クリスタルのボタン
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ワイバーンは翼竜だが、竜族ではない。どちらかと言うと空飛ぶ爬虫類に近い。普段は海や川近くの魚や森の小動物を餌にしていて、人の集落に近寄る事はあまり無い。身体もそんなに丈夫な生き物では無いので人間を嫌う傾向がある。
それなのに村に近寄るのは、恐らく畑の下にいる生き物のせいなのだろうとジルは言う。
「そもそもあいつ等は人の近くに来ないからな。森や川っぷちで小物を喰ってる奴らだぞ」
「まあな」
答えた男は黒髪黒目の厳つい男。もう一つのパーティーリーダーだ。
「だが、土の中の奴らを追いかけてるとして何が目的だ?」
「それが分かったてたらとっくにクエストなんか終わってるわよサム」
マリンがジト目になって言い返す。ちなみにサムはマリンの恋人である。
「原因究明より現状回復を領主は望んでる」
ジルが肩を竦めた後、両手を上げた。
「ワイバーンのねぐらを突き止めて討伐だとよ。土の中の奴等は実はな討伐対象じゃねーのよ」
ジルは頬杖をついて嫌そうに眉を寄せる。
「は? どういう事だ」
「対象が不明だと、クエストを依頼できねえから分かってるワイバーンだけで依頼してあったらしいんだ。辺境だろ? めちゃくちゃ大雑把なんだよ」
「「「・・・」」」
「着いたら畑は穴だらけ。村の連中に泣き付かれてどうするよってなって、ギルドに『探査』を使える奴を追加で呼んで貰ったんだよ」
成程ね、と納得する。大雑把なのは中途半端な田舎のギルドには良くある事だ。
「じゃあ、まさかと思うが追加人員はジル達の自腹なのか?」
ミゲルがまさかね、と思いながら一応確認をする。
「いや? 領主に追加請求はするぞ。そういう約束だ」
「二つのパーティーと単独S級冒険者で合計で七人だぞ、大丈夫かよ? 支払いが」
サムもため息をついた。
「相場を知らんのかもなあ・・・」
遠い目になるジル。
「人の財布の心配より仕事片付けて一杯引っ掛けたほうが良くね? 」
ジューンが呆れ顔で提案する。
「「「「「そうだな」」」」」
全員が納得した。
××××××××××
「なあ、俺嫌な予感がする。この感じ」
「俺も」
「俺もだ」
畑の中、辛うじて残っている陥没していない地面で三人の男どもが頭を抱える。
「コレな、虫だぞ多分」
「だよな~ 穴のサイズからして中型犬サイズの虫の魔獣だろ? そんなの居たかな~ 」
サム、そしてサムのパーティメンバーの中年のオッサン魔道士テリー、そしてミゲルだ。
「ワイバーンの餌かな? 人の居る所まで追いかけてくるんだぞ好物か? 」
「あいつら魚とかウサギが好きだろ? 」
「虫な~・・・ 」
ミゲルがこの前のカマキリを思い出してうへえとなる。
「こないだ出来たばっかりのダンジョンの主がカマキリだったんだよ」
「「マジで? 最悪じゃん」」
「瘴気が流れ出してたから汚染されてた他の虫の魔獣がコッチに逃げてきたヤツとかだったら嫌だな」
「うげえ。王都の本部に連絡しようぜ」
「領主が納得すりゃ良いけどな」
「「・・・」」
今回のクエストのリーダーはジルだ。彼の指示を仰ごうという事で立ち上がる三人。
一歩踏み出した途端に足元の地面が崩れ落ちた。
「うわああ、いつの間に! 」
「「マジか~!」」
畑の玉ねぎと一緒に三人は、真っ暗な穴の中に落ちて行ったのである。
××××××××××
「お嬢様」
クローゼットの整理をしていた、マーサとメイド達が部屋にやって来た。
最近急激に体型が変わってしまったミリアは着られる服がなくなってしまい、侯爵邸の侍女頭マーサと美容班が現在大急ぎでクローゼットの整理を進めているのだ。
以前のミリアなら筋トレをしているところだが、今日はお爺ちゃんに出された宿題である過去の黒歴史をノートに書きとめていた。
「はっ! ふあい! 何? 」
慌ててノートから顔を上げると、ミリアにクリスタルのボタンの入った小さな瓶を渡す侍女頭。
「お宿題の最中に申し訳ありません。実はこの瓶に入ったボタン、以前討伐に行った際のお嬢様のブラウスの飾りだったのですが、王弟殿下が服から弾け飛んだ時に拾っておいたと言われて、私がお預かりしていたものなのです」
差し出された瓶を覗くミリアンヌ。
「んん? ナニコレ? 」
「判りません。部屋の隅に置いてあったのですが、急に光りだしまして・・・」
瓶の中のクリスタルで作られたカットボタンのうちの一個だけが金色の光を帯びてキラキラしている。
「以前お屋敷の中に降ってきた金の雪と似ていると思いまして」
「えー。自分じゃ見てないからなあ。こんなのだったの? 」
そうなのだ、本人はひっくりかえっていたので見ていないのである。
「こんな感じでしたね」
マーサ以外のメイド達も、コクコクと首を縦に振って頷く。
小さな瓶の中にホタルの様に点滅する金色に光るボタンが一個だけあって、その周りを小さな雪みたいなものがフワフワ浮いている。
「何で一個だけなのかな? 」
「判りませんが、そういえば一個だけ汚れてましたね。ちゃんと掃除はしましたけど」
マーサも首を捻っている。
「あのう」
一人のメイドが手を上げた。いつもマーサの代わりに朝の着替えを手伝う役目の女性だ。
「どうしたの? 」
「ボタンを掃除した時の布を処分したのは私なんですが、あの時の汚れって血じゃないかと思うんですが」
「「え? 」」
「厨房でよく手伝いをするんですけど鶏とか捌いた後の布巾を洗うんですが、似た感じの汚れが付いてるの見るんです。まさかと思って忘れてましたけど・・・」
「・・・誰かの血? 」
首を傾げるミリアの手の中で瓶が金色に光っていた。
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