑むシンシア王女。だがその目は笑っていない。
「シンシアよ。マーロウを何処へ隠したのだ」
国王陛下が唐突にそう言うと、ひりつくようにピリピリとした緊張感を感じ、居心地の悪さをミリアンヌは感じた。
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王家の『影』。
所謂『諜報』の突出した役割の一つである。
ハイドランジア王家の『影』は優秀で、王国内を掌握するためだけでなく、王家の動向そのものも掌握している。
国王も含め、その家族親族もある意味『見張られている』と言っても過言ではない。
ただ、彼らは情報をこちらから要請しない限り誰にも提供することは無く、善し悪しの判断も彼らの範疇ではない。
ただひたすら記録をする事のみが彼らの仕事である。そしてその姿を見た事のある人はいないと言われている。決して正体を人に見せない仕事なのだという。
王家も余程のことがない限り、この影からの情報を利用する事は無いと言われており、王公貴族の拉致や誘拐、諸外国との関係が険悪になるような出来事など国家転覆に繫がりそうな重要案件が発生した時しかその情報を使うことは無いという。
今回のこの案件は、アークライド侯爵家を貶め、ティーダー伯爵、ひいてはティーダー侯爵家を貶めて、ティリア嬢が第一王子の筆頭婚約者候補から引きずり落とされる可能性まである悪質なものである。
又、王家主催のデビュタントでの事件という事は、国内の有力な高位貴族、所謂大貴族と呼ばれる家格の者達を恥ずかしめ、王家への信頼の失墜を狙ったものであるとも考えられるため、流石の国王陛下も今回ばかりは『影の情報』を使うことに決めたようである・・・
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いつの間に呼んだのだろうか。国王陛下の側、お妃様とは真反対にユラユラと蜃気楼の様に不確かな揺らめきを纏った黒い人影が立っている。
本当に黒い影の塊のように見えるが、隠蔽魔法だとミリアは気がついた。
お爺ちゃんに『中途半端に姿が見えて格好が悪い! 』と言われて鏡の前で、何回も何回もやり直しをさせられた時の状態にそっくりである。
という事は、この『影』は光魔法の使い手という事だ・・・
『影』は、一冊の本を手に持っていてパラパラとそれを捲り、陛下に何かを囁いているように見えた。
美形の特徴を直ぐに金髪碧眼って書いちゃう癖を直すのに必死で御座います・・・




