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評判と繁忙

 最近は、繁盛、と言う物を味わっている。

 同時に忙しさも。

 ロミルワ鉄鋼店の名前が、今まで以上に旧都に根付き、さらにお客さんが増えたおかげだ。

 

 おかげでまだ魔剣を造れていない。

 

 チャーリーさんが旧都を去って早二週間。

 新しいホッキンスさんの御使いの人が、バケツ一杯分のトパーズを、もう何日も前に届けてくれている。

 だと言うのに、魔剣の基になる、人の思念の宿った品を、まだ見つけられていない。

 一日で売れた商品を、一日かけて作って補充して、また一日店を開けて……

 

 「はぁ……」

 

 おかしい。

 僕は魔剣を造りにセイブレイに来たというのに、お店の営業だけで手いっぱい。

 密かに魔剣を造るための隠れ蓑のつもりで始めたお店が、今や本業のようだ。

 お店ばかりにかまけて魔剣を造れていない現状は、正に本末転倒と言える。

 

 「どうしよう。早く魔剣、造らないと」

 

 素材だけ貰って造らないでいると、貰ったトパーズを売ってお金にしているのではないかと勘繰られかねない。

 ホッキンスさん、怖いからなぁ……

 

 僕はあのお爺さんに怒られるところを想像して、今日何度目かのため息を吐いた。

 

 

 

 

 僕がどれだけ心労を抱えていようが、お客さんには関係ない。

 今日もそれなりにお客さんがやって来る。

 今日も繁盛しそう……

 

 ……その日はやたらと包丁が売れた。

 ペティナイフも売れた。

 刃物の店ではないのだけど?

 

 今しがた包丁を買った奥様に聞いてみると、奥様は買ったばかりの包丁を眺めながら答えてくれた。

 

 「ここの包丁はよく切れるって、表通りで話題になってるから」

 「そ、そうなんですか。それはありがたいですね~」

 「お鍋も良いって聞いたわ。今ウチで使っている鍋もそろそろ新しくしたいから、また今度会に来るわね?」

 「あ、はい。ありがとうございます」

 

 サラリと聞いていないことまで教えてくれつつ、奥様はにこやかに退店された。

  

 やっとお客さんが捌けたところで、僕は思い切りため息を吐く。

 もう夕方だ。

 

 「はふぅ……」

 

 この調子なら、明日も一日鍛冶場に籠って商品作りになりそうだ。

 

 店を閉めなきゃと思いつつ、カウンターに突っ伏してボーっとしていると、閉店時間になっても開いている店の扉が開いた。

 慌てて顔を上げると、そこに居たのは魔族の少年にしてスラムの顔役のカイだった。

 僕は上げた頭を元の位置に戻した。

 

 「よう」

 「……ああ、カイ。ごめん。店の入り口にあるOPENの掛札、ひっくり返してくれる?」

 「あ、おう。別にいいけど……」

 

 カイは店の掛札をひっくり返すと、僕の突っ伏すカウンターに両手を置いた。

 

 「どうしたんだ? 疲れてんのか?」

 「疲れてるというか、お店が忙しくて魔剣が造れなくて……」

 「じゃあ魔剣造るまで店閉めればいいだろ」

 「……たしかに?」

 「なんで疑問形なんだよ」

 

 開店日も開店時間も僕の気まぐれだったはずのこのお店。

 お客さんがそれなりに来るようになってからは、二日に一度朝から夕方まで開店させている。

 なんというか、そうしなきゃいけない気がしたからだ。

 謎の義務感と言うヤツに突き動かされていたと言える。

 

 「いやでもさ~今日まで一日お店明けて一日休んでをずっと繰り返してきたからさ~。急に二日三日休んじゃったら、お客さんが困っちゃうかもしれないしさ~」

 「魔剣と客、どっちを優先したいかだな」

 「魔剣」

 「即答かよ。じゃあ休めよ」

 

 ごもっともだ。

 でも普通の魔剣を造るならともかく、僕の場合はそうもいかない。

 

 「でもさ~まだ造れないんだよね~」

 「なんでだ?」

 「魔剣の基になる、人の遺志の宿った品を探すところから始めなきゃいけなくてね」

 「あ~、デラみたいな?」

 「そうそう。デラちゃんの場合はブレスレットだったね」

 「あぁ、ブレスレットな」

 

 そう言えば、デラの短刀についてはあまり話して無い。

 今さらだけれど、少し話しておこう。

 

 「デラちゃんの本名はデラ・レンファンス。南西区のレンファンス幽霊屋敷に住んでいた女の子だよ。デラの短刀は、デラちゃんの思念の宿ったブレスレットで造ったんだ」

 「知ってる」

 「あれ、話したっけ?」

 「ロレンスと決闘したとき、デラの記憶を見た。あと、時々夢でデラと話すことがあって、本人に聞いたりもした」

 

 ……ん?

 え?

