剣聖降臨
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「って事は、俺の名前で呼び出されたのか? 」
「そうなんですよねえ。今考えると、メモなんか使わずに直接呼び出しますよね。ミゲル様は王族なんですから」
「まあな」
明け透けな二人の会話に目を丸くして聞いているのは、国王御夫妻と宰相閣下、第一王子アレク殿下とその側近ハリーとクロード、ティーダー伯爵ゼノア卿そして、ミリアンヌパパことアークライド侯爵ウィリアム閣下である。
離れた所に、護衛の為に近衛騎士が数人と、お妃様付きの侍女と侍従が立っているが、これらは気配を消して壁の一部に擬態しているようである。流石はプロ。
「あ~。つまりだ、ミリアンヌ嬢を拉致した目的がよく分からんと言う事だな? 」
「はい、国王陛下。どなたにもお会いしておりませんから」
「ハリー、休憩室から出てきたのはマーロウで間違いないのか? 」
宰相がハリーに問いかけると
「はっ。間違いないとは思うのですが、ただここ最近彼とは会っておりませんので、いささか自信が無いというのが正直な見解ですが」
「王宮魔道士長と、嫡男のマーロウをここへ呼び出すように」
宰相が入口付近にいる近衛に声をかけると、音もなく二人が部屋を出ていく。
「して、ティーダー卿は何故休憩室に? 」
「はい、宰相閣下。私は会場で突然気分が悪くなったので侍従の案内で休憩室に案内されたのですが・・・ 」
「ふむ」
「この謁見の間に来る直前迄、酷い吐き気を感じていたのですが、その・・・ 」
「? 」
何故か顔を赤らめてミリアを見つめるティーダー卿。
「どういう事か分からないのですが、彼女の姿を見ると、急にそれが止まってしまったのです・・・それで、その・・・ 」
・・・何故かイケメンがモジモジする図をその場にいる全員が見せられる羽目に・・・
それをジッと見つめていたミゲルが、不意にミリアに耳打ちする。
「ミリー、すまんが、ちょっとした実験に付き合え」
「え、なんですか? 」
突然ミゲルがミリアの脇に手を差し込むようにしてぶら下げて、ティーダー卿のすぐ前に彼女の体を突き出した・・・
「「うわ~っ! 」」
「「「ミゲル(殿下)っ! 」」」
「叔父上! 」
「あら~ 」
突然の出来事に目を白黒させているミリアに向かって、椅子から素早く立ち上がり急に飛びかかってくるゼノア卿を、さっとミリアを抱き込むことで躱すミゲル。
「何するんですか! 私はメルちゃんじゃないですよ! いくらちっちゃいからって酷いですよっ! 」
ミゲルの腕の中でプンスコ怒るミリアンヌ。
子猫が虎に毛を逆立てているようで笑える。
「ああ、驚かせて悪かったな。だから先に謝ったろう? 」
ミゲルは爽やかに笑いながら、慌てて椅子から立ち上がったアークライド侯爵にミリアンヌをポイと渡すと、腰の剣の柄に右手を添える。
「伯爵はどうやら魅了魔法にかかっているようだな。暗示の標的はミリアンヌ、お前のようだ」
苦しそうに床に膝を付いてミリアを見る伯爵の瞳は、どんよりとして光がなかったのである。
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再度飛びかかってきた伯爵を鞘付きの剣でひと撫でするミゲル殿下。
近衛が慌てて飛び出す間もなく勝敗は決し、侯爵にしっかり抱き込まれたままのミリアの足元に、気絶したゼノア卿が転がっていた。
「陛下、御前を荒らして申し訳ありません。この方法が手っ取り早いと思いましたので。ティーダー伯爵を拘束しろ」
「「「はっ」」」
ミゲルが合図をすると、捕縛用のロープを持った近衛が伯爵に近寄り、彼を拘束する。
「良い。お前の型破りは今さらだ。咎めぬよ」
肩を竦めるミゲルにため息を付く国王陛下ご夫妻と宰相閣下。
目を見開いている王子と側近達。
側近のうち、約一名が目がハートになっているのは気のせいか・・・・
あまりの早技にキョトンとしていたミリアだったが、段々と状況が掴めてきたようである。
「すっ凄いっ! どうやったんですかっ!教えて下さいっ! 師匠と呼ばせてくださいっ! 」
そう叫びながらミゲルに飛び付いたのは、紛れもなくヒロインの筈のミリアンヌであった・・・
あれ?いつの間にかミゲル殿下が主役?