聖女ぬこに乗る
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直ぐにでも出発出来るように準備をしようとソファーから立ち上がりかけた時、ミリアのポケットから『カシャン』という音と共に例の光るボタンの入った小瓶が絨毯の上に落ちて転がり、大神官の靴の先で止まった。
「ん? コレは」
「あ、そうだった! ソレ昨日から急に光り出したんですよね。この間の討伐の時の物らしいんですけど。私の着てたブラウスに付いてたボタンです」
「ああ、急に成長した時のかね? 」
お爺ちゃんが拾い上げて、目の前で瓶を降ると鈴の音が聞こえ、ホロホロと金の雪の様なモノが舞う。
「これは、ミゲルの神聖力じゃ」
「え、どういう事? 」
メルがヒクヒクと鼻を動かす。
「御主人様の匂いです」
「何で一個だけ光るのかな? 」
ウィリアムが首を捻る。じっとお爺ちゃんが瓶を見つめて――鑑定してる?
「ああ、コレは一個だけミゲルの血が付いてるみたいじゃな」
視線を瓶から離して、
「討伐の日にお前さんを神殿に抱えて帰った時、顔に引っかき傷が出来とったわ。胸のボタンが弾けて怪我をしたと言っとったから、ワシがちょいちょいと治したんじゃ。その時のボタンじゃろう」
「光ってるって事はどういう事ですか? 危ないの? 」
焦るミリアの背中に冷たい汗が流れる。
「いんや、寧ろ生きてる証拠じゃな。ミゲルが神聖力を使ってるから反応して光っとるようじゃ。どういう状況なのかわからんが、どうも祈りの類じゃな。魔法じゃないのう・・・あ奴が祈る? はて? 」
腕組みをして考え込んでしまうお爺ちゃん。
「ミリア殿。お願いで御座います、一刻も早く御主人様のところへ。吾輩が全力でお連れしますゆえ」
「うん。兎に角行こう! あ、格好はコレで良いかな。もっと動きやすくないと駄目かな? 」
今日の格好は、乗馬服を模した小花柄の刺繍が入ったツーピースのキュロットスーツと編み上げブーツだ。そして髪型はマーサのイチオシ、ツインテールである。
一昨日、王妃様からプレゼントと称して大量に持たされた中の一品である。
「いいんじゃないかのう。格好はどうあれ、必ず杖を持っていきなさい」
「持ってる! 首につけてる」
衿元から手を突っ込みひっぱり出すと、手首に鎖を巻き付けた。
「では吾輩がお連れします。長距離を跳びます故、少々お待ち下さい」
そう言うとメルの全身がキラキラ光ってみるみる間に体が大きくなり、ニメートルサイズの『でっかい猫』になった。背中にはいつもは隠してある羽根が生えている・・・
「「「デカい・・・」」」
「この姿の方が魔素の取り込みが早く魔力の巡りが良いのです。ミリア殿、どうぞ背中にお乗りください」
コレには壁に擬態していた執事長とマーサも驚いたようで、思わず目を剥いて見つめている。
「わかった! じゃあ」
何故か袖を捲りあげて、伏せているメルの背中を跨ぐご令嬢。俗に言う馬乗りである。
「首に手を回して下さい」
「わかった! 父様、お爺ちゃん! 行ってくるね! 明後日ですね! 」
「最悪の場合は、神殿に直接来れば良いでな」
「気を付けるんだよ。何かあったらコレを使いなさい」
ウィリアムに魔法便の便箋と万年筆を渡された。
ペンと簡易の封蝋シールを胸に、便箋はキュロットのポケットに折り畳んで突っ込んだ。
「メル! 行こう。ミゲル様の所へ」
「それでは、参ります」
メルの足元に金色に輝く魔法陣が現れ光り始める。
「行ってきまーす! 」
まるで近所の公園へ子供が遊びに出掛けるようにミリアの声がすると共に大きな猫に跨った少女の姿は消えてしまった。
「相変わらず元気じゃのう~ 」
ホッホッホッと大神官様の笑い声が部屋に響いた。
××××××××××
「おい、皆大丈夫か」
「ひどい目にあったな」
「見えん! 何処だここ」
真っ暗な中、体の半分位土砂に埋もれながら声を掛け合いお互いの無事を確認する。
暫く全員が意識を失っていたようで・・・
「うー、頭が痛え」
「目が回るぜ」
「土が柔らかくて助かったみたいだなぁ」
口の中に土が入ったのか、誰かがペッペッと唾を吐き出す音がする。
「土の中だよな絶対」
「上から落ちてきたんだから、穴がある筈だよな。何でこんなに暗いんだ」
ポウッと光が浮び上がる。
「お、サンキュー。ミハイルか」
「光魔法か凄えな」
お互いに顔に泥が付いて真っ黒だ。
「人参とか玉ねぎと一緒に冷暗所かよ・・・」
明るくなると、目が慣れてきて周囲の状況がわかり始める。
畑の収穫物であろう、根菜類が自分達の周りに土だらけのまま転がっている。
今自分達のいる場所は大人が五人位四つん這い通れそうな横幅は広いが高さのないトンネルの様な場所で土の壁から何かの植物の根があちこち飛び出しているのが見える。
「地面が傾斜になってて転がったのかな? 」
上を見ても横を見ても土の壁と天井。落ちてきた穴は無さそうだ。
「進むしか無いだろうなじっとしててもなあ」
ミゲルは移転魔法も使えるが、ここから地表迄の距離が分からないとちょっとばかし使いにくい。
出たつもりで跳んだ先が土の中だと窒息する可能性があるからだ。
自分一人だけなら何とかなるかもしれないが、それも博打みたいなものだ・・・
それか、いっそ村のギルド出張所まで跳ぶか?
ウ~ンと考えていると、
「取り敢えず地上に出るか? 」
「情けねえなぁ、おい。這っていくしか無さそうだぞ・・・」
「お、了解だ」
三人は四つん這いで穴を進み始めた。
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