 

 「……ほんとに?」

 「本当だけど?」

 

 それはスゴイ。

 カイとデラちゃんの相性は、僕が思っている以上に良かったんだ。

 あるいは良くなっていったのか。

 どちらにせよ、品に宿った思念と夢の中とは言え会話出来ると言うのはスゴイ。

 何せ故人と話しが出来ると言うことだからね。

 

 「ほうほう! もう少し詳しく!」

 「夢の中の会話なんて、ほとんど覚えてねぇよ」

 「そっか……」 

 

 魔剣の基になった人の思念と、会話をする。

 それは難しいことだ。

 造り手である僕も、製作途中に思念を読み取ることが出来るくらいで、思念と会話まで出来たことはほとんどない。

 使い手と魔剣の思念が、夢の中で会話をするって言うのは、きっと稀有な事例なんじゃないだろうか。

 

 ……それに比べて僕は、なんだかんだ言いながらお店にばっかりかまけて、魔剣を造りたいって言いながらこうやってボーっとして……

 

 「カイはすごいなぁ」

 「おい、急に落ち込むなよ。俺はどうすりゃいいんだよ」

 「カイはカイのままでいいんだよ」

 「適当にそれっぽいこと言うな」

 

 少年に叱られてしまった。

 ショックだ。

 何日か寝込もう。

 あ、そうだお酒飲もう。

 ヤケ酒しよう。

 

 「あてとかあんのか?」

 「ハムにしようかな。しょっぱい奴」

 「何の話だよ」

 「お酒のあて」

 「マジで何の話だよ! じゃなくて、魔剣の基になる物を、手に入れる算段はあるのかって聞いてんだよ」

 

 痛いところを突いてくる。

 品に思念が宿っているかどうかなんて、僕にしかわからない。

 少なくとも僕以外にそれがわかる人には会ったことがない。

 つまり、僕以外に探しようがないということだ。

 自分で探すしかないのに、手に入れる算段なんてあるわけがないのだ。

 

 「……ない。自分で探しに行くくらい?」

 「じゃあもうなおさら店休んで、探しに行けばいいだろ。店の入り口んとこに、所用で何日かお店閉めます、みたいな張り紙張ってよ」

 「でもいきなり店を何日も閉めたら」

 「魔剣が造れないままでいいのか?」

 

 ぐうの音も出なかった。

 

 「……でも、どこを探せばいいんだろう」

 「そういう時は人の集まる場所に行けばいいんだ。なんかいい話が聞こえてくるかも知れねぇ」

 「表通りならよく行ってる」

 「歓楽街の方だよ。あとは闇市とかだな。なんなら今から闇市来るか? いわくつきの品とかありそうだろ?」

 

 闇市か。

 確かに人の遺品とか勝手に売ってそうだ。

 闇市という名称から得たインスピレーションでしかないけれど。

 

 「でも今日は疲れたから、明日にする」

 「そうかよ。闇市にも歓楽街にも一人で行くなよ?」

 「子供扱いしないでもらえるかい?」

 「大人は疲れたからって不貞腐れないと思う」

 「大人だってたまには不貞腐れるし不貞寝するしお酒に逃げるものなんだ」

 「ダメな大人の要素だろそれ」

 

 カイはそう言うと、スタスタと帰ってしまった。

 

 「……たまにはいいじゃないか」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 お店の前に、しばらくお店を閉めるという内容の張り紙をペタッと張り、僕は朝から意気揚々と出かけた。

 しょっちゅう訪れる表通りは避けて、適当に歓楽街の方へ進む。

 カイが歓楽街を進めた理由は、人が集まる場所だからだった。

 なのであえて人の居なさそうな午前中にやって来た。

 理由は人混みや騒がしいのが苦手だからだ。

 

 そう言うわけで、比較的静かな歓楽街をフラフラ歩いている。 

 思念の宿った品の気配はないかな、と右へフラフラ左へふよふよ。

 

 そんな風に歩いているのが良くなかったんだろう。

 

 「そこの美人さん。こんな時間からこのような場所へ、いかなる要件かね?」

 

 そう声をかけられた。

 歓楽街の治安維持隊に、不審者と思われてしまったのだ。

 

 飾り気のない、仕立ての良いジャケットと、同じく派手さの代わりに上品さを醸し出すズボン。

 キッチリとした身なりなのに、ジャケットの内側には少しばかり膨らみが見える。

 警棒か何かを持っている。

 

 ……しかし、別に僕は悪いことをする不審者ではない。 

 怯える必要など無いのだ。

 僕は落ち着いて、にこやかに対応する。

 

 「はい、実は探し物をしていまして、人の少ない今のうちに探そうと思って来たんです」

 

 嘘は言っていない。

 そして僕にやましいところはない。

 強いて言えばセイブレイで密かに魔剣を造ったりしているくらいだ。

 だから治安維持隊疑われたり、ましてお世話になるようなことなんてあり得ない。

 

 我ながら完璧な返答だ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 気付けば、僕は、僕に声をかけてきた治安維持隊の人と、朝っぱらから開いている怪しげな酒場に入店していた。

 

 なぜ……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 前話の感想になりますが、ミルフォードの弟さんには毎回笑わされます(´ω`)「私の童貞は姉のものなので、そう言うつもりは全く、一切ないんです」を素で言っているところがやばいです(笑)最後までブ…
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