踊る●●に
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クルリクルリ。
ホールに流れる三拍子を刻むワルツに合わせて優雅にステップを踏みながらターンし、腰をしっかりホールドした大きな手に安心して体重を預けながら、前世は周りを見回せばこの色が大多数だった筈の黒い髪色をじっと見上げる。
「ぼんやりしてる。どうした? 」
不思議そうにラピスラズリの瞳が瞬く。
「前世日本人としては見慣れた髪の色なんだなぁって思って見てましたミゲル様を。今は周り見ても少ないんですけど・・・ 」
「ほお。まあ確かに少ないなあ。でもアレだ。以前だってパツキンとか茶髪とかオレンジやらピンク色やら若い奴らがしてただろ? 数だけ考えりゃ逆転しただけだ」
「はあ。なるほど年寄はどっちにしろ真っ白ですし・・・」
「それか、残りはハゲだ」
「うっ・・・」
「お前は女だからそう簡単にハゲねえから安心しろ」
「はぁ、まあ。確かに」
じっと顔を見上げ、
「ミゲル様は生まれ変わりの性別が逆転しててがっかりしませんでしたか? 」
天井を見上げちょっとだけ考える、黒髪のイケメン。
『おお、喉仏が・・・』
再び視線を戻され
「何で顔が赤いんだ? お前」
「え? いえ・・・」
コホンと咳払いをする。
喉仏がセクシーとか思っていない! 絶対ない! と頭を横に振る。
「まあ、いい。男だったって事より『ミゲル』だった事の方に驚いたからそれどころじゃなかったよ。最初目が覚めた時に鏡を見て驚きで腰が抜けたくらいだ。夢を見てるんじゃないかとずっと疑ってた。次は呪いかな? って思ってたよ」
「呪い? 」
「そうだ」
曲に合わせてクルリとターンした。
「死んだろ。お前が・・・ 」
「? 」
「たかがゲーム作る為に部下が死んじまったんだ。それも俺が一番気にかけてた奴がさ。ホンのちょっと海外に出向してる間にさ。出発して半年だぞ、俺がどんだけ落ち込んだか知らんだろ」
「うっ・・・」
「まあ、狸爺共が俺が帰った途端責任を押し付けて来やがってその対応で忙しくて墓参りにすら行けなくてな。気がついたら酒の飲み過ぎでポックリ逝ったみたいだな」
「急性アルコール中毒ですか? 」
「多分。覚えてねえ」
「私は心不全ですかねえ。死ぬ直前は心臓が痛かったですから」
「パソコンの前で倒れてたらしい」
「あ、やっぱり」
曲が終わり、互いにお辞儀をし合うが離れずそのまま手を繋いだまま話に夢中で三曲目に突入・・・ 体が勝手に動くのは流石王族とスポーツオタク・・・いいのか?
「でな、呪いならそれはそれでいいやってさ。ミゲルとしての経験の方がこの体は長いわけだろ? 前世をチョット思い出しただけだって開き直ってこの世界で生きてやるって決心して、自分なりに出来る事をしようと思って動いてるうちに森でお前に会ったんだ。だから俺にとっては呪じゃなくて祝福だったのかなって」
「祝福ですか」
「うん。死んだお前を追っかけさせてくれてありがとうって感謝した」
「・・・前向きですねぇええぇ」
曲に合わせて唐突に体がフワリと浮いた。ミゲルがミリアンヌをリフトしたからだ。
「俺は死んでもお前を追っかけてきたストーカーだぞ。怖くねえのか? 」
口の端がツイッと上がり、その美貌が妖艶に歪む。
「もう、我慢しないし、離さんぞ。性別とか年齢とか関係ない。ただの執着かもしれん」
ふわりとホールの床に降ろされると、抱き締められた。
「俺にとっては執着も恋も見分けなんぞつかん。すまんが諦めてくれ」
「えええぇとぉ。あ~ はい? 」
ニヤリと笑うミゲルに耳まで赤くなって返事をした侯爵令嬢ミリアンヌ。
「ヨシ。言質獲ったからな。覚悟しとけ」
「ひょえッ? 」
なんですと? 覚悟とは?
「中身が男の記憶あるンですよ! 良いんですか? 気持ち悪くないですか? 」
「阿呆、俺だって女の記憶があるぞ。まあ、今は性別に関しては男で違和感は無いがな。どーせお前もそうだろうなって思ってるぞ」
「・・・何でですか」
又曲に乗りステップを踏む二人。
「精神年齢っていう奴は放っといたら十五歳位で止まるんだとさ。何の精神的修行もしないとな。同様に、身の回りの環境や肉体に引っ張られて感情や思考も同じレベルに引き上げられたり引下げられたりするらしい」
「へえぇー」
「考えてみろ俺は十八と三十が一緒になっちまったら、四十八歳で、兄上より歳上だぞ」
「陛下より歳上ですか・・・」
一瞬目が点になるミリアンヌ。
いや、それはちょっと無理。
陛下は魔物の群れに突っ込んでいかないだろうし演習場も破壊しない、と思いたい・・・
「それとな、十五年間自分の身体に逆らって女を否定してきたか? 」
「え、いえ。そう言えばそれは無いですね。否定してたのは王子と結婚は嫌ってのと、取り巻きと恋愛は無理! ってだけですね。後は皇国の王子も入ってたかなあ~ 」
「ほうほう」
「魔王もダメって・・・あれ? 」
「俺は? 王弟は裏ルートでも攻略対象だろう? 」
今更ながらハッとする。
「・・・入れてませんでした」
ニシシといたずらっ子のように笑う王弟殿下。
「ゲームの強制力なんぞ俺は信じとらんが、人生において本人の意志力は関係すると俺は思ってる。お前は最初から俺だけは否定してなかったんだな」
「・・・・・」
「そこの隙間に滑り込んだ俺を褒めてくれ。いや、神様かな? 」
「えええぇ~・・・ 」
複雑な顔のミリアンヌであった。
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