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傍から見たら完全にケモミミ少年を家に軟禁する成人女性である

 指名手配犯となったカイを我が家に匿い、早いもので数日が経っていた。

 独り身の女が男の子を家に住まわせるなんて言うのはあまりにも外聞が悪い。

 カイはそのあたりを気にしている。

 絶対に外に出ないどころか、窓や扉の近くなどの外から見える可能性のある場所には近づかないという徹底ぶり。

 居場所がバレたらまた追われてしまうということと、僕がカイを匿っていることを、絶対にばらさないようにしようとしていることがわかった。

 そして追われている身でありながら、落ち着いている。


 カイは僕が思っているより大人なようだ。

 

 しかしいくらカイが大人しくしていても、消耗品は二人分減る。

 主に食材が減る。

 カイは食事を遠慮がちに食べていたので、しっかり食べるように言った。

 そして男の子というのは結構食べる。

 僕がうっかりしていた。

 食材がもう尽きそうになっていた。

 

 食材を買いに行くと言ったら、カイは一人分の材料だけを買って来て欲しいと言った。

 僕がある日突然二人分の食材を買うようになれば怪しまれるから、と。

 自分は食べないつもりらしい。

 

 「そんなわけにはいかないよ」

 

 ツンと鼻を突いてやった。

 細かいところまで気付けるいい子ではあるけれど、自己犠牲的な考え方がいただけない。

 なにより僕は外聞を気にしていない。

 というか誤魔化せる自信がある。

 

 カイを一人家に残し、僕は意気揚々と表通りへ向かう。

 

 

 

 

 食材と言っても色々ある。

 パン屋さんに肉屋さんに八百屋さん。

 細かく分ければもっとある。

 僕は適当にぐるりと回り、その日の気分で適当に選ぶ。

 

 バゲットパン、ハム、ジャガイモ玉ねぎに、ピクルス。

 帰ってから作るのはポテト入りハムサンドだ。

 

 パン以外はまとめ買いしてもさほど不自然ではないし、パンだってそれなりに一日二日くらいは持つから大きいのを買っても問題ない。

 しかしこれで終わりじゃない。

 大きくなった買い物袋を背負った僕は、そのまま表通りを冷やかすように歩く。

 目当ては露店だ。

 

 

 

 

 「こんにちは~」

 「あらミルフォードさんこんにちは」

 

 ここはマカロニサラダの露店だ。

 この間店主さんがマカロニを茹でるための鍋が欲しいと言って、僕のお店にやって来た。

 オーダーメイドで作って売ってからは会っていない。

 

 「買い物ついでに来てしまいました。鍋はどうですか? どこかに不備とか出てないですか?」

 

 つまりこれは露店で余計に買い物しているわけではなく、顧客のアフターケアのための巡回なのだ。

 

 「そんなそんな。前の鍋より大きいから一度にたくさん茹でられるし、それでいて重さは前のとあまり変わらないし、熱の伝わり方がいいのかすぐに煮えてくれて、とってもいい調子ですわぁ」

 「それは良かったです。その鍋でもし何かあったら、気軽に僕に伝えてください」

 「ありがとうミルフォードさん。大切に使わせてもらうよ。あぁそうだ! これ持ってってよ! 出来立てのコーンサラダだよ!」

 「いいんですか?」

 「いいのさ!」

 「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」


 そこはマカロニサラダじゃないんだ……

 いや文句を言うつもりなんてありはしない。

 狙い通りだ。

 

 僕がやったのは、あくまで売った商品のその後の確認。

 食べ物を貰ったのは相手の厚意を受け取っただけ。

 独り暮らしにおいて必要以上の食材を持っているのは、僕が求めたからではない、というわけだ。

 

 こんな風に相手の厚意を目当てにお店に行くのは、我ながらどうなんだと思う。

 しかし、自然に二人分の食べ物を買い込むのに必要な手段だと割り切ることにした。

 

 ……すまないね。

 

