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転生した元社畜男子は聖女になって人生逃げ切る事を諦めません!  作者: hazuki.mikado
終章.承認の儀とハッピーエンド
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公園にて

お読み頂きありがとうございます(_ _)


 彼は、自分の手の中にある物をじっと見つめていた。


 ベンチに座っていると周りの緑が優しいそよ風に揺れた。


 いつもはキッチリと撫でつけられている彼の黒い前髪も額にハラリと風を受けて落ちてきた。



「おーい」



 友人が手を振りながらこちらにやってくるのが見え、手を振り返す。



「よう、圭吾。何やってんだよ、もうすぐ昼休み終わっちまうぜ」



 グレーのスーツを手に、ワイシャツの首元を緩めながらドカッと青年の横に座ると、見つめているスマホを覗き込む。



「おいおい、どーしたんだよ、懐かしいなー。女子の間でメチャ流行ってた乙女ゲーじゃんか」


「んー。あのさ俺の兄貴覚えてっか? 」


「おう、お前の双子の兄貴な。お前にそっくりだったけど就職した先で心不全で死んじまったんだっけ」


「このゲーム作ってたらしいんだ」


「げ、じゃあ過労死で大騒ぎになってた会社の社員だったってことか? 」



 圭吾と呼ばれた青年が頷く。



「こないだエステ界のカリスマって言われてたなんだっけ、名前忘れたけどオバサンがいたじゃんあの人がポックリ死しただろ? 」


「お、おう? うん、いたなそういや。新聞にも載ったんだよな」


「その人が趣味でさ、ネット上で昔のゲームのエミュ鯖を色々立ち上げてて、その中に兄貴が関わってた『乙花』もあったんだよ」


「へー」


「でさ、兄貴が死ぬちょい前に裏ルートがバグってばっかで腹立つってブツクサ言ってたの思い出してさ、やってみたんだよね」


「おまえな・・・で? 」


「裏ルート行くのに表コンプ必須でさ・・・ 」


「やったのか」


「やった・・・ 」


「三十男が、乙女ゲー・・・ 」



 ちょっとだけ二人共が遠い目になった。



「で? 」


「それがさ、全然バグとかなくてさ」


「会社が仕上げたんじゃねーの?」


「いや、これ兄貴が死んでから直ぐに凍結したんだよ。PTA連合の突き上げがすごくてさ。人命を軽んじる会社のゲームは教育に良くないとか言ってさ」


「へー」


「だから、未完成なまま終わってたはずなんだよな」


「でも、完成してたって事か? 」


「うん。しかもこの主人公性格が全然違うんだよ表ルートともバッド・エンドとも」


「えー、どゆこと?」


「表とバッドは純真可憐で、守ってあげなくちゃ~ ってヒロインなんだけど、王弟ルートだとなんつーか脳筋? なんだわ」


「脳筋! ヒロインが脳筋? 」


「しかも筋肉強化メニューに失敗したら、罰ゲーム。運動せずに大人しくお着替えゲーになる」


「何だそれ。何か面白いな」



 思わず笑う友人。



「脳筋聖女なんだよなー・・・ 」


「脳筋聖女! 」



 ブッと吹く。



「それがさ、やってるうちにこの聖女って兄貴にそっくりだなって思っちゃって・・・ 」


「えー・・・お前の顔で聖女。ナイナイ・・・ 」


「顔じゃなくて、中身だよ。何か、かわいい動物好きで、虫オタク。不器用で、一生懸命でさ。乙女ゲーなのに本人が奥手で全然恋愛しねーの。難しくなったら、直ぐに馬力で解決するし、あと大食い! 」


「大食いの聖女! 」



 咥えようとした煙草がブッと飛んだ。



「なーんかストーリー進めてるうちに、コレって兄貴がゲームに入り込んじゃってんじゃね? ってなってさあ」


「オカルトになってきたぞ、オイ」


「いや、なんかさ、死んでもゲームを完成させてやるって気合いでヒロインに生まれ変わったんじゃ? て気になってさあ~ 」


「諦めずに聖女に生まれ変わったってことか? またまた~ 」


「それくらい性格が似てんだよね。あと行動とかも・・・ めっちゃ兄貴を思い出すんだ」


「へえー・・・ 」


「なんかさ、あ、兄貴ここで生きてんじゃんて気になっちゃってさ。ちょっとだけホッとしたんだよ」


「・・・なあ」


「馬鹿みたいだけどさ」


「うん。けどさ、お前ら一卵性の双子だったんだよな」


「あ? うん」


「一卵性ってさ、片方が死んじゃったらもう片方もおかしくなるってよく言うけど、お前全然ピンピンしてたよな」


「うん。まあ、一時は落ち込んだけどな」


「俺もよくは知らんけど、お前が元気なのって兄ちゃんがソコで生きてたからだったりしてな? 」



 そう言いながら、友人はスマホを指さした。



「オカルトだな」


「だな」


「転生聖女に感謝かもなあ~ 」


「諦めなかった兄貴に感謝かもな」



 公園の向こうの小道からスーツを着た青年が手を振る。



「オーイ、(ヒジリ)くーん、課長が呼んでる~ 」


「りょうかーい」


「どーもアイツ語尾を伸ばすからオネエっぽいよな」


「あ、オネエで思い出した! エミュレーターサーバー作った業界のオバサン、両刀だったらしいな」


「うひゃひゃ、マジですかい」


「らしいな~。まあでもその人にも感謝だな。こうやって兄貴に再会させてくれたからな」


「ま、そういうことにしとこうぜ。昼休みマジで終わるべ」


「おう」



 二人はベンチから立ち上がり、会社の同僚の方に歩いて行く。



 都会の中にポツンとある公園を、優しい風が吹き抜けていった・・・



明日完結です( ╹▽╹ )

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