丸い虹
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何かがあった―
御主人様に何か困った事が起こったらしい。主従の契約をしているせいで御主人様に異変があった時は落ち着かなくなるのだ。
吾輩は聖獣と言われてはいるが本来は魔物であったろうという事を自分でも解っている。だが沢山の神聖魔法を生まれる直前まで注ぎ込まれたお陰で今は御主人様やミリア殿、セバス殿達と仲良く、そしてとても愛されて暮しているという事を幸せだと感じている。
今は御主人さまの厳命を受けてミリア殿の護衛を務めているが、本来の吾輩の役目は御主人様の警護主任だ。
一時もミリア殿から離れてはいけないと御主人様は仰って出かけて行かれた。
ミリア殿には王家の間諜である『蝙蝠』と『蝶』が付いている。
しかし吾輩に負けるような護衛にミリア殿を任せる訳にはいけないからと御主人様は仰ったのだ。吾輩は御主人様に信頼されてミリア殿を任されたのである・・・
職務怠慢にならぬようミリア殿をお守りするのが今のお役目・・・
しかし、尻尾と髭がビンビンと御主人様の危険を訴えている。背中までゾワゾワする。
吾輩はどうすれば良いのだろうか。落ち着かぬ。おや、アレは何だろう・・・
メルは姿を消したままミリアンヌの部屋の窓から空を見上げた。
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「おいおい、アレなんだ」
街を行く人々が立ち止まり空を見上げた。
雨も降らないのに空に丸い虹が浮かんでいるのが見える。
「ありゃあ、久々の大神官様の作った虹だよ。何年ぶりかねえ」
「おお、そうだそうだ」
「なんか絶対、落書きするんだぜ」
みんなが笑いながら空を見上げている。大人も子供も貴族も平民も関係なく皆が一斉に空を指さしながら笑ったり口笛を吹いたり、拍手をしたりして喜んでいる。
皆が大神官を慕っている証拠である。
「あ、字になったぞ、えー、なになに、『大聖女と新聖王の降臨の正式認定』だって、えぇ! 」
ハイドランジアの王都は一瞬無音になった。
『大聖女と新聖王の降臨の正式認定』
『大聖女ミリアンヌ・アークライド』
『新聖王ミゲル・ハイドランジア』
『二人の承認の儀の日取りは追って王家より発表予定』
空を掲示板代わりにした大神官の虹の魔法はその日の夕暮れ過ぎまで消える事なく空に鎮座したままであった。
その日はハイドランジアの王都中が真夜中になっても大変なお祭り騒ぎだったのは言うまでもない―
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「あ~、聖王様が痺れを切らしちゃったみたいだわねえ・・・」
王妃の私室のバルコニーでお茶を飲んでたオフィーリアがしかめ面になった。
「まあ、仕方ないわね。貴族院がガタガタしないうちに後始末をつけなくちゃねえ・・・」
頬に手をやりながら呟く王妃様。
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「あー。やりやがったあのジジイ」
「やられましたねえ」
一方、国王の執務室の窓から城下の騒ぎを覗いていた陛下と宰相が空を見上げていた。
「まあ、聖王様は面倒くさいの昔からキライですからねえ・・・」
宰相が額に出来た縦皺を伸ばす。
「確かにな。まあ、手間が省けて良いか。神殿からの正式発表だから誰も文句は言えんだろうしな」
ため息を付きながら玉座に座る。
「休む暇なしだ。おいモース、書類持ってこい」
「認定式の日取りのヤツですか?」
「他に何かあるのか? 」
「では、直ぐに」
モース宰相は一礼をして執務室から出ていった。
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ミリアンヌが光る小瓶をソファーで眺めていると、ダニーの声が外から聞こえた。どうやら自室のバルコニーにいるらしい。
「姉さま、空を! 」
「あらあら、聖王様。派手だわね」
続けて母の声が聞こえたのでミリアンヌも自室のバルコニーに出て空を見上げる。マーサも一緒に付いてくる。
「うわわ、凄い! 一気にお知らせ終わっちゃった・・・」
「やっぱり凄いですね聖王様は」
侯爵邸のタウンハウスの庭でも召使い達が空を指差しながら騒いでいる。
「お爺ちゃん、空に虹で文字書くとか・・・そんなやり方まだ教えてもらってない・・・」
皆が感動している中でミリアンヌだけが複雑な顔をしているのであった。
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