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第3部 閑話 ターミリアの胸中

お久しぶりでございます。

3部を改稿し、再投稿しおわりました。そして、本話は完全新しい話です。

「新しい」というのは少々語弊があるかもしれません。

大きな決断を下したターミリアは何を思ったのか、その胸中をルックバックしたいと思い、本話を書きました。

3部8話と17話のターミリア視点となりますので、そちらも思い出しながら読んでもらえるとうれしいです。

◆カスミとの再会その1(第3部8話より)◆



 ターミリアはあの日、もう二度と目にすることはないと思ったあの眩しいくらいの笑顔を、遠巻きから眺めることになった。


「お、みんな久しぶりじゃんか。元気だったかー!?」


 カスミがシーツーの10合目まで上がってきて、四翼のメンバーを見るなりそう言った。カスミに会うのは、およそ1か月ぶりのことだった。感動的な再会シーン。ヒイロ、ニャンダ、そしてノワードやカイザーがカスミを取り囲んだ。仲間の帰還を祝福するメンバーたち。普段仏頂面が板についているカイザーやノワードでさえも、その時は嬉しそうに見えた。


 吐きそうだった。


 シキゾフレニアの策略によりカスミのアバターである”エアポケット”は強奪された。そして、半強制的に緋龍の翼からの脱退を余儀なくされた。それと同時にカスミの名声はニューズ・オンラインから消えたのだ。カスミにはもはや何も残っていない。カスミのすべてをターミリアが奪ったのだ。今のカスミは絞りカス同然だ。


 それなのに、カスミは目の前であの頃と変わらぬ笑顔を浮かべている。何故あんなに楽しそうにしていられるのだろうか? 私だったら悔しくて悔しくて立ち直れない。いつまでも恨めしく思うだろう。無理をしているんじゃないだろうか? 本当ははらわた煮えくりかえっていてそれを胸の内に秘めたまま、表面上取り繕っているだけなんじゃないだろうか?


 そんなことを考えながらカスミのことを眺めていると、封印したはずの”あの感情”が見え隠れする。”憧れ”という憎たらしい感情が。


 ターミリアはいまだに”憧れ”が消え失せていないことに驚いた。


 カスミに憧れる要素などこれっぽっちもない。ターミリアはすべてを手に入れたはずだ。カスミには何もないはずだ。


『私はカスミになんて憧れていない!』


 心の中でそう叫んだ。その時、カスミの目がターミリアに向けられた。


 自らの心臓がドクンと脈打つ音が聞こえる。


「ターミリアも久しぶりだな! お前、四翼になったんだって!? おめでとう!」


 耳を疑った。


『お前を貶めたのは私だ! お前からすべてを奪ったんだ!』


 そう言ってしまいたかった。バラしてしまえば、カスミの歪んだ表情を見ることができるだろうか。カスミは悔しがってターミリアに襲いかかってくるだろうか。”憧れ”と決別する方法はそれしかないように思えた。


 言おう。言ってしまおう――


「……ありがとう」


 しかし、口をついたのは短いお礼の言葉だった。寸前のところで思いとどまった。まだバラす訳にはいかない。”あの方”の作戦が台無しになってしまう。


 ターミリアは必死に表情を取り繕った。




◆カスミとの再会その2(第3部17話)◆



 体が重い。


 何をするにも無気力で、気分が沈む。食欲もなく、顔色も悪い。


 ターミリアはため息をついた。目の前には庭にこしらえたターミリア自慢の薔薇園。しかし、真っ赤に咲き誇る薔薇ですらも今は色を失って見えた。おとといまでは色鮮やかに映った世界が今はモノトーンに様変わりしている。


 原因はわかっている。おとといカスミと顔を合わせたからだろう。そして、ひょっこりと顔を出した”憧れ”という感情。”憧れ”は未だにターミリアを支配しているとわかり、その胸中は絶望で満たされていた。どうすればこの感情から逃れられるのか、もはやわからなかった。


 明日は緋龍の翼との決別の日が控えている。さらなる高みを目指して新たな一歩を踏み出す記念すべき日だ。それにもかかわらず一歩を踏み出す前に躓いたような形だ。


――ドンドンッ


 その時、まるで殴りつけているかのように乱暴なノックの音が玄関から聞こえた。


「おーい、ターミリアー! いるかあー?」


 カスミの声だった。ターミリアの心がざわつきはじめる。どうしたのだろうか。おととい会ったばかりなのだから、尋ねてくるほどの用もないはずだ。まさか、ターミリアが裏切者であることがバレたのだろうか? いや、それはない。アンデルたちとは一切の接触を断っているのだからバレるはずがない。