 

 

 買い物を済ませた僕は寄り道せずに帰宅する。

 普段なら僕以外誰も居ない我が家だけれど、今はカイが居るので、ちゃんと挨拶する。

 

 「ただいま」

 

 おかえりはまだ来ない。

 僕が荷物を置いて玄関扉を締め切るまで、カイはサッと外からの死角に回り込んでいる。

 隠れていることを悟らせないことを徹底するカイの姿をしり目に、重い買い物カバンと露店で頂いたサラダをテーブルに置いて、玄関を締める。

 

 「おかえり。いっぱい買ったな。怪しまれねぇ?」

 「大丈夫。買ったのは日持ちする物ばっかりだし、買い溜めとしてはおかしくない量だよ。あとこっちのサラダは、鍋を売った露店に様子を見に行ったら貰っただけだから」

 「……なるほど」

 「早速だけどごはんにしよう。僕も今日はまだ何も食べてないからお腹空いたよ」

 「ああ」

 

 カイは料理が出来ない。

 まぁ料理を覚えられる環境に居なかったんだろう。

 匿ってすぐのころは、料理に限らず僕が何かをすると必ず、手伝おうか、と聞いてくれたけれど、料理に関しては手伝いは不要だ。

 

 エプロンを付けて、適当に材料を持ってキッチンに向かえば、後ろからカイの視線を感じる。 

 

 「なんか、慣れてるよな」

 「ん? 料理のこと?」

 「いや、他の人と暮らすこと。旦那が居たのか?」

 「居ない居ない。僕はこんなだからね」

 

 ジャガイモを切り付けながら肩をすくめてそう答えれば、カイは黙ってしまった。

 返答し難い事を言ってしまった。

 

 んー、まぁ暇つぶしも兼ねて自分語りを聞いてもらおう。

 

 「僕には兄と弟が居てね。兄と僕は年子なんだけど、弟は三つほど年が離れているんだ」

 「ん? おう」

 「それで僕と兄は、年の離れた弟に尊敬されようとして、色々と世話を焼いたり甘やかしたりしてね。そうしたら弟は甘えん坊に育ってしまったんだ」

 「そうなのか」

 「そうなんだ。それで、僕が兄と二人で魔剣鍛冶師に弟子入りして、二人で生活を始めると、自然と僕が家事をやり始めてね、よく食べる兄のために毎日たくさん料理したよ。弟も時々遊びに来てた。弟もよく食べるんだ。そんな感じで暮らしてたから、一人分の食事を作るより二人分三人分作ったり、家事をこなしたりする方が慣れているんだ」

 

 べらべらと自分のことをしゃべっていれば、もうポテト入りハムサンドが出来上がった。

 二人分のそれをさらに乗せて、コーンサラダを小皿に分けて盛り付けて、コップ二つに紅茶を注ぐ。

 カイの待つテーブルの上にそれらを並べれば、まぁなんとか格好の付いた食事になったと思う。

 

 「なぁミルフォード」

 「何かなカイ」

 「アンタ、なんでセイブレイなんかに来たんだ?」

 「魔剣を造って使ってもらうためだよ」

 「それはセイブレイじゃなくていいだろ? 兄弟とわざわざ離れてこっちに来たのは、なんでなんだ?」

 「……秘密♪」

 「あっそ」

 

 食事前の雑談もそこそこに、サンドイッチとサラダを食べ始める。

 輪切りにして焼いたジャガイモが良い感じだ。

 サンドイッチには合わないかもしれないと思ったけど、いやはやどうしてなかなか美味しい。

 これで切って挟むだけの料理というのだから楽なものだ。

 

 「おいしい?」

 「んまい」

 

 カイもお気に召したようで、ハグハグと食べ進んでいる。

 相手がだれであれ、自分で作った料理を美味しそうに食べてくれるというのは嬉しい。 

 

 

 

 

 

