聖女と公爵領
馬車で神殿に向かうミリアと両親。そして侍女のマーサ。
「ミリアは今日も乗馬服なんだね~ ドレスじゃないの?」
妻と侍女の苦労も知らずに、呑気な父である。
「父様、神殿のお手紙には『平服で』と書いてありました。私の平服は乗馬服ですからね。普段の格好じゃないと緊張して実力を発揮できないじゃないですか」
「ああ、そうだね~ ミリアは賢いね」
妻のミニチュアのミリアにデレデレの侯爵閣下は、実に娘に甘いのである。
「「・・・・・」」
複雑そうな顔の女性陣を他所に、今日までの準備を振り返るミリア。
徹底的に身体を鍛え体力を付け、自宅にある魔法書を頭に叩き込み、練習を繰り返しては倒れる寸前まで魔力を使い切ることで魔力量を増やした。剣の練習も欠かさない。魔物が跋扈するこの世界で魔力だけでは心許ない。
ゲームでは剣を持たず魔力だけで戦う聖女だった。武力行使は王子とか、騎士団長の息子とかが頑張っていたはずだが、そんな他力本願はミリアの侠気が許さない。
ノーマルとハッピーエンドでは王子様と結婚。分岐で取り巻きと婚約か結婚。 隠しルートで王弟と結婚。
バッドエンドは悪役令嬢共に嵌められ奴隷落ちか国外追放。若しくは、王弟ルートの分岐で魔王の花嫁で闇落ちである。
どれになったとしても気分が悪い。どうするアイ●ル~♪である。
ハーレムエンドもあった気がするが、そんなのは問題外である。
ミリアとしては、全部無視して、わが道ルートを作る所存である。そのための努力と戦略をずっと練ってきた。最後は自力のアドリブ力で切り抜ける!これ一択。
今日は神殿で、魔力の属性と魔力量の判定を受ける日なので、ここからが勝負である。フンス、と腕に力瘤を作る美少女。
「ねえ、マーサ。やっぱり私の子育て間違ってたのかも・・・」
「奥様、僭越ですがよろしいでしょうか」
「なあに?」
「子育てとおっしゃいますが、私から見て、どちらかというとミリア様が奥様と旦那様を育てられて来たような気が致しております」
「・・・・そうかしら」
「ハイ」
「・・・・そうかも」
小声で侍女とやり取りをする母を横目で見ながら、父の隣に座り窓の外を眺めるミリア。
「緊張しなくても大丈夫だからね、ミリア。家庭教師に教えてもらった通り落ち着いて検査に挑めばいいよ」
柔らかくそうミリアにいう父は彼女が生まれた頃から比べると、格段に女性に受けが良くなったらしい。
これもミリアの教育の賜物である。
「女性に優しく!」
「母さまファースト!」
「男は女性を守る存在である!」
幼いミリアが仁王立ちで天を指差し腰に手を当てて、父の執務室で教育を施した結果、社交界での父の評判は爆上がり。
女性蔑視の風潮が多少なりとも大きいこの国だが、女性に安心で親切なアークライド侯爵領として、人気となり女性向けの産業が発達した。服飾産業や、宝飾産業、婦人特化の病院施設や、その子供のための保育施設。
当然、外食産業も女性ウケするものが大流行りなので、他領からのデートスポットとして有名になった。
安心安全、オシャレで尚且流行の最先端。仕事の福利厚生も男女ともに平等に与えてくれる・・・
ミリアの男前さが、父に伝染し、増々豊かになっていく侯爵領なのである。
まあ、尤もミリアはその辺は父任せで、夕食時にデレデレの父と会話をする度に、父が創意工夫し発展させていくので、ミリアが『神童』とかではなく侯爵が『有能』なのである。
侯爵閣下がひたすら
「母さまファースト!」
「娘ファースト!」
を実践した『愛ある結果』である。
ミリアンヌがヨシヨシ、コレでフラグが一本折れたぞ、とニンマリしたのはお察しの通りである。
お読みいただきありがとうございます
母様ファーストいいなあ。
我家は、母様は奴隷です(泣)