第4部 3話 ゲームマスターとうっかりさんの再来
※鬼ノ上への定例報告会の名前を”鬼の晩餐会”としました。前話は改稿してあります。
”鬼の晩餐会”の翌日の朝、山田がチームニューズ・オフィスの入口に差し掛かると、何やら中が騒々しい。中を覗いてみると、チームニューズのメンバーがオフィスの真ん中で輪を作っていた。昨日の晩餐会出席メンバーに加えて、今日は環までもが加わっている。
皆の表情を見渡す限り、雰囲気はそれほどいいとは言えない。ニューズ・オンラインでまたトラブルが発生したのか、とため息が出そうになったその時、輪の中心に見慣れぬ小柄な女の子が佇んでいるのに気づいた。
その女の子は黒髪に黒スーツといった完璧な就活スタイル。髪型も就活っぽくしっかりと櫛を入れて、後頭部できっちりとお団子結びされている。体の線は細く、スーツの裾にはかなり余裕があるように見えた。
どこの会社の面接に行ったとしても恥ずかしくない格好。と思いきや、白いブラウスの裾がぴろっと尻尾のように出ているのでアウト。そんな彼女が黒ぶちメガネのレンズ越しに、山田の方に目を向ける。すると、
「ヤジマさん!」
女の子がそう叫んで嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「二宮、さん!?」
山田は思わず驚きの声を上げた。スーツを巫女服にすげ替え、眼鏡を取ってやれば、GMイベントでシベリアを食べつくしたうっかりさん、”ニノミヤヤスコ”の出来上がりである。
「ご無沙汰たてまつります! 覚えていてくださったんですね! ああー、よかった!」
何をたてまつられたのかはわからなかったが、とりあえずニューズ・オンラインで話した靖子の勢いそのままだった。
「あ、こっちではヤジマじゃなくて山田だからね。二宮さん、本当にうちの人間だったんだね……」
「はいっ! 今日からお世話になることになりました!」
「今日、から?」
山田は思わず眉間にシワを寄せた。ヤスコを取り囲んでいたメンバーたちも皆、困ったような表情を浮かべている。
「えっとー、事情が飲み込めないんだけど……」
山田が周囲を見回すと、成瀬が口を開いた。
「こいつがインターンでチーム・ニューズに配属されたと詐称してるんだ」
「な――詐称とは失礼ですねっ! 私は言いつけ通りにここまで来たんです!」
成瀬の言葉を聞いて、靖子は頬を膨らませた。
「だってお前、この間はRXシステムズの社員って言ってたじゃんか。それなのに一週間たったらなんでインターンにダウングレードしてるんだよ? そんな話、信じられるわけないだろ?」
「いや、それは緊張してて言葉足らずだったというか何というか……。RXシステムズに入社したいという気持ちが溢れ出てしまったんです! ほら、GMイベントで運営ブースにいたイッヌのアバターもただのイッヌなのに、ヘルハウンドになりたいという気持ちからヘルハウンドと名乗ってたじゃないですかっ! それと同じですよ!」
「あれは犬じゃないんだよ! 正真正銘ヘルハウンド! 何度言ってもわからないやつだな、このちっこいのは」
「あー! その呼び方! まさか、あなたがイッヌ!?」
「お前、先輩に対してイッヌは失礼だろ!?」
ふたりがギャーギャー騒ぎ始めたところで環が口を挟む。
「ふたりとも喧嘩はやめなさいよお。ヤスコさんにまた会えたのはうれしい限りだけど……インターンってことは、誰かに言われてここまで来たのよねえ?」
「えーと……キノシタさん?」
皆一斉に訝しげな表情を作り、顔を見合わせた。
「誰?」
「ほらやっぱり詐称してるんだぜ、このちっこいの」
「違いますよっ! ほ、ほら、辞令もちゃんといただきましたー!」
ヤスコはそう言ってカバンから一枚の紙を取り出す。山田はその紙をまじまじと見て読み上げてみる。