 食後のお茶を楽しみつつ、カイは僕に何か聞きたそうな目を向けている。

 何が聞きたいかくらいわかっているし、普通に聞いてくれればいいのだけどね。

 

 「外の様子?」

 「あ、おう」

 「まぁ物騒な感じだったよ。そこかしこに兵士さんが居たし、聞き込みをしている人もたくさん居た。君を探している人もいれば、君に関する情報を探している人に、君の行きそうなところを虱潰しに回っている人も」

 「まぁ、そうだろうな。金貨一枚の賞金首だもんな」

 「モテモテだね?」

 「嬉しくねぇ。というかモテてんのは俺じゃなくて金貨の方だろ」

 「かもね」

 

 お茶を一啜りして口の中をすっきりさせ、続きを話す。

 

 「手配書の張り紙は増えてたと思う。前のと違って、カイの似顔絵が書かれた本格的な奴がいっぱいあったよ。帰って来る道にも、表通りにも貼ってあったし、多分歓楽街の方にもびっしり貼られてるんじゃないかな」

 「そうか……」

 「まぁ……そうだね……半年くらいは絶対に外出できない日が続くかも知れない」

 「半年? 一生とまでは言わないまでも、指名手配なんてされたら数年は出歩けないだろ。まぁ何年も世話になるつもりはねぇけど」

 「普通はね。でも僕の予想だと、半年かな」

 「予想の根拠は?」

 「勘」

 「そうかよ」

 

 しっかりした根拠を言えればカイは安心したんだろう。

 根拠が僕の勘だと言った瞬間、ちょっと落ち込んだのがわかった。

 

 「半年の予想はね、根拠は僕の女の感だけど、保証はあるよ」

 「保証?」

 「半年たっても今みたいに指名手配が続くとしても、多分何かが変わってると思う」

 「何かってなんだよ」

 「さあね。何がどう変わるかは僕にもわかんないよ」

 

 もう手は打ってある……なんて言えればかっこいいんだろうけど、僕がしたことと言えば、お使いの人にお願いの伝言を伝えただけ。

 何がどう変わるかは、ホッキンスさんとダグラスさんの交渉次第。

 まぁ、お願いを無視されることも十分考えられるけれど。

 

 「まぁ気長に、かつ気楽に待てばいいと思うよ。そのうちダグラスさんも諦めるかもしれないし」

 「ミルフォード。俺はアンタのことをよくわかんない奴だと思ってた」

 「そう?」

 「おう。で、今は全くわかんない奴だと思ってる」

 「あ、そう言う失礼なこと言うんだ? ふーん?」

 「ああいやそう言うつもりじゃない。ただ、本当にわからんと思ったんだ」

 「あっそ。いいよ別に。今度カイのパンツは外に干すから」

 「それ洒落になってねぇっつうか、最悪アンタが俺を匿ってるってバレるぞ」

 「冗談だよ」

 

 

 

 

 

 さて、僕も一応鍛冶師なので、仕事をする必要がある。

 少年を家に匿っているからと言って、そちらにばかりかまけていられないのだ。 

 

 二~三日お店を開けて商売して、一日鍛冶場にこもって商品開発して、また店を開ける。

 これが僕のルーティンと化している。

 カイが居ても居なくてもこのルーティンを崩すことはない。

 むしろカイが姿を隠したあたりからお店で異変を見せれば、怪しまれてしまうかもしれない。

 

 僕が店番をしている間、カイは僕の家の中で一人だ。

 何をしているかは知らないけれど、探らないつもり。

 僕が困るようなことはしないでしょう。

 

 実際カイはいい子にしているようで、今のところ問題らしい問題は起きてない。

 

 この調子で、指名手配の件も何とかしたいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少しずつ明らかになっていくミルフォードの過去・・・なんだか色々と複雑な事情がありそうです(´ω`) 【んー、まぁ暇つぶしも兼ねて自分が足りを聞いてもらおう。】のところですが、「が足り」が誤…
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