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第4部 2話 ゲームマスターと近況報告

<登場人物紹介>


・山田 (ヤジマ)

 突然ニューズ・オンラインのGMに任命された元開発者。サ終回避に向けて日々奔走している。VRゲームは初心者。


・成瀬 (ヘル)

 ニューズ・オンラインのインフラ担当で山田の同期。地下のデータセンターにあるサーバ群を管理している。RXシステムズの花形ゲームであるバレンタイン・オンラインのインフラ担当だった凄腕エンジニア。アバターは黒犬 (ヘルハウンド)の獣人。


・長谷部 (ハセベ)

 ニューズ・オンラインの開発担当。開発段階からニューズ・オンラインを担当している。アバターは黒騎士。


・鎌田 (カマタ)

 ニューズ・オンラインのデザイン担当。クオリティの高いグラフィックを作成するものの情緒不安定なのが玉に傷。アバターはドワーフ。


・辻村 (?)

 ニューズ・オンラインのまとめ役で、チーム・ニューズのチーム長。特技は無茶ぶり。チーム・ニューズオフィスに姿を見せたことはなく、常に音声のみで無茶ぶりを繰り出す。


・カンナバル

 ギニーデンで初心者支援を行っている魔導士のプレイヤー。ちまたでは”ギニーデンのお母さん”として有名。C&C連合国の発足に伴い、初代大統領の座に着任する。


・カスミ

 ヤジマのことを何かと助けてくれるアサシンの中堅プレイヤー。1か月前まで緋龍の翼の四翼でニューズ・オンラインのトッププレイヤー”エアポケット”として名をはせた。しかし、”シキゾフレニア”によりアバターを強奪されてしまい、現在の中堅レベルに至る。


・ヒイロ

 緋龍の翼のギルドマスターでニューズ・オンラインの花形プレイヤー。


・二宮靖子 (ニノミヤヤスコ)

 RXシステムズにインターンとして仕事をする予定の女の子。アバターは巫女姿の魔導士。

 

◆縦浜近郊 RXシステムズ本社ビル チーム・ニューズオフィス◆



 鬼ノ上が去ると、チーム・ニューズオフィスは緊迫感から解き放たれ、メンバーたちは皆、椅子にぐったりともたれかかった。


「おい、山田……。あのタイミングで鬼ノ上さんに盾突くか!? お前のせいで背汗がすごいんだが!?」


 成瀬が呆れながら息を吐いた。


「別に盾突いたわけじゃない。ニューズ・オンラインのランクアップの要件は満たしているんだから、当然の権利を主張しただけだぞ?」

「そうは言っても空気は読むべきだ。見たか、あの眼光の鋭さ? あの目を向けられた日には蛇に睨まれたように体がカチカチになっちまう。鬼ノ上(きのうえ)さんが裏で何て呼ばれているかお前知ってる? ”鬼の上位種(オーガ)”だぞ?」


 そんな成瀬の言葉に長谷部が口を挟む。


「いや、俺はよく言ったと思う。今の状況ではこれ以上サ終を回避する手立てはねえんだ。ニューズ・オンラインのことを第一に考えるならば、鬼ノ上さんだろうが、社長だろうが意見すべきだろう。今後山田が社内で冷遇されるかもしれんが、それは覚悟の上だろ?」


 ニヤリとする長谷部の言葉を聞いて山田は思わずぎくりとした。そこまで身の振り方を考えた行動ではなかった。しかし、ニューズ・オンラインのことを最優先に考える姿勢は変えるつもりはない。意見すべきだった。うん、そう思い込むことにしよう。


