生存本能が鍵ですのよ
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「ミリー」
殿下の声に振り返ると、メルと一緒にこちらに向かってくるミゲルが見えた。
「どうやら、本来の魔獣の巣があるところが分かったぞ」
マーロウ親子も一緒に立ち上がると、ミゲルに臣下の礼をする。
「困ったことになった」
「? 」
「将軍も、一緒に来てくれ。ああ、シンフォニア伯爵達ももちろん一緒にだ」
魔道士長親子はミゲルにもう一度軽くお辞儀をすると、将軍と共に冒険者達が固まっている場所に急いで歩き出す。
「困ったことになったってどういう事ですか」
ミゲルの差し出した左手に手を置き、エスコートされながら歩いて行く。
「本拠地が隣国らしいんだ」
「えー・・・、ちょっとそれ困りましたね・・・ 」
騎士団が勝手に入って行くと隣国にとっ捕まるではないか・・・
「そうなんだよ」
ため息をつくミゲル。
「依頼そのものは騎士団送りになっちまってるから、ギルドが勝手に介入出来ないしな。かと言って騎士団じゃ国同士の面子があって揉めるだろ? 」
「・・・・」
むうぅという顔になるミリア。
「だから額に皺を寄せるんじゃない。癖になるぞ」
眉根に指を置いてシワを伸ばすように引っ張るミゲル。
「困るとこの顔になるんですよ」
「知ってる。昔からだからな」
「・・・・」
××××××××××
大勢が集まる中、レーダーの中を動く青い六つの点は国境を越え、隣国の森の中で動いている。
赤の点も三つあり、それらはハイドランジア側の森の中のようだ。
「虫が国境を越えてやって来てるとは思わなかったな・・・」
ギルド長は腕組みをして笑っているが、将軍は苦虫を潰したような顔である。
「これは陛下に判断を仰がねば国際問題になりますなあ・・・」
「俺達は国は関係ないから良いけど、今の時点では依頼が無いことになってるんだよ。だからどっちにせよ隣国には行けないんだ」
ジルとサムはそう言って肩を竦める。
「あちゃ~、どっちにしても今すぐ対応は無理ってことですね・・・」
見上げるとミゲルが頷く。
「虫って都合のいい場所を見つけると何度でもやってくるんですよね」
ミリアが小首を傾げてそう言うと、皆がこっちを向いた。
「この村に向かって子育てのために何回でもあの蜂はやって来るってことだよな? 」
「そうですね」
「雛を巣に返したらワイバーンは撤退したけど、それは雛を攫われた連中だけだ。他の連中は今回なんで来なかったのかな」
「多分ですけど、蜂の通り道が変わったんじゃないかと・・・ほら見てください」
全員がマリンのレーダーの乗っかった地図を見つめる。
「地図上の赤の点はワイバーンたちです。彼らの住む森の上を突っ切るとこの村に最短で来れるんですけど、そうなると村の端の例の広大な畑を通ることになります」
「あ。なるほど」
「あと、雛を攫ったであろうルートを見るとこの間のカマキリのダンジョンの森に近づきます。彼らとしては、あの森も使えない場所になったので恐らく避けるでしょう。そうなるとこのルートを通るしかなくなりますよね」
ミリアが指し示したルートは、確かに畑からも森からも遠いが、言い換えれば寄り道ができない様な一本道である。
「蜂は最初から子育てに適してる土地だと踏んでここに決めたんでしょうけど・・・」
「お前のせいで難しくなってきたってことか? 」
ニヤニヤ笑うミゲル。
「まあ、そういうことになります。でも畑は私じゃ無いですよ! 」
「でもお前が耕しちまったから浸透しちまっただろ」
ミリアがジト目でニヤニヤ笑うミゲルを睨むと
「もう、めんどくさいですねえ」
ぷうっと膨れるミリアンヌを宥めるように頭を撫でるミゲル。
「まあ、そう言うな。俺達の都合で魔獣は動いてくれんからな。おいメル」
「はい、御主人様」
「蜂は畑を間違い無く避けた」
「はい」
「成体にも影響があるのか? 」
「はい。恐らくですが若干生存本能が抑えられるのだと思います」
「ほう」
「競争心や闘争本能が抑えられるため大人しくなり、狩りをするという行為そのものがおざなりになる事が予測されます。ですので避けたほうが良いと自然と本能で判断したのではと推察致します」
「「ほう。そういうことですか・・・」」
魔道士親子が目をキラキラさせてメルに近寄る・・・
あ、メルが捕まる・・・
「それでは吾輩は護衛の職務に戻ります故」
一礼するとメルは消えてしまった。
「逃げたな・・・」
「そうですね・・・メルって危険察知能力が高いですね・・・」
王宮魔道師親子がガックリと肩を落としていた・・・・
○タクにとっては全て研究対象。