はしゃぐ王妃様
馬車の中で散々言い含められ、耳にタコが出来そうなくらいお小言まで言われつつ、無事に王宮に着いたマリアンヌ。
マーサとともに王宮の正門のチェックを受けて入場する。
王宮の馬車溜まりへと侯爵家の専用馬車が去っていくのを見送って、豪奢な入口へと向かう。
「ミリア、こっちだよ」
ミリアンヌのパパ、ウィリアムがロータリーから一番近い階段の上に立っている。
大天使のような麗しい微笑みを携え、両手を広げている。
「父様、わざわざ待っていてくれたのですか? 」
「かわいい娘をエスコートしようと思ってね。おいで、後宮まで一緒に行こう」
「わあい。ありがとうございます父様」
走っているのか歩いているのか判断に苦しむスピードで父に近づき両手の間に飛び込むミリアンヌ。
そして抱きしめながら娘の頭を、ヨシヨシとポンポンするアークライド侯爵当主。
尻尾がもしあれば、嬉しそうに親子でブンブン振っているのがきっと見えるんだろうなと、遠い目になるマーサである。
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「ここからが後宮になる。私の案内はここ迄だからねミリア」
王宮の美しいフレスコ画や精密な彫刻、有名な画家の名画などを堪能しながら父にエスコートされ歩いていたらあっという間に後宮の入り口に辿り着いてしまった。
正面の入口と言われた場所には特にドアなどなく、廊下に敷き詰められた絨毯の色が真紅に変わっているだけである。
振り返るとロイヤルブルーの絨毯。
「父様、絨毯の色が違うだけなのですね? 」
「そうだよ。そういったしきたりが分からないものは王宮内には入ることができない。最初はどうしても詳しい人が付いてないと困ったことに巻き込まれてしまうからね」
にこやかに微笑む侯爵。
「ああ、ほら王妃殿下のお迎えが来たようだ」
そう言いながら、奥からやってきた女官に対して父は胸に手を置くだけの貴族の簡易の礼をした。
「ミリアンヌ・アークライド侯爵令嬢様、ようこそ。お迎えに上がりました」
美しい所作でお辞儀をする女官の後ろにマーサと共について行く。
そっと振り返ると父が手を軽く振った。
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広くて豪奢な王妃の部屋は後宮内でも日当たりの良い南向きで、部屋と同じくらい面積のあるバルコニーからは王妃の薔薇園が見える仕組みになっていた。
もっとも今はアレク王子のお茶会中なのでバルコニーに出ることは叶わないのだが。
大きなローテーブルに所狭しと言わんばかりに山積みされたクッキーやケーキ、キラキラと光るゼリーやプティングが並び、マホガニーの猫脚に落ち着いたラベンダーカラーの座面の大きなソファが所狭しと置かれている。
その一つにミリアンヌは先に着いていたらしいエリーナと共にチョコンと座って王妃様と対面中である。
「ほんっとに可愛いわあ~ 」
「ですわね叔母様、もう邸に持ち帰りたいくらいですわね」
「あら、ダメよ~ 後宮にならずっといても良くってよ~ 」
「え、ズルい」
「じゃあエリーナもいれば? ここに住めばいいじゃない」
もう、無茶苦茶である。
ドアの近くに待機するマーサもよく見れば目が点になっている。
「えと、あの王妃殿下にはご機嫌麗しく・・・ 」
「んもう、いいのよそんな他人行儀な挨拶は! ミゲルのお嫁さんになれば私の義妹になるんだから~ 」
「は? はいぃ? 」
「あらやだ、あの子まだプロポーズしてないの? ちょっと、何トロトロやってんのかしらね。ハイドランジアの血かしら? 奥手なんだからんもう。そういうところは陛下にそっくりだわね~ 」
情報過多で今にも倒れそうなミリア。
「伯母様ミリアの頭に血が登って倒れますわ。落ち着いて下さいませ」
ナイスだエリーナ。
「でも、アレクもそうですし、兄も父も祖父もなんかこうハイドランジアの男性って、女性がリードしないとだめっぽいんですよね~ やっぱり血筋でしょうかね~ 」
あ、ダメだ、コッチも情報過多。
その時、ドアをノックする音が。
「あら、どなた? 」
「私ですわ。ミリアンヌ嬢がおいでになっていると聞いて一目お会いしたいと思って」
侍女がドアを開けると赤いドレスの第二王女シンシアが立っていた。
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