「いや、ま、まあ、そうですね。そういうことになりますよね……。というか、鬼ノ上さんって何者なんですか? 偉い人だっていうのはなんとなくわかりましたけど……」

「「はあ!?」」


 成瀬、長谷部、鎌田の驚く声が重なった。


「山田、誰なのか知らずに話してたのか? 馬鹿なの? 死にたいの?」


 成瀬がため息をついた。


「おいおい、酷い言われようだな。しょうがないだろ、定例報告なんてはじめてなんだから。辻村さんが統括長って言ってたからなんか統括してる人なんだろろ」

「統括長はRXシステムズのVRゲームすべてを統括するポジションだ。ニューズ・オンラインはもちろんのこと、環先輩がGMやってるバレンタイン・オンラインだって例外ではない。全部で10タイトルくらいの面倒を見ているんだ。RXシステムズのVRゲーム担当社員1000人の頂点に立つ人物だぞ」

「そ、そんなに偉いお方だったの?」

「ああ、普段なら会話する機会もないくらい雲の上の存在だ」

「そんなお偉いさんが何故わざわざチーム・ニューズオフィスまで足を運んでくるんだよ?」

「”現場の社員たちとコミュニケーションを取りたい”とかいう鬼ノ上さんの鶴の一声で月一の定例報告をやることになったが……鬼ノ上さんは報告聞いて2、3回激怒したら出てっちまう。報告会の後は、まるで鬼の上位種(オーガ)が食い散らかした跡のようにみんな死に体になることから、”鬼の晩餐会”なんて揶揄される始末だ。さらに、報告会の前にも資料づくりやら時間調整やらで余計な時間がかかるし、本当にはた迷惑な報告会だ」


 どうやら「風通しの良い職場」を目指した結果、形骸化した無意味な会議となってしまったのだろう。しかし、今回に限っては人員の補充も確約されたため、無意味にはならずに済んだ。やっててよかった鬼の晩餐会。


「山田くん、フォローありがとう。お陰でチーム・ニューズは人員の補充を受けられることになった。セキュリティ・ホールの調査もこれで進むことでしょう。鬼ノ上さんは私が交渉すべき相手なのに不甲斐ない姿を見せてしまったわ。ランクアップの件も、私が言い出したにもかかわらず約束を守れなくてごめんなさい」


 スピーカーから聞こえる辻村の声は少し沈んでいた。辻村から謝罪の言葉を聞くのは初めてかもしれない。鬼ノ上との会話中も、物怖じせずに何でも言いたいことをズバッと言う辻村らしくなかった。辻村でさえも鬼ノ上のことを恐ろしく思っているのかもしれない。


「いえ、大丈夫です。人員補充の確約ができただけでもサ終回避に向けては一歩前進です。まずは補充された人員と協力してセキュリティ・ホールの調査を行うという方針でいいですか?」

「そうね、よろしく頼みます」


 辻村がそう言い、深く息を吐いた。





 定例報告が終わり、メンバーは自らの席に散っていった。山田は自席に着くと一息ついた。そして、おもむろにカレンダーに目を向ける。既にGMイベント作戦が終わってから一週間が経過していた。


 その間のニューズ・オンライン内は慌ただしかった。


 カンナバルが大統領となったC&C連合国は、着々とシーツーに地盤を固めているようだ。C&C連合国は、緋龍の翼の代わりにシーツーの1号目から10合目それぞれを統率する”シーツー十合会(とごうかい)”を結成。緋龍の翼内外から人員を集め、民主的なシーツーの管理体制を構築した。


 今まで緋龍の翼が行っていたユニットの管理もその任を十合会に移行し、問題の多かった家賃の徴収については住人たちの意見が反映されるようになった。


 また、十合会は今まで緋龍の翼でカイザーが取り仕切っていたシーツーの既存ルールを改廃し、新たなルールを構築。そのルールを住人が順守しているかどうか監視する役目として、”自警団”を設置した。そして、その任を引き続きカイザーに任せることにしたようだ。ルールの構築と監視の役目を二分し、シーツーの治安はより民主的に管理されることとなった。


 そんな大きな変化が訪れているC&C連合国の大統領となったカンナバルは多忙な日々を送っているようだ。緋龍の翼のメンバーと住人たちの間に入り、意見をまとめ上げて実行に移す。大変な作業だと思う。


