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第3部 54話 ゲームマスターとDo It Yourself

◆ニューズ・オンライン シーツー10合目 GMイベント会場◆



 突然”エアポケット”が暴走し、ヤジマは一時(いっとき)は戦慄が走ったものの、ヒイロの素早い行動により事なきを得た。しかし、アンデルを取り逃がしてしまったことは痛かった。このイベントが終了したら”シキゾフレニア”の不正操作の調査に乗り出すつもりではあるものの、それまでの間に証拠隠滅を図られる可能性もある。不正操作の首謀者と思われるアンデルを取り逃がしたことで、不正操作の調査が頓挫する可能性だってあるのだ。


 しかし、今この場を飛び出して調査に乗り出すわけにもいかない。一旦このギルド戦争、そしてGMイベントを終わらせる必要がある。ヤジマはヘルに目配せすると、ヘルはコクンと頷いた。


「”シキゾフレニア”側の不正操作が発覚したため、ギルド戦争三戦目”決闘”の勝者は、緋龍の翼のヒイロです! そして、このギルド戦争は緋龍の翼の勝利になります! 今回のギルド戦争では、両ギルドはシーツ―の運営権を賭けて勝負を行いました。緋龍の翼はギルド戦争に勝利したことにより、シーツ―の運営権を手にします!」


 ヘルのアナウンスが会場に流れると、観客席はひと際ざわつき始める。ヤジマとしては、”シキゾフレニア”の不正操作を理由に”決闘”を強制終了したことについて、歯切れの悪さを感じていた。先ほどまで観客席からは”シキゾフレニア”を後押しする声が多く聞かれた。その応援していた対象が突如としていなくなり、観客としても面食らっているのだ。


『”シキゾフレニア”の奴ら、不正操作をしていたなんて汚ねえ奴らだ。やっぱり緋龍の翼に勝てる奴らなんてニューズ・オンラインにはいないんだよ! 緋龍の翼、万歳!』

『でも、”シキゾフレニア”が言った”シーツ―を理想郷(ユートピア)にする”という話は事実なんだろう? 緋龍の翼が勝ったことでその話もおじゃんだろうに。残念だ……』

『不正操作を行う奴らが約束を守るとも限らないだろう。今回の件でシーツ―の運営権は緋龍の翼のものだ。俺たちはこれからも緋龍の翼に搾取され続けるしかないんだ……』


 観客たちの間ではまだ、両ギルドをそれぞれを支持する意見が飛び交っている。ギルド戦争開幕前は緋龍の翼の支持一色であり、”シキゾフレニア”がギルド戦争を敗北で終わったにもかかわらず、この世論の変化の仕方は異様に思えた。それだけ、アンデルの言葉は観衆にインパクトを与えたのだ。そのことについてはヤジマにとって純粋に予想外のことであった。


「GMのヤジマです! 今回の”シキゾフレニア”側の不正操作をこの段階まで見抜けず申し訳ありませんした! 不正操作の調査は今後適宜進めてまいりますので、ご安心いただけますと幸いです」

「――ヤジマさん、私からも少しよろしいでしょうか?」


 無言を貫いていたヒイロがここにきて口を挟む。ヒイロの表情は決闘中とは打って変わってどこか晴れやかであった。ヤジマが頷くと、ヒイロが観客席を見渡しながら言葉を紡ぐ。


「緋龍の翼が手にしたシーツ―の運営権ですが、緋龍の翼はこれを放棄することを宣言します」

「えぇ!?」


 ヤジマは思わず叫んだ。闘技場にいるヤジマの仲間たちや、観衆も皆一様に驚いているようだった。


「今回の一件で私たち緋龍の翼としても反省すべき点が見えてきました。シーツーはプレイヤーそれぞれが好きなことを実現する場所です。つまりは誰のものでもない。何者かが――例えそれがシーツーを作った緋龍の翼でさえも運営権を手にするべきではないのです。今後、緋龍の翼とシーツーの運営は切り離し、より透明性、民主性の高いシーツーの運営を目指す腹積もりです。皆様、今後とも緋龍の翼、そしてシーツーのことをよろしくお願いいたします」


 ヒイロはそう言い終えると観客席に向かって深々と頭を下げた。ニューズ・オンラインのトッププレイヤーであるヒイロが一般のプレイヤーに向かって頭を下げている。その事実は闘技場を静まらせるのには十分すぎる衝撃であった。


――パチ


 どこからともなく手を叩く音が聞こえ始め、闘技場を包んでいた静粛を破る。そして、その音源が徐々に増え、音が重なり合っていく。ついには万雷の拍手へと変貌を遂げた。闘技場に喝采が降り注ぐ中、ヤジマは顔を上げたヒイロに尋ねる。


