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承認式始まります✧◝(⁰▿⁰)◜✧
聖女や聖王の『承認の儀』は各国に対してのお披露目という意味合いが強いが、生まれた家の家格とは関係のない身分をこの世界そのものより賜る事を知らしめる儀式でもある。
ミリアンヌはアークライド姓、ミゲルはハイドランジア姓を捨て神の姓である『ルクス』を名乗る事になる、つまり神の子供、神の家族になるという事を発表する場でもあるという事だ。
これを経た後、彼らは目に見える権力は有しないが、国のトップである国王や皇帝等と同列かそれ以上の存在として認められる。
因みに余談だが、各家の家系図から二人は抹消されるのではなく姓がセカンドネームの様に間に入った形で表記される事となる。つまりミゲルの場合は、『ミゲル・ハイドランジア・ルクス』となり、ミリアの場合は『ミリアンヌ・アークライド・ルクス』となる。
この儀式以降は身分制度や家格による婚姻の強制は全くなくなり、生涯独身を貫くも良いし伴侶を得て結婚する事を選んだとしても『聖なる者』の資質そのものには無関係なので本人の意思が最優先される。
まあ、身分制度そのものから逸脱する存在の彼らに対する婚姻の申込みは誰でも自由となり罰則はないのだが、本人に受付けて貰えるかどうかは別ということでもある・・・
ただ、聖女や聖王が生涯独身を貫く者が歴史的に多いのは普通の人以上に長生きする者が大多数だからだと言われている。
誰しも愛するものが先に失われて行くのを見守るだけは辛いだろうと云うのが定説である。
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「まあねー、『復活』と『再生』で若返ってんの繰り返すとさー、伴侶がジジババになったらシラケるわよね。お相手は若返んないんだからさぁ」
「・・・そ、そうだな。確かに」
目を白黒させるミゲル。
「だからアタシは独身で通したけどね~、アンタ達はお互いがこの世界で唯一釣り合いが取れてる相手同士だからさ結婚もいいかもだけどさ、余所見が浮気になっちゃう事もあるからね~ そこん所もよく考えなさいね」
「・・・いや、浮気とかしねえよ」
焦るミゲルを見ながら、ニヤニヤするお爺ちゃん。
「まあ、アンタたちは見たところ『ニコイチ』だからね。前世からの縁は深いしさ。二人一緒でやっと一人前だわよ」
「そうなのか」
「今のところはねぇ。祈りの広がり方が違うのよね。ミリーは縦、アンタは横って感じなのよ」
「?」
「今日、実感するだろうからよく見てるのよ。自分とミリーの違いを。どっちが優れてるって事じゃなくて、二人で完成形なのよね。面白いわよね」
うふふと嬉しそうに笑う大神官である。
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入場の時間直前にミリアが二人の元に到着した。
「お、お待たせしました」
思わず頭を下げそうになるが二人に止められる。
「大丈夫、時間ぴったりじゃ」
「頭を下げたら飾りが落ちるだろ。ほら」
ミゲルがエスコートの為に左手を差し出した。
「緊張しすぎで両手と両足が一緒に出ちゃって、部屋を出た所ですっ転んだんです! 」
「「・・・」」
「それで、控室に戻ってハイヒールをやめてかかとの低いサンダルに変えたらドレスの丈が合わなくなって・・・」
「「・・・・」」
「マーサにもう一回着付けをし直して貰って・・・」
「「・・・・・」」
「顔からコケたのでメイクもやり直してもらって・・・」
「「・・・・・・」」
「遅くなってごめんなさい」
「「あー・・・・・うん」」
お爺ちゃんが笑顔で、
「ミゲル、ホレ。手じゃだめだ。肘な」
ミゲルが無言で肘を差し出した。
「結婚式みたいに見えるかもしれんが気にせんようにのう」
ホッホッホとお爺ちゃんの陽気な笑いが廊下に響いた。
ミリアが顔も耳も真っ赤になったのはご想像通りである。
その頃控室では
「お嬢様、流石です・・・」
マーサが疲労困憊でソファーに突っ伏していたとか、いなかったとか・・・
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大聖堂の両開きのドアが神官達によって開け放たれると先ず現聖王である大神官が現れ、そのすぐ後をミゲルがミリアをエスコートして歩く。
貴賓席の招待客達は簡易の礼で頭を下げたまま三人が自分達の眼の前を通り過ぎていくのを待っている。
静かな聖堂の中に動く三人の衣擦れと僅かに靴音だけが響く。
中央に設えてある大理石の壇上に三人が上がると神官達がクリスタルボウルを鳴らし、それに答えるように招待客達が顔を上げて正面に並んだ聖王達に視線を向けた。
百年以上生きている白いヒゲを生やした老人と、その後ろに並ぶ美しい若者が二人。
ハイドランジア王家特有のラピスラズリの瞳には紛れもなく神聖な金の星。この聖堂に集う世界のトップ達は彼なら次期聖王と言われても納得できるミゲル・ハイドランジア王弟殿下である。
そしてその左腕にエスコートされ立っている少女。まだ少しあどけなさの残る顔に左右対称に配置された、美しい透明なタンザナイトのような青みがかった紫の瞳に紛れもなく浮かぶ神聖な金の星。
今迄名は知らぬ者も多かったが、大神殿で秘匿された聖女がいるらしいという事は公然の秘密とされていて、ほんの最近になって世界中にその名が駆け巡ったミリアンヌ・アークライド嬢。
まるで婚姻式のように仲睦まじく立っている姿に誰ともなく、ほう、と感嘆の溜め息が漏れる。
「これより聖王及び大聖女の承認の儀を執り行うものとする」
聖王様の声が聖堂に響き、招待客と神官達が恭しく一礼をした。
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