第4部 4話 ゲームマスターと後輩
久しぶりに彼が登場です笑
◆ニューズ・オンライン シーツー10合目◆
鬼ノ上の指示によりヤジマはセキュリティ・ホールの調査を行うことになったものの、何から手をつけていいのか皆目見当がつかなかった。開発担当のハセベやインフラ担当のヘルに尋ねても、やはり心当たりはないという。それもそのはず、彼らはセキュリティの専門家ではないのだ。そう述べるのも仕方がないだろう。
ひとまず、ヤジマはプレイヤーたちにヒアリングを行うことにした。セキュリティ・ホールも大枠でとらえればシステムのバグのようなものである。以前発生した生産系スキルのバグもプレイヤーから報告があったから判明したことだ。プレイヤーにヒアリングすれば、新たなバグの情報や手がかりが掴めるかもしれない。遠回りではあるが何もしないよりいい――そう考えたのだ。
そして、ヤジマはカンナバルより、かねてからシーツーへの招待を受けていた。シーツーでC&C連合国の建国パーティーを催すと言うのである。GMがプレイヤーに自らが管理しているゲームにお呼ばれするというのも変な話ではあるが、これもGMイベントを通して運営側とプレイヤーの距離が縮まった証拠だろう。この繋がりはヤジマとしても大事にしたいと思っていたし、多くのプレイヤーが集まるパーティーは情報収集するには格好の機会であった。
ヤジマはニューズ・オンラインにログインすると、ヤスコと共にいつも通りギニーデン南門の扉からシーツー10合目へと抜けた。
「じゃあ、2合目の緋龍巣まで降りようか。みんな待ってるみたいだから」
「イエス、マスター!」
「……ニノミヤさん、その呼び方やめない? 何だかジェ〇イの騎士みたいなんだけど……」
「いえ、やめません! ヤジマさんは尊敬するゲームマスターですからっ! 私はインターンとしてここにいるので、マスターの一挙手一投足見逃さずに見習いたいと思ってます!」
ヤスコは目をキラキラと輝かせながら、どこからか調達してきたわからないメモを構えている。ヤジマの一風変わった呼称に乾いた笑いを浮かべながら、彼女のやる気の高さに目を細めた。
シーツーの2合目は、大穴の底近くに位置する。そこまで行き着くには回廊を下る必要があるが、少々時間を要する。なるべくなら時間を有効活用したい。そしてそんな時頼りになるのは彼しかいない。
「ジーモ、いる?」
すると白い躯体がドロンと姿を現す。
「ヤジマ、何か用ナ」
「ああ、俺たちを2合目まで送ってくれないかな?」
ヤジマがそう言うと、ジーモは途端に嫌そうな顔をする。
「ジーモは交通手段じゃないナ。そんなことでいちいち呼ばないでほしいナ」
「この間タマキさんのこと運んでたのは誰だったか!? 同じGMなのに扱いが違いすぎない!?」
「以前の出来事を例に挙げてゲームマスターの依頼を渋るオバケを説得、メモメモ……」
「こういう一投足は見逃してくれていいんだけど!?」
ヤスコに思わずツッコミを入れた後、ヤジマは改めてジーモにお願いする。
「俺だけならシーツーのユニット沿いに降りていくんだけど、今日はこの子がいるから頼むよ」
「誰ナ、このちんちくりんはナ」
すると、ヤスコが素っ頓狂な声を上げる。
「ちんちくりんとは失礼なオバケね! あなたよりも大きいわよ!?」
「オバケじゃないナ! GMOのジーモだナ!」
ふたりが騒ぎ始めたのにため息をつきながら、ヤジマはジーモの説得に移る。
「この子はGM候補とでもいうのかな? ニノミヤヤスコさんだ。当分の間、一緒にニューズ・オンラインを管理していくことになると思う。ニューズ・オンラインのことよく知らないから、ジーモも面倒見てやってくれよ」
その言葉を聞いたヤスコが目を輝かせる。
「候補だなんて、パ〇ワンみたいですねっ! ますますやる気が出てきましたっ!」
「やっぱりスター〇ォーズ意識しているよね? マスターって呼ぶのもわざとだよね?」
そんなヤジマの説明を聞いたジーモは胸を張った。
「つまりヤスコはジーモの後輩ということナ?」
確かにジーモより後にニューズ・オンラインに来たわけだから、後輩と言えなくもない。まあそれであればヤジマもジーモの後輩と言うことになってしまうが。とにかく上下関係に厳しいジーモの機嫌を損ねない方が良い気がした。
「まあ、そう、かな」
「やっぱりそうナ。それならそうと早く言うナ。後輩の面倒を見るのもGMOの責務ナ」
ジーモはまんざらでもない様子で頷いた。それが責務というならもう少しヤジマの言うことを聞いて欲しいと思ったものの、これで頼み事を聞いてくれそうなのでよしとする。そして、ヤスコも素直なのでジーモを先輩だといっても違和感なく受け入れているようだ。
「先ほどはオバケ呼ばわりして失礼しました! ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします、ジーモ先輩! 私も立派なオバケになれるように頑張ります!」
ツッコミどころ満載のヤスコのひと言だったが、ジーモは機嫌を良くしたらしい。「世話が焼けるナ」と呟きながらヤスコの首根っこを掴んで翼を大きく広げた。そして、飛翔。靖子の白装束も相まって、まるでてるてる坊主が空中で吊り下げられているかのように見えた。
ヤジマも大穴に単身飛び込み、崖沿いに積み重なるユニットづたいに2合目を目指す。
「それにしても、ヤスコのアバターには何で”管理者権限”が付与されていないナ?」
ジーモが訝しげにそう呟いた。
「え、そうなの?」
ニューズ・オンラインのアバターには三種類の権限が付与されている。ひとつ目は”標準”の権限。ゲーム内の基本的な操作に必要な権限だ。ゲーム内のプレイヤーはすべてこの”標準”権限が付与されている。
次に”管理者”の権限。ヤジマのアバターに付与されているのがこの”管理者”権限だ。天候の設定や自らのステータスの変更、システムコマンドの実行など、ニューズ・オンラインの管理に必要な操作を行う権限である。
そして、三つ目に”開発者”の権限。外部からニューズ・オンラインを操作できる権限である。ニューズ・オンラインのアップデートなど、主に開発担当の長谷部が使用している権限である。
チーム・ニューズオフィスの隣にあるダイブ室からニューズ・オンラインにログインすると、ログイン時に管理者権限でログインするかどうか問われるはずだった。ヤスコはわざわざ標準権限を選択したことになる。するとヤスコが、
「だって管理者権限なんて一介のGM候補が持つのには荷が重すぎますよー! システムコマンド実行したらシステム改変だってできちゃう恐ろしい権限ですよね!?」
ヤスコの言葉にヤジマは意表を突かれた気がした。ヤジマは以前システムコマンドを使用してダンジョンを破壊し、ニューズ・オンラインのサービスを停止させかけたことがあった。今思い出しても苦い経験である。そして、ヤジマは管理者権限の恐ろしさは身にしみてわかっている。しかし、ヤスコがそのことを理解しているのは意外でだった。
「管理者権限なんてよく知ってるね? ニノミヤさん、VRゲーム初心者なんだよね?」
「そうですよー! でもITリテラシーが少しでもあれば、そのくらいのことわかると思いますよ!?」
「そういうものかな……」
最近の学生は皆そうなのかと、ジェネレーションギャップを感じつつ、ヤジマたち一行はシーツーの2合目を目指した。
ここまで読了いただき、ありがとうございました!




