攻略の難関は・・・
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春の庭のガゼボでカイル皇子とティリア嬢が久しぶりに顔を合わせ懐かしい話しに花を咲かせていると
「失礼。そろそろ令嬢をお連れしても? 」
と、いう声がかかる。
振り返ると、そこにも立っていたのはこの国の第一王子、アレクシス・ハイドランジア。
彼が柔らかな笑みを湛えて立っていた。
「カイル皇子、ティーダー侯爵令嬢。ご歓談中のところ、申し訳ありません」
慌てずに立ち上がり、優雅にカーテシーをするティリア嬢。
「王子殿下直々にお迎え頂くとは恐悦至極にございます」
顔を伏せたままでティリアが礼を述べる。
「ああ、気にしないで。令嬢をエスコートするのは当然だからね。顔を上げてくれる? 」
柔らかなハニーブロンドが陽の光に当たるとキラキラと輝き、王妃によく似た美貌が際立って見える。王家特有のラピスラズリの瞳の中に煌めく星空みたいな金色の輝きは、聖属性の魔力を操れる証だ。
まだ十五歳と若いが、優雅な仕草と嫌味のない教養ある話術。女性なら誰もが見惚れる美貌のハイドランジアの第一王子。
屈託のない笑顔と優しい物腰。高圧的な態度を取ることのないその人柄は若い女性を中心に国中に人気があり、近隣諸国の王公貴族の女性達にもダントツ人気である。
「申し訳ないのだけれど、個別の茶会の時間だからね。皇太子殿下、少しの間彼女をお借りいたします」
彼がニコリと笑うと、遠巻きに見ていた令嬢達から黄色い声が上がった。
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王妃の薔薇園にティリア嬢をエスコートしながら
「トリステスの皇太子殿下と幼馴染だと聞いています」
と王子が口火を切る。
「はい、学園に入学する直前までアチラで過ごしておりました。その時に懇意にさせて頂きました」
ティーテーブルの前迄、エスコートして自然な動作でティリア嬢に椅子を勧めて腰掛けさせる。
「そう。他の方は? 」
「第二皇子ゲオルグ様とロザリア皇女様とも懇意にさせて頂きました」
「ロザリア皇女ねえ・・・」
ティリアがふと、前を見ると眉根を寄せる王子が目に入る。
「彼女は我が国の王族に対して余りにも遠慮が無さすぎでね」
ああ、王弟殿下の事ですね。
と納得するティリア嬢。
「国際問題に発展しかけたんだよね」
「・・・はい」
「君は彼女の手綱を取って大人しくさせることは出来そうかな? 」
「?」
言われている意味が分からないので首を傾げてしまうティリア嬢。
「忌憚のない意見を聞かせてくれると有り難いんだけど、君は私と結婚したいと思ってる? ああ、君の前の伯爵家のご令嬢達にもこれは答えてもらった質問だから、君だけに聞いてる訳じゃないからね。心配しなくてもいいよ」
「それは・・・」
戸惑うティリアをラピスラズリの瞳がじっと見つめる。
「それと、君は貴族である以上は自分より上の家格の者からの婚姻の申込みを断ることの出来ない立場だ。それは理解できてるよね?」
「はい」
「それってお相手がこの国の者じゃなくても同じ事だって理解してるよね? 」
「もちろんですわ」
「じゃあ、いい」
満足そうに頷くアレクシス王子。
「この後のダンスをエスコートさせて貰えるかな? 」
「勿論でございます、あの王子・・・」
「うん? どうかしたの? 」
「先程の質問の答えはしなくても宜しいのでしょうか? 」
「ああ。あれね、君は私との婚姻を望んでいないのでしょう? 」
「え、あの」
「帝国の皇太子殿下が好きなんじゃないの? 顔に書いてあるよ」
「!」
思わず頬を両手で触ってしまうティリア嬢。
「ほらね」
クスクス笑う美貌の王子。
「ソレが答えだよね」
不敬に当たるのか、恥ずかしがって良いのか、どうするのが正解なのかが分からずに赤くなったり青くなったりしているティリア嬢を横目に
『一番の難関はエリーナなんだよね』
表情に出さずにうむむ、と考えるアレクシス第一王子であった。
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カイル皇子はティリア嬢を優雅にエスコートして去っていくアレクシス第一王子達を名残惜しげに見送る。
自分より九歳も年下の王子に嫉妬する自分が情け無くて溜息をついた。
その後、庭園からダンスホールへと移動したもののハイドランジアの貴族子女達の熱い視線にいささか辟易してしまい、人の疎らな場所へと移動する途中で幼馴染の護衛騎士から報告を受けた。
「どういう事だ、ディーン」
カイル皇太子は、歩きながら落ち着かない様子で護衛騎士の報告を聞いていた。
「だから言ってるだろ。この国の双子の王子に、殿下にティリア嬢に婚姻の申込みしろって伝えとけよって言われたんですってば」
ディーンは、むうっという顔をしながら自分の主に報告・・・というより文句を言う。
「・・・わからん」
皇子は眉根を寄せて考える。
「俺だってわかりません。あと、ホントにアレは王子だったのかなって思ってますけど・・・」
湖のある区画へ入ると、主の前で腕組みをして一瞬立ち止まって考えるディーン。
入口付近に待機しているハイドランジアの近衛たちが敬礼するのを手で制しながら『夏の庭』に入って行く二人。
「どういう事だ」
「そいつらが最初は隠蔽魔法使ってても見えてたんですよ。で、俺に殿下への伝言を押し付けた途端に完全に見えなくなったんですよ。幽霊かなって思いましたけど・・・ウ~ン」
「転移じゃないのか? 」
「違います。魔法陣は出てませんでしたので。単に俺に見えなくなっただけって感じでしたね」
「高度の隠蔽魔法なのかな」
「さあ? 」
肩を竦めニヤける護衛騎士に胡乱な目を向けるカイル皇太子。
「正直わかりませんよ。って、ありゃ」
白髪の騎士が目を見開いて、美しい湧き水を湛えた湖のある方角に目を向け、何かを追うように視線を動かす。
「どうしたんだ、急に」
「ああ。殿下。この国は妖精が住んでる国なんですねえ知りませんでしたよ・・・」
湖を見つめながら顔を赤くする幼馴染を見て、首を傾げるカイル皇太子であった・・・
「ディーン、お前正気か? 」
「俺にもよく判りません。おかしいのかも・・・」
そうぼんやり呟いた白髪の騎士を見る皇太子の目が三白眼になっていても、誰も咎める事はなかったのである。
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