「なになに? 靖子の野望その1。インターンでいいところを見せて社員の座を勝ち取る! そして、イッヌをペットとして従え――」
「あわわわわっ!」
ヤスコはすぐさまその紙をぐしゃっと丸めてカバンの中にしまってしまった。
「間違えましたー! こっちです!」
「お前、わざとやってるの? 地獄の番犬と呼ばれるヘルハウンド様が地獄を見せてやる……」
「ひぃ」
成瀬が唸り声を上げながら靖子を睨みつける中、気を取り直してヤスコが取り出した紙を眺めてみる。すると、そこにはこう記載されていた。
『辞令 二宮靖子殿 〇〇年××月△△日付を以て、チーム・ニューズのインターンに命ずる 統括長鬼ノ上』
山田は思わず目を見開いた。
「え!?」
「あ、そうですそうです! キノシタ、ではなくキノウエさんでした!」
靖子がそう告げると、皆が驚愕した。
鬼ノ上の辞令があるということは、靖子はインターンとしてだが正真正銘チーム・ニューズとして配属されたことになる。しかし、人手不足のチーム・ニューズのメンバーが増えたからといって純粋に喜ぶ気にはなれない。何故なら、インターンは業務を遂行して成果を出す通常の社員とは異なり、就業体験を通して仕事や会社について学ぶことを目的としているからである。
つまり、チーム・ニューズは靖子に仕事を与えるのではなく、知識や経験を与えなければならない。そのため、インターンがチーム・ニューズに補充されたからといって山田たちの仕事が楽になるわけではなく、むしろ増えてしまうのだ。弱小のチーム・ニューズにとってはその負荷は計り知れない。
そして、山田が最も気になったのは鬼ノ上の意図だった。鬼ノ上がこのタイミングでチーム・ニューズに人員を寄こした。それは詰まるところ――
「もしかして、鬼ノ上さんが晩餐会で確約してくれた補充要員って二宮さんのことですかね……?」
山田の言葉に皆の表情が急に曇る。靖子だけが不安そうに周囲の顔色を伺っていた。
「まあ、そういうことだろうな……」
長谷部が山田の肩にポンッと手をのせてから席に戻っていった。
「やはり鬼ノ上さんはニューズ・オンラインをサ終させることしか考えてない……!」
成瀬はそう憤りながら踵を返した。
「どんまい……」
鎌田は山田に憐みの視線を向けてから去っていく。その場には環と靖子、そして山田だけが取り残された。
頭を抱えたくなる思いだった。セキュリティ・ホールを調査するために寄こされた人材がインターンの靖子。鬼ノ上は戦力を補充してニューズ・オンラインのサ終回避を支援するどころか、インターンを入れて足を引っ張りにきたのだ。山田にとってはまさかの一手だった。
これで鬼ノ上にはニューズ・オンラインのサ終を回避するつもりなど毛頭ないことが明白となった。これ以上支援は期待できない状況。それであれば、後は今の戦力でサ終回避の要件をクリアして、是が非でもサービス継続を認めてもらうしかない。
「何だかすみませんでした。タイミングが悪い時に来てしまったようで……。昔から私、タイミングを逸することが多くて……」
靖子はそう言いながらしょぼくれていた。
「何言ってるの。靖子さんは何も悪くなんかないんだから、堂々としていればいいんだよお。頼りになる先輩が何とかするからねえ」
環はそう言いながら山田にジト目を向けるので山田は苦笑してしまった。環の言うとおり、靖子は悪くない。彼女はGMイベントの時にもイベントの成功のためによく貢献くれた。山田もその貢献に報いるべきだろう。
「二宮さん、丁度これからニューズ・オンラインに用があるんだ。折角だから一緒に回ろうか」
「はいっ!」
靖子は目を輝かせながら大きな返事をした。
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