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第3部 45話 ゲームマスターと潮目

◆ニューズ・オンライン シーツー5合目 商店街エリア◆



「――聞こえますか、この音が?」


 5合目の鉄橋に着地したゴエモンがアンデルに近づいていくと、突然アンデルから話しかけてきた。突拍子もない問いかけにゴエモンは戸惑いを隠せなかった。


「……何のことっすか?」

「崖に反響した音が共鳴し、体を震わせるような濃厚な重低音を奏でています。まるで断末魔の叫びのようです……」


 アンデルはそう言うと目を閉じて耳を澄ませる。まるで流水でも浴びているかのように心地よさそうな仕草であった。


 観客席から聞こえる”シキゾフレニア”や運営側へと向けられた非難の声。それが重低音となってアンデルの元に届いているのだ。もちろん、アンデルも音の正体は百も承知であろう。わかった上でのその行動は悪趣味と言わざる負えない。


 ゴエモンはそんなアンデルの行動に顔をしかめながらも、一気に本題へと切り込む。


「”シキゾフレニア”のマスターさん、俺の目は観客席のモニターとリンクしているっす。だから、プレイヤー代表として、マスターさんに質問をさせてほしいっす」


 アンデルが目を閉じたまま何も言わないため、ゴエモンは言葉を続ける。


「”シキゾフレニア”って一体何なんすか?」


 アンデルの体がぴくっと反応する。閉じた目が少し開き、ゴエモンの方を見た。そしてせせら笑いを始める。


「クククク……驚きました。”何故汚い手を使ったのか?”と(とが)められるのかと思いましたよ」

「その疑問についても、今尋ねた質問の答えを聞けばわかるような気がするっす」


 ゴエモンの言葉に、アンデルが声を上げて笑った。


「――いや、失礼。なるほど、恐れ入りました。折角皆さまにご覧いただいている場ですので、誠意あるお答えをいたしましょう。”シキゾフレニア”は――希望です」

「希望?」


 ゴエモンは眉をひそめた。


「はい。このニューズ・オンラインをプレイする全てのプレイヤーは多少なりとも、不平不満を抱えながらプレイしていることと存じます。そういった不平不満のない、全てのプレイヤーが心置きなくゲームを楽しめる環境を整えたい。それを実現しようとしているのが”シキゾフレニア”です」


 至極真っ当な回答に、ゴエモンは豆鉄砲を食らった気分だった。しかし、そんな綺麗事を聞いたからといって、”シキゾフレニア”のこれまでの行動について納得できるわけがない。ゴエモンはアンデルの言葉のほころびを探り始める。


「マスターさんは、現状、誰もが楽しめるような環境ではないと思ってるんすか?」

「もちろんです。ニューズ・オンラインにはプレイのしづらさが散見されます。例えば、今のニューズ・オンラインの仕様は初心者には優しくありません。初心者一人ではモンスターを倒すのも一苦労です」

「運営側もそういった意見には気を配って、初心者支援などの対策を打って出ているっすよ?」

「クククク……。問題はもっと根深いのです。ニューズ・オンラインのプレイのしづらさは、”覆すことができないヒエラルキー”から来ています。ギルドなどの支援者の支援を受けた初心者たちは、その後どうなりますか?」

「……ある程度のレベルまで到達すれば、独り立ちできるんじゃないすかね?」

「いいえ、違います。初心者たちは一人前になったとしても、支援者たちに付き従うほかないのです。それは、支援者たちがシーツーなどのプレイに必要なインフラを握っているからです。それらのインフラを使用するために、初心者たちは労働力やコストを彼らに提供し、”ヒエラルキー”の最下層でプレイすることになる。結局のところ、一部のヒエラルキーの頂点に立つプレイヤー達だけが、このニューズ・オンラインを謳歌しているという状況。こんな環境でどうやったら楽しめるのかと、私が聞きたいくらいです」


 アンデルの回答をゴエモン越しに聞いていた10合目にいる観客たちがザワつき始める。少なからず観客の中にもアンデルの意見に共感するものがいるのだろう。


 確かに、アンデルの言うことにも一理はあった。そういったプレイのしづらさというのは、ニューズ・オンラインにはある。それはカンナバルから初心者支援を受けていたゴエモンが身をもって知っている。しかし、支援者たちのことを搾取する側だなどと、極端な考え方をしたことはなかった。


「……マスターさんの考え方はわかったっす。じゃあ、なんで”シキゾフレニア”は”ギルド戦争”を仕掛けたんすか? この”ギルド戦争”が、ゲームを楽しめる環境を整えることになんの関係があるんすか?」

「クククク……。”ギルド戦争”は成り行きで行っているに過ぎません。”シキゾフレニア”の目的は”シーツー”を譲り受けること。そして、シーツーを”理想郷(ユートピア)”に作り変えることです」

「”理想郷(ユートピア)”!?」


 ゴエモンが叫ぶと同時に、観客席のザワつきが大きくなる。


「ええ、”覆すことができないヒエラルキー”、その最たる例が緋龍の翼のシーツーという重要インフラの運営方法です。緋龍の翼のギルドメンバーやシーツーの住人たちは、緋龍の翼へ労働力やコストといった”血税”を支払っている。緋龍の翼の幹部たちは彼らの”血税”を使ってシーツーを思うがままに運営しているんです。これは如何(いかん)せん不公平だとは思いませんか?」


 ゴエモンは耳を疑った。緋龍の翼のヒイロたちはアンデルの言う”血税”を使って、ギルドメンバーやシーツーの住人たちのために、シーツーの整備を行っているのだ。それをアンデルが不公平だというのには違和感を覚えた。それに、緋龍の翼のシーツーの運営方法はプレイヤー達に受け入れられてきたからこそ、シーツーはここまで目覚ましい発展を遂げたのだ。それを発展した後に非難するのは、後出しジャンケンしているようなものだ。


 言葉を失っているゴエモンを横目に、アンデルは言葉を続ける。


「”シキゾフレニア”はシーツーにおける、”覆すことができないヒエラルキー”を撲滅したいのです。この”シキゾフレニア”の考えに賛同した四翼のターミリアさんは、真っ先に緋龍の翼へ反旗を翻し、シーツー運営権獲得の手助けをしてくださいました。難しいことは百も承知です。しかし、万が一シーツーの運営権を手に入れることができた暁には、シーツーを全てのプレイヤーの”好きなこと”が実現できる、エンターテイメント性の高い街に作り変えます。そして、どんなプレイヤーに対しても、シーツーで好きなことが実現できるような資本を提供いたします」


 その言葉を聞いたゴエモンが反論しようと肺に息を吸い込んだところで、観客席のザワつきは一転、歓声へと変わって爆発する。


『それって、金貰えるってことだよね!? すごくね!?』

『金貰えるんだったらやりたいことたくさんあるんだけど!?』

『うおおおおおお!! テンション上がってきたー!!』


 体の芯に響いていた重低音が徐々に高音へと変化していく。そして、手のひらを返したように色めき立った歓声がシーツーに響き渡った。


 ゴエモンはその様子に愕然としながら、歓声の熱気に飲まれた。

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