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第3部 51話 ゲームマスターと錯綜する想い

◆ニューズ・オンライン シーツー10合目 GMイベント会場◆



 ヤジマは、取り囲むようにして”エアポケット”の動きを通じているヘル、ハセベ、タマキを見て目を丸くした。


「まさか3人が飛び出してくるとは思わなかったです……」


 開口一番ヤジマはそう(つぶや)いた。ヤジマの独断行動については、チーム・ニューズのメンバーに土下座でもして許しを請うくらいのつもりだった。しかし、まさか彼らまでもが自発的に闘技場まで飛び出してくるとは思ってもみなかった。我ながら大胆だと言わざるおえない行動は、ヤジマの心臓の鼓動を加速させていたが、彼らの顔を眺めていると心強く、少し落ち着きを取り戻せる気がした。


「まあ二人のためというより、先輩を守るためだけどな!」


 ヘルが恥ずかしそうに自らの頬を()いた。ヘルの言葉を聞いたタマキはため息をついた。


「ヘルくん、素直にカスミさんのことが心配だったと言えばいいのに……。でも――」


 タマキが眉間にしわを寄せ、片手を腰に当てた。


「ヤジマくん、独断行動はダメでしょう? 後で辻村さんのお説教が待ってると思いなさいねえ」

「うっ……」


 ヤジマはそれを聞いて項垂(うなだ)れた。覚悟はしていたものの、改めて言われると気の滅入る話だった。タマキは落ち込むヤジマの様子を気にする素振りも見せずに言葉を続ける。


「それにしても、ハセベさんがいらっしゃったのは意外でしたねえ」

「まあ、あんな泣かれ方して助けなかった日には、目覚めが悪いからな……」


 ハセベの言葉を聞いたカスミは目元をゴシゴシと(ぬぐ)いながら反論する。


「ちょ――そんな泣いてねえし! 目から汗が出ただけだし!」


 ヘルが犬耳を畳んで心配そうな表情でカスミの顔を覗き込む。


「……目の病気か? オススメの眼科紹介してやるぞ?」

「この言い方で私の心情を把握できないのはお前だけだぞ!?」


  カスミがそう叫んだ後、ヤジマは背後から迫る足音に気づいて後ろを振り向く。そこには、”暴風牢獄(エア・ジェイル)”から解放されたヒイロが、ゆっくりと近づいてきていた。


「皆さん、お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」


 ヒイロは開口一番に謝罪を口にして、(こうべ)を垂れた。そして頭を上げるとすぐに、右手に握った大剣の切っ先を”エアポケット”へと向ける。


「カスミ、あの”エアポケット”は、やはり別の誰かが操っているのか?」


 ”エアポケット”はやはりというべきか、この囚われた状況でも一切の言葉を交わさず微動だにしない。目は虚ろで虚空を眺めるばかりだ。その反応は、他の”シキゾフレニア”の”ゾンビ”と同じ反応であった。


「――うん」


 カスミはヒイロの問いに大きく頷いた。それを見たヒイロはフッと燃えるような笑顔を作る。


「そっか、安心した。カスミも緋龍の翼のことを見限ったのかと思ってしまった」

「私が緋龍の翼を嫌いになる訳ないじゃん! 万が一嫌いになったら面と向かってヒイロに文句言いに行くから心配すんなよ!」

「ハハハ……それはそれで怖いな。でも、ありがとう。カスミがそう言ってくれたお陰で九死に一生を得た気分だよ」

「なーに辛気臭いこと言ってるんだよ! 勝負はこれからだろ!?」


 ヒイロが儚げに笑顔を作る。


「いや、この”ギルド戦争”、緋龍の翼の負けだよ。僕は仲間を信じ切れなかった……。緋龍の翼の皆には申し訳ないことをした」

「そんな――」


 カスミが悲壮な面持ちで絶句した。ヤジマにもヒイロの考えは理解できた。”エアポケット”に追い詰められたヒイロは、状況を覆す術を持っていなかったということだ。相手がどんな汚い真似をしてきたとしても、ルール上ではヒイロの負けは、ほぼ確実なものであった。負けを認めるその潔さはヒイロらしいといえばヒイロらしい答えだと思う。


 しかし、今は勝敗を決する前にやらなければならぬことがある。ヤジマは”エアポケット”越しに垣間見える闘技場の脇に視線を移す。


――アンデル


 そこには、ヤジマたちに冷ややかな視線を向けるアンデルが(たたず)んでいた。


 タ―ミリアに緋龍の翼を裏切らせ、シーツ―市街地集団戦の勝利を無理やり手に入れた。さらに、観客を扇動し、緋龍の翼を悪者へと仕立て上げた。挙句の果てには、”エアポケット”を使ってヒイロのメンタルに揺さぶりをかけ、ギルド戦争の勝利に王手をかけた。全てルール違反すれすれのグレーな行為であった。ヤジマとしてもGMイベントにおいて、これ以上好き勝手されるのは我慢できない。


「――ヒイロさん、まずは今この急場を決着させましょう。勝敗の話はそれからです」


 タマキがうんうんと頷き返す。


「そうねえ。この会場の雰囲気も何とかしないとねえ」


 ヤジマが観客席に目を向けると、そこでは罵詈雑言の嵐が巻き起こっていた。


『何で勝手に試合を止めてるんだよ! 説明しやがれ!』

『”シキゾフレニア”の勝利目前だったのに……。運営が不正に加担するってどういうこと?』

『運営はさっさとひっこめ!』


 まさに針のむしろという言葉が相応(ふさわ)しい状況下にあった。観客から放たれるフラストレーションの嵐に当てられ、ヤジマの肌がピリピリと痛んだ。そんな硬い表情のヤジマを見たヘルがため息をつく。


「勝手に出て来ておいて悪いが、この状況の打開策は持ち合わせていないぞ? いくら奴らが悪行の限りを尽くしたところでルール違反には該当しないんだ。今の状況では”エアポケット”の反則負けを取ることなんてできないぞ?」


 ヘルの言う通りであった。アンデルを追い詰めるには明確なルール違反を指摘する必要があるのだ。そこでヤジマは無理やり口元を引き上げて見せる。


「少し考えがあるんだ」


 ヤジマはそう言うと、この”ギルド戦争”を締めくくる最後の作戦を説明し始めた。


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