嬉しい悲しいどっち?
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「ミリーお前、肉ばっかりかよ・・・」
呆れ顔でレモンの果実水を口にするミゲル。
「だってお腹が空いて死後の世界が見えそうだったんです」
「だからって、お前・・・まあいい、他も食え」
ミリアの目の前には、片手で持つための取手がついたケーキ皿に十センチほどの高さに盛り上がったローストビーフ・・・
現在、空腹で顔色が真っ青になっていたミリアは無事に救出され、王族に与えられたミゲル専用貴賓室でお食事中である。
テーブルの上には、温野菜やサンドウィッチ、デザート等も置かれている。
「うれひいでふ~ 」
「喰いながら喋らんでいいって」
「ふぁい」
ミゲルの背中に隠れて会場のビュッフェコーナーでこっそりコレらを食べようと試たが、これ以上目立つなと止められて貴賓室にドナドナされ、現在に至る。
「まあ、ジジイに言われてたから気にはしてたからな。侯爵に頼んで休憩室にでも逃げりゃ良かったんだよ」
「だってあんなに山盛りに人が寄って来るなんて思わないじゃないですか」
「お前、幻の珍獣だからなあ。侯爵も領地改革のお手本みたいな人だしな」
「珍獣・・・ 」
「だってそうだろ、貴族でお前を見たことある奴っているか? 」
「家族と、マーサとミゲル様。かなあ」
マーサは確か子爵家の三女である。
「ほらな」
口に肉を頬張ってリスのようにもぐもぐしながら首を傾げるミリアンヌ。
「ウ~ン、確かに」
「気が済むまで食ったら会場に戻るぞ」
「え~。帰ってメルちゃんに会いに行きたいな~ 」
「お前な、まだ陛下が入場してないから帰れねえよ」
そういえば、陛下が『新成人の謁見終わり! 』の挨拶しないと帰れないんだった。
「あれ、そういや何でミゲル様は会場にいるんですか? あっちまだ終わってないんじゃ? 」
「高位貴族の子女達の挨拶が一通り終わったから俺はもう居なくてもいいんだ。俺の王位継承権は五番目で、実際継承の機会は皆無だし。アレクが立太子したら継承権は放棄して公爵か辺境伯辺りに臣籍降下する予定だからな」
「へえ~、まあ、そうなりますよねぇ、アレク王子の婚約者はどうなるんですかね」
「今まで通りティーダー家の御令嬢が第一候補のままだ。ただし、アレクが渋ってるからなあ。難攻するだろ。それにな」
「? 」
「お前の姿を見て、アレクが乗り気になってるらしい」
「何に? 」
「お前を婚約者にって事だ」
「えぇ。そんなの予定にないです。嫌ですよ」
迷惑極まりない。
「お前は、神殿教育はされたが王族に嫁ぐための教育は、与えられてないだろ? 」
「まあ、礼儀作法は侯爵家としての教育止まりだそうです」
「だから、王子の意見には両陛下も難色を示してる。政治的なバランスとしても王家に権力が集中しすぎるから爺共も反対するだろう。あと、お前の親父が絶対に許さんだろうな」
「ほうほう」
「王家に嫁いだら簡単に会えなくなるからな。だからお前の親父は神殿に入り浸るのを許してるんだろう」
「そういやそうですね」
父親が神殿で教育を受けることを許さなかったら、母が学園に放り込んだだろう。・・・父ナイス。
「まあ、暫くお前んちに見合いの吊り書きが山のように届くだろうから覚悟しとけな」
「えぇ~。迷惑です」
「・・・しょうがないだろ。聖女認定ができなかったんだから」
「うう・・・」
知らなかった自分にジャーマン・スープレックスをお見舞いしたい。
「取り敢えず、俺がお前の事を気に入ってるって事で、色んな方面に牽制はかけといたから。わざわざ人前で侯爵に断りを入れて、ここへエスコートして連れてきたのもそういう意味だ。陛下も同じ腹積もりがあっての謁見の時の声がけだな」
「ああ、あれ。そういう事だったんですね」
「お前は、怒り心頭みたいだったがな」
「え、バレてた? 」
「お前を前世からよく見て知ってるからな」
「・・・」
「ホレ、ちゃんと噛んで喰えよ」
どうにも微妙な感じでムズがゆい気持ちのミリアである。
結局何も言えずに残りのローストビーフを口に詰め込んだ。
十センチの厚みの、ローストビーフのミルフィーユ風・・・やってみたい・・・