「いいんですか? シーツ―の運営権を放棄してしまって……。安定的にシーツ―の運営を行うためには、運営権は必要不可欠ではないのですか?」

「いいんです。今回の一件で気づかされました……。所有者がいるからよこせと言ってくる輩がいる。誰のものでもなければ、そんなこと言ってくる輩もいないんです。そして、プレイヤー達もそれを望んでいる。私たち緋龍の翼はプレイヤー達の意見に耳を傾け、シーツ―を平等な街へとすべく注力していきたいと思います」


 ヒイロがフッと燃えるような笑顔を作った。その表情や言動から、再びヒイロらしさが垣間見えた気がした。ニューズ・オンラインの花形プレイヤー、ヒイロ。その圧倒的な貫禄が観客の納得を得ることにも繋がったのだと思った。ヤジマはそんな力強いヒイロの姿を見て一時(いっとき)顔をほころばせ、そして次の瞬間には表情を引き締めなおす。


 ヤジマにはもう一つ決着をつけなければならぬことがあるのだ。ここ一週間ヤジマの頭を悩ませていたこと。方向性が全く見えず頓挫しかけていたものの、このGMイベントが終わりに近づいている今、ヤジマの覚悟は決まっていた。ヤジマは観客席を眺めながら意を決して話を始める。


「皆さん、今日はGMイベントにご参加いただき、ありがとうございました! これにて第一回ニューズ・オンラインのGMイベントは終了です! そして最後にお知らせとなります。以前から皆さんが気にされているニューズ・オンラインのグランドクエストについてですが、この場を借りてご報告したいと思います」


『おお!? 待ってましたー!』

『ついに、ニューズ・オンラインのグランドクエストが明らかに!?』


 色めき立つ観衆たちを前にして、ヤジマは大きく息を吸い込み、肺を空気で満たす。そして、言い放った。


「――グランドクエストはこのニューズ・オンラインには存在しません!」

『『えぇーーー!?』』


 五右衛門の動画をきっかけに少し前からニューズ・オンライン界隈を騒がせていたグランドクエスト。ヤジマはこのGMイベントを通して、ある考えに至った。


 ヤジマは当初、グランドクエストという道しるべがないために、プレイヤーたちがこのゲームの中で路頭に迷っているのではと想像していた。ゲームを始めるといきなりニューズ・オンラインという広大な場所にほっぽり出され、何を目指して良いのかも分からずにもやもやとしながらプレイをする。そして、結局はゲームが楽しくなくなってやめてしまうのだと思った。


 しかし、緋龍の翼のギルドメンバーたちがプレイする姿を見てから考えが変わった。そんなことは毛頭なかった。彼らは自らの存在意義となるプレイする理由を自力で見つけて、ニューズ・オンラインをプレイする。


 プレイヤーの好きなことをサポートする者

 建築士として街の整備に全力を注ぐ者

 フードハンターとして料理の収集を行う者

 信頼する仲間の支援に注力する者

 華麗な花々に魅了されて収集を行う者

 よい街づくりをしたい一心でルールの取り締まり注力する者


 プレイの仕方に正解なんてない。それはプレイヤーの数だけ存在していいのだ。彼らには道しるべなど必要ない。プレイヤー自らが道しるべを見つけることができるのだ。


『じゃあ、グランドクエスト発表間近っていう噂は嘘っぱちだったのか……?』

『遺跡型ダンジョンの消失だとかの超常現象はどう説明するんだ? どういうことなんだー!』

『ゴエモンの推測も誤りだったってことか……こりゃ一大事だ!』


 案の定、観客席からは戸惑いの声がちらほらと聞こえてくる。


「ニューズ・オンラインのコンセプトは”|D・I・Y《Do It Yourself》”です! 自分でできることは何でもやってみて、自分なりの”好き”を探しましょう! グランドクエストは存在しませんが、私はGMとして皆さんの”好き”が必ず見つかるようなゲームにしていきます!」


 ヤジマの決断がこの先どう転ぶかは分からない。しかし、緋龍の翼のギルドメンバーたちが生き生きとプレイする姿を見ると、とってつけたようなグランドクエストは無粋としか思えないのだ。2年前に追加された戦闘機能の出現によって、消えたはずの|D・I・Y《Do It Yourself》のコンセプト。これらは確実にプレイヤーたちの中に根付いて、今もなお生き続けているのだ。


 ヤジマは闘技場に(たたず)む仲間たちに目を向ける。


「全くお前ってやつはまた勝手なことを……」と頭を抱えるヘル。

「作戦はうまくいったのだから、辻村さんには一人で謝罪するのよお?」とジト目で冷たい視線を投げかけるタマキ。

「しーらね」と短く吐き捨ててそっぽを向くハセベ。

「あーあ、グランドクエストで新たなレアアイテムが出現するかと思ってたのに残念だわー」と口をとんがらせるカスミ。

「ヤジマさんは本当に面白い人ですね」と燃えるような笑顔を見せるヒイロ。


 彼らとともに、その意志を守り抜いていこう。ヤジマはそう決意を新たにした。


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