 それでは別のこと――例えば、四翼の称号を返してほしいと言ってくるのではなかろうか。カスミにとって四翼は大事なステータスだったはずだ。おとといは無理してその思いに封をしていたに違いない。今日はそのリベンジといったところだろうか。


 カスミがターミリアを妬む姿を想像し、ニヤリとする。気分がよかった。カスミもターミリアと同じだ。自らを着飾る称号が欲しいのだ。


 ターミリアは急いで玄関の扉を開ける。すると、そこにはカスミとヤジマGM、カイザーの姿があった。そして、驚くことにカスミだけがモノトーンの世界から解放され、色づいて見えた。


「突然、どうしたのかしら?」


 ターミリアがその現象に目を丸くしながら問いかけると、その答えは予想とは反するものだった。


「ちょっと明日のGMイベントの宣伝をシーツーでやりたくてな! ターミリアのやってた拡散方法を思い出したんだ!」

「そう……」


 ターミリアはカスミの答えに拍子抜けしてしまった。四翼の称号を取り返しに来たわけではなかった。カスミは四翼の称号のことなど気にも留めていない――その事実はターミリアを惨めにさせる。


「ヒイロからGMイベントには全面的に協力するように言われているわ。私のできることであれば協力するわよ。さあ、中に入って頂戴」


 何とか表情を取り繕ってターミリアはそう言って3人を部屋に招き入れた。ターミリアの胸中などつゆ知らず、目を輝かせながら薔薇園を眺めるカスミのことを(うと)まずにはいられなかった。





 カスミが言った”拡散方法”とは、ターミリアの魔法スキルを用いた方法のことだ。GMイベントの宣伝が記載された貼り紙を”マネトリグサ”に食べさせて複製。大量の貼り紙を風魔法のスキルに乗せてシーツー全体へばらまくのだ。


季節外れのつむじ風アンシーゾナブル・ウインド


 庭でターミリアがそう呟くと、大量の貼り紙が風によって巻き上げられていく。そして、大きなくす玉を割ったかのようにひらひらとシーツー中に舞い落ちていった。


「ターミリアの”くす玉割り”、久しぶりに見たけどやっぱすげーな!」


 ターミリアの横ではカスミが無邪気にその様子を見入っている。その笑顔を見ているだけで、目に映る世界のモノトーン化が加速した。そしてカスミだけがひと際鮮やかに見える。


 何故ターミリアはカスミに憧れてしまうのだろう。何もかも失ったカスミに、何故憧れを抱いてしまうのだろう。


 「名声」「地位」「容姿」「能力」カスミの持っていたすべてをターミリアは手に入れたはずだ。それなのにターミリアはカスミに憧れている。もしかして、ターミリアは大きな勘違いをしているんではなかろうか。不意にそんな不安に襲われた。


「カスミ、あなたは私が代わりに四翼になったことをなんとも思ってないの?」


 思わず、尋ねてしまった。


「ん、なんだ突然? そりゃうれしいに決まってるだろ!」

「でも、このポジションは元々あなたのものだった……。あなたは四翼に戻りたいとは思わないの?」

「……んー、思わないかな! 今は新しいアバターを育てるのが楽しいんだ! それに、タ―ミリアの実力なら十分に四翼の役割を全うできるだろう? タ―ミリアが立派に代わりを務めてくれているから、もう私は必要ないよ」

「……うん」


 やはり、カスミは四翼を奪われたことなど気にしていなかった。それどころか四翼の称号自体、眼中になかった。


 その時、ターミリアはハッとした。こんな簡単なこと、なぜ今まで気づかなかったのだろう。


――四翼では弱い


 そうだ、そうにちがいない。四翼はカスミも手に入れていた称号。価値のあるものと考えていないのだろう。それなら四翼より上の称号を手に入れ、完全にカスミより上に立つのだ。そうすれば憧れの感情はなりを潜め、カスミはターミリアに嫉妬するだろう。


「――頑張る」


 タ―ミリアはそう呟き、三角帽子のつばでモノトーンの世界を無理やり遮断した。


ここまで読了いただきありがとうございました!

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