噂の女の子
宰相さんは、『苦労人』が著者のセオリーである()
さて、事実はどうあれアークライド侯爵家のミリアンヌは、貴族の間では『深窓のご令嬢』とか『妖精姫』などと認識されている。
事実はどうあれここがミソである。
実際に彼女の姿を見た事のある貴族はほぼ皆無だからである。
お茶会にも全く出席せず、王都のタウンハウスに住んでいるにも関わらず貴族学園にも通っていない。
カーテンで窓を塞ぎ内部を隠された馬車が通うのは中央神殿のみ。
極めつけが聖王と名高い大神官様が直々に教育を施し、目に入れても痛くないほどの寵愛ぶり(そこも事実無根に近いんじゃ? という疑問は横においといて)。
侯爵家の使用人を初め、お抱えの出入り商人や、デザイナー等は箝口令が当然行き渡っており、王家の影すらアークライド侯爵邸に入り込む事ができないという噂まであるくらいだ。
ここまで情報制限されているご令嬢である。そりゃあ、デビュタントに注目されるのは致し方ないであろう・・・
ましてや、王太子と噂されている第一王子と奇しくも同い年。っていうか王太子妃とか側近とかを狙ってますよねえ~ 位の勢いで高位貴族間でベビーラッシュが起こるのが普通なので、その同年代前後は男女の性別に関わらず人数が多いのが普通であり同性の貴族令嬢には婚約者候補として、ライバル視されるのは当然である。
例の『深窓の令嬢』『妖精姫』も王家の関心を引くための話題作りの為なのではないかと、心無い貴族等は揶揄していた。
もっとも、アークライド侯爵の人柄を知っている国王や、宰相、その他の親しい貴族達は唯の『娘バカ』で何処にも嫁がすつもりが無いことを知っている為、どちらかというとデビュタントとはいえ王城に娘を『ホントに連れてくるのかどうか』を賭けのネタにして楽しんでいる位である・・・
「なあ、宰相よ」
「何でしょう陛下」
「アイツ、本当に娘を連れてくると思うか?」
「まあ、一応高位貴族の端くれですからねえ」
「そんな事、気にすると思うか、アイツ」
「ウ~ン、正直アークライド家って、王家より実力も資産もありますからねえ、気にしないかも・・・」
それを聞いて王妃が口を出す。
「でも、ミリアンヌちゃんてメチャクチャ可愛いらしいから、親としては見せびらかしたいんじゃないかしらあ?」
宰相が首を捻る。
「うーん、奥方も社交界の薔薇と呼ばれた方ですから、その娘ですからねえ美しいんでしょうが・・・」
陛下が眉をしかめながら
「でも、アイツ結婚した途端に奥方を外に一切出さずに愛でてるだろ? そんな男だぞ。試しに奥方のこと聞いたリしたらメッチャ冷たい目で睨まれるから怖いったら・・・」
思い出してちょっとだけブルッとなっちゃう陛下・・・
「うわあ~ そんなに愛妻家ですの? 」
お妃様が目を丸くする。
「実際にちょっかい出した貴族がいて、謎の大怪我で●●が再起不能になった案件がありましたねえ」
何処か遠い目の宰相閣下。
「アイツの娘にちょっかいなんか出したりしたら、絶対にヤられるぞ」
国王陛下が真剣な顔で、自分の首に向かって親指を突き出して横に切る仕草をする。
「こわっ!」
アークライド侯爵家の『ご令嬢』にもイランちょっかいを出されないように、細心の注意を払った警備体制を心に誓う宰相であっった。
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