 この間カンナバルに祝辞を述べたときには、「目が回る忙しさで、初心者支援をしている暇がありません……」と嘆いていた。”ギニーデンのお母さん”が一気に老けこんで”ギニーデンのおばあちゃん”に様変わりしている姿には思わず苦笑してしまった。しかし、この仕事はカンナバルの交渉力がなければ勤まらない役目のように思う。代わりがきかない重大な役割だ。


 ちなみに、ギニーデンでの初心者支援は山田が以前から実施している”初心者支援時の経験値ブースト”を継続したため、滞りなく行われているようだ。


 そして、C&C連合国と並び、同じく国家を設立したという噂の”シキゾフレニア”。彼らは特段目立った動きがあるわけではなく、ニューズ・オンラインを管理する山田から見れば直近一週間は平和な日々であった。しかし、その動きのなさが山田の目には不気味に映った。ニューズ・オンラインを混乱の渦に巻き込むような何かを裏で準備をしているでは、そんな風に思ってしまう。


 考えたくはないが、万が一ニューズ・オンラインにセキュリティ・ホールがあり、それをシキゾフレニアが悪用しているのであれば一大事である。セキュリティ・ホールに対して対策を行い、彼らを裁く必要がある。セキュリティ・ホールが再び悪用される前に、一刻も早く調査を終わらせる必要があった。この件については鬼ノ上から確約をもらった追加人員の力量に期待をしたいところだ。


 次に、GMイベントの渦中にいた面々の近況についても言及しよう。


 まずは緋龍の翼のギルドマスター、ヒイロである。ヒイロはギルドマスターの任を続けるものの、シーツーの”街の長”ではなくなっていた。ギルド戦争の結末がすっきりしなかったこともあり、気落ちしているのかと思ったが、彼の表情はすがすがしいものだった。


 彼と会ったとき、山田はヒイロに「シーツーを手放して本当によかったのか」と尋ねた。すると、ヒイロは燃えるような笑顔でこう言った。


「僕の目標はみんなが好きなことを実現する場を提供することです。緋龍の翼がシーツーの運営権を手放すことでよりその目標が実現に向かうことに、今回の出来事で気づかされました。むしろもっと早くシーツーを手放すべきだったと、そう思い直しましたよ。それに、僕は元々隠れ家を作りたかっただけなんです。シーツーは隠れ家にするにしてはいささか大きくなりすぎました。もっと隠れ家らしい場所を見つけなければ」


 ヒイロはシーツーという荷を肩から降ろすことができ、まるで子離れしたかのように安堵しているのかもしれない。


 そして、同じく渦中にいたカスミ。彼女は最近ニューズ・オンラインに姿を現わさなくなっていた。妹のような存在であるターミリアには裏切られ、シキゾフレニアには自らの育てたアバターが悪用されてしまった。そんなショッキングな出来事が連続して起きれば、ニューズ・オンラインのことも見限ってもおかしくはない。しかし、彼女のニューズ・オンラインに対する愛情は尋常ではない。いずれ何事もなかったかのようにひょっこりと顔を出すであろうと信じている。


 最後にひとり忘れてはいけないのが彼女。GMイベントで行われたブラインドテイスティングの陰の立役者、ヤスコである。彼女についてはGMイベント終了後、挨拶もそこそこに立ち消えてしまった。「ログアウトってこのボタン押すんですねっ! あ――」といい残して訪れた突然の別れ。彼女はRXシステムズの新入社員だと言っていたので、社内で顔を見かけたりするかもしれない。ゲーム内とは顔が変わっている可能性もあるが、あの落ち着きのなさであれば一目見ればすぐにわかるだろう。


 そんなことを考えた翌日、山田は彼女と思わぬ再会を遂げることとなるのであった。


ここまで読了いただきありがとうございました!

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