お茶会の終了
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婚約者選定の為に開かれた、王家主催の茶会は三日間に渡って無事恙無く終了の運びとなった。
国中の貴族の若者達がこの初めての試みを率先して受け入れ、今迄に無かった王宮貴族派と領地貴族派の子息子女の直接的な交流を自主的に行った。
貴族の婚姻は家同士の家格の釣り合いを考えたモノが殆どだったがこれをきっかけに恋愛結婚という数少ない事例が増えるのも時間の問題かもしれないと、どの参加者達も口にはせずともこの三日間の間に一度くらいは考える機会はあっただろう。
領地貴族同士の婚姻に至っては直接の顔合わせをしてお互いの人柄を知ることは不可能に近いものが多く、釣書という形のお見合い婚が普通だったが、今回の王子の茶会でそのやり方も変化していきそうな気配を感じたものも少なくはない。
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アレク王子が『春の庭』の噴水近くに設えられた壇上に上がり、閉会の言葉を宣言する。
その近くに立つのは側近であるクロード・モース侯爵家令息とハリー・ストレリチア伯爵令息。そして一段下の場所ではあるがエリーナ・グランド公爵令嬢の姿があった。
彼女の姿は初日とは打って変わった大人びた装いのドレスで、ハイドランジア王家を思い起こさせる深いブルーと金の星が散らばった、見たことも無いような美しい生地で仕立てられており、その金色の薔薇の刺繍はアレクシス第一王子の髪の色を彷彿とさせ、彼の婚約者はエリーナでほぼ確定だろうと周りに匂わせるのに充分効果的な演出であった。
「今回の王家主催の三日間の催しにおいて、皆が有意義な期間を過ごせたとを嬉しく思う。ここで得られた経験と各自の交流の実績を活かし各家の発展、ひいてはこの国の発展の為に皆が力を発揮してくれる事を心より願っている」
閉会の宣言と共に王子が片手を上げると同時に貴族の子息子女そして護衛騎士達や王宮勤めの使用人達、その場にいる全員が膝を折り敬意を払う姿勢を示して三日間続いた王家の初めての試みは無事終了したのであった。
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丁度その頃、侯爵家の紋章の入った六頭立ての豪華な馬車に揺られながらミリアンヌとマーサ、そして侯爵家当主ウィリアムの三人が自邸へと向かっていた。
「なんだって、お茶会最終日当日の忙しい時に呼ばれて、王妃様と着せ替えごっこをしたんでしょうか?」
初日は参加したものの王家主催のお茶会にはその後一切参加せず王妃の私室のみで着せ替えごっこ遊びが行われるというのは、ちょっとばかし珍しいのでは無いだろうかと首を捻るミリア。
「そうだね、コレは極秘なんだけどね。エリーナ嬢を最終日に婚約者として内定している事を王家としては示したかったが、本人達には知らせて無かったたため、王宮にエリーナ嬢をスムーズに最終日に招く為に親しくなったばかりのミリアも一緒に呼んだんじゃないかな」
「父様、アレクシス王子の婚約者はエリーナ様に内定してるんですか? 」
「そうだねえ、少なくとも妃殿下とグラント公爵の間では内定してたみたいだね。但し彼女は国外に留学していたため筆頭婚約者じゃなかっただろう? だから今回のお茶会を上手く利用したかったんだろうね。貴族院の決めた婚約者候補達も無視できないけどアレク殿下が今回気に入って選んだ事にすれば波風も立たないだろうしね」
「そうですね」
「多分、貴族院の慣習を何とかしたかった王妃殿下が今回のアレクシス王子殿下の招待状の失敗を逆手に取ったんだろうね。恐らくは王妃殿下の仕込みだけでは無く他にも協力者は沢山いるんだろうけど」
「王妃様が慣習を? 何故ですか」
「あの方と国王陛下は恋愛結婚なんだよ」
「えぇ~ 知らなかった」
「王妃様の祖国リンデン公国には側室という制度が建国当初から無い国なんだよ。妃殿下は婚約者候補というこの国の慣習に対して嫁いでからずっと疑問を持っていたようだ。ひょっとしたら嫁ぐ前からかもしれないけどね。側室制度はこの国ではもう無くなった制度でもあるんだけど、婚約者候補という制度でもない慣習はその側室制度のあった頃の名残りなんだよ」
眉を顰め父を見て、首を捻るミリアンヌ。
「ひょっとして筆頭婚約者が、正室で他の方は側室ですか? 」
「そういう事さ。国王も一夫一妻という制度が導入されてからもう五十年経ってるんだから、無くなっても良いはずの古い慣習だ。例えば恋人が八人いるって僕にしたらおかしな事なんだよ。でも頭の硬い老害達は側室制度を未だに復興しようと目論んでる馬鹿が多少なりともいるんだよ」
ああ、だから未だに慣習通り続けてる? あれ、ゲームでも婚約者候補って居たよなと思い出し考え込むミリア。
「僕は愛する妻は一人だけで十分だ。今のフィリップ国王もそういう人だし、前国王もそうだった。貴族院だけがその流れに逆らってる。自分達の権力が王家に入り込む隙間を作るのに必死だからね」
何故か嬉しそうな極上の笑みを、突然浮かべるアークライド侯爵当主。
「我がアークライド家は本来は『武闘派筆頭侯爵家』だ。知ってるね?」
頷くミリア。
「けして他国との戦いだけが武闘派の役目ではない。王家の『剣』では無く、我が家は王家の『杖』だ。元々魔法使いの家系だからね。古くは王家から降嫁もされている、強い魔法を継承する一族なんだよ」
え、知らなかった裏情報!そんな設定があったんだ!
目を大きく見開くミリアンヌ。
「当分の間は王宮内の狸狩りが楽しそうだよ」
そう言いながら、馬車の中に所狭しと置かれている洋服や靴の入った箱を見回すウィリアム。
「今回のは王妃殿下の趣味が多かれれ少なか入ってるのは否めないけどね」
首を傾げるミリアンヌ。
父の笑顔が深くなる。
「まあ、ミリアに似合うデザインのドレスを妃殿下に作って頂いたのは色んな意味でのお礼と思って貰っておけばいいよ」
そう楽しそうに笑いながら言う父であった。
3章完結です(ノ◕ヮ◕)ノ*.✧