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第3部 46話 ゲームマスターと揺れる気持ち

◆ニューズ・オンライン シーツー10合目 GMイベント会場 運営側ブース◆



 ヤジマは、シーツー市街地集団戦の結末に愕然(がくぜん)としていた。


 緋龍の翼は仲間からの裏切りに遭い、まさかの敗北を喫した。そして、ゴエモンがアンデルへインタビューを決行し、”シキゾフレニア”の目的が明らかになった。


――全てのプレイヤーが心置きなくゲームを楽しめる環境を整えたい


 その目的は本来、GMであるヤジマの実行すべきものである。そんな目的を盾にされ、GMイベントで好き放題を許してしまうとは、何とも皮肉めいたものだった。


 確かに”シキゾフレニア”はギルド戦争のルールを破ってはいない。しかし、やって良いことと悪いことがある。”シキゾフレニア”の行ったこの愚行は明らかに後者だった。


 シーツー10合目の荒野には、観客の歓声と罵声が混ざりあって轟いている。観客は、先ほどまで袋叩きにしていた”シキゾフレニア”のことを、一転して歓迎するムードへと変わっていた。それに対して緋龍の翼には、打って変わってその矛先が向けられつつある。


『確かに緋龍の翼に一定の額を上納しないとシーツーに住めないっていうのは、納得できてなかったんだ! 俺は”シキゾフレニア”の考えに賛同するぞ!』

『シーツーには住めないと思ってたけど、”シキゾフレニア”が運営すれば住めるようになるのか!? それなら俺も賛同する!』

『緋龍の翼は私たちと同じ一プレイヤーのはずなのに、何の権利があってお金を徴収するのかしら!? そんなの許せないわ!』


 ヤジマはシーツーの大穴を挟んで観客席とは反対側にいる緋龍の翼の面々に目を向ける。先頭に立つギルドマスターのヒイロは目を閉じ腕を組みながら、観客から浴びせられる罵声を甘んじて受けている。そんなヒイロを見ると心が痛んだ。


 今すぐにでも運営ブースを飛び出して、ヒイロの元に駆けつけたかった。ヒイロと観客の間に立ちはだかり、「違うんだ」と叫びたかった。ヒイロは、皆が好きなことをできるように、緋龍の翼を作り、そしてシーツーを作ったのだ。ヒイロこそ、「ゲームを楽しめる環境を整える」ことを実行に移している人物である。それにもかかわらず、観客たちは皆、アンデルの言葉を自らに都合の良い方向で解釈してしまっている。


「なあ、ヤジマ! 何とかヒイロを助けてやってくれよ! 今までプレイヤー達のためを思ってシーツーを運営してきたのに、これじゃあ、あいつが可哀想だよ……」


 ヤジマの横にいたカスミが悲痛な面持ちで叫んだ。


 今ヤジマが運営ブースを飛び出していったらどうなるだろうか。運営という中立な立場で一方のギルドの肩を持つことはできない。ルールを破っていない”シキゾフレニア”へ警告を促すこともできない。そんな中、緋龍の翼を(かば)ってしまえば、運営の信用は失われ、身勝手な運営だと非難されるだろう。最悪、GMイベント自体が中止になりかねない事態にまで発展する可能性だってある。


 しかし、本当にこれでよいのだろうか? 緋龍の翼が非難されている真因はGMであるヤジマにあるだろう。シーツー市街地集団戦では、”シキゾフレニア”の愚行を許してしまった。アンデルの言ったゲームを楽しめる環境が整っていないのも、元はといえばヤジマの手が回っていないせいだ。非難されるべきはヤジマなのだ。


 無用な非難を浴びせられている緋龍の翼を助けたいという確かな気持ちが、ヤジマの中には芽生える。そして、その気持ちが止めどなく(あふ)れ始める。


――何とかしなきゃ


 そう思い、ヤジマの足が一歩を踏み出そうとした丁度その時、肩を掴まれてヤジマの行動が何者かに(はば)まれる。


「ヤジマくん、どこへ行くの? ギルド戦争はまだ終わっていないよお?」


 タマキの声だった。何故止めるのかと、タマキの落ち着いた声がこの時ばかりは(わずら)わしく感じた。


「だって――」


 ヤジマは反論しようとタマキの方を振り向く。次の瞬間、ヤジマはタマキの表情を見て言葉を失った。タマキは下唇を嚙みながら悔しそうな表情で緋龍の翼のいる方を眺めているのだった。


「……みんなだって同じ気持ちだよお?」


 タマキにそう言われてヤジマが周囲を見渡すと、ヘル、カンナバル、カマタが皆一様に苦々しい表情を浮かべている。


「緋龍の翼の汚名返上は、後で必ず成し遂げようねえ」

「……わかりました」


 タマキの言葉に、ヤジマは深く頷いた。

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