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第3部 42話 ゲームマスターと花摘み

◆ニューズ・オンライン 一年前◆



 この頃からターミリアは、カスミの姿を追いかけるようになった。


 カスミのように思ったことをズバズバ言えるようになりたい。

 カスミのように仲間の輪の中心にいたい。

 カスミのようにカッコよくて皆が一目置く存在になりたい。


 カスミを金魚の糞のように追い回した。カスミから貰った薔薇色のローブを着こみ、地味な三角帽子は花で飾り付けた。冴えない眼鏡も外した。


 すると、いつ頃からか植物系の魔法スキルを使用することも相まって、”花の妖精(フラワーフェアリー)”という二つ名で呼ばれ始めた。その名がニューズ・オンラインに広まるにつれて、ターミリアを見る人の目が少しずつ変わっていった。ニューズ・オンライン中のプレイヤー達がターミリアのことを羨望の眼差しで見つめ始めたのだ。


 街を歩けば、見知らぬプレイヤーから「お会いできて光栄です」なんて声をかけられる。中には、ターミリアのファンであると自称するものまで現れた。そういった人たちの顔は、ターミリアの目には型で()めこまれたように同じ笑顔に映った。


 そのテンプレのような笑顔であれば、安心して眺めていられる。初めて人の顔を正面から見ることができた気がした。話したいように話すこともできた。心地がよかった。


 その時、ターミリアは自分に足りなかったものに気づいた。


――そうか、私自身を飾らなければいけなかったんだ。


 人は私の内面なんてどうでもいいのだ。「名声」「地位」「容姿」「能力」などといった外から見える”華やかさ”で私を判断する。そのためには、見た目重視の華やかな”花”をたくさんを集める必要があるのだ。


 ターミリアは、緋龍の翼のエンブレムを胸に付けて、トップギルドのメンバーであることをひけらかした。


――足りない


 ”花の妖精(フラワーフェアリー)”の二つ名を振りかざし、その能力の高さを周囲に見せつけた。


――足りない足りない


 ターミリアが丹精込めて作った自宅の庭園は、花を全て引っこ抜き、華やかな薔薇に植え替えた。


――足りない足りない足りない


 いくら花摘みしようとも、カスミには追いついていない気がする。カスミは四翼に就任した。ニューズ・オンラインを代表するプレイヤーとして、緋龍の翼を代表するプレイヤーとして、ターミリアのはるか先を歩き始めた。


 カスミに比べると”花の妖精(フラワーフェアリー)”という二つ名でさえも安っぽく思えた。二つ名がニューズ・オンラインに(とどろ)いたからといって、トッププレイヤーの集まる緋龍の翼の中では烏合の衆の一人に過ぎない。ギルドメンバーから認められたい。そのためには絶対的に必要な”花”があった。


――四翼になりたい


 ターミリアを突き動かす欲望は、最早止めることが出来なくなっていた。



◆ニューズ・オンライン 2か月前◆



 ターミリアの中で四翼になりたいという想いが少しずつ大きくなっていったものの、実際のところ難しいことであるのはわかっていた。四翼の枠は既に、カイザー、ノワード、ニャンダ、そしてカスミの4名で埋まっており、空きはない。


 実力的には四翼に引けを取らない自信はあった。しかし、四翼には任期が定められていないため、交代する日が来るのかどうかもわからない。さらには、ギルドメンバーの中でライバル争いに勝利して四翼の称号を掴み取る必要もある。ターミリアが四翼に就任するためには不確定要素が多すぎた。


 そんなターミリアの想いなど露ほども知らずに、カスミは四翼として戦績を上げていく。焦りや悔しさだけが募っていった。やはりカスミには追いつけない。どんなにがんばっても自分にはこの程度が限界。そんな想いがターミリアの胸中を埋め尽くす。


 そんな時、一通のDMがターミリアの元へと届く。ターミリアはその差出人の名前を見て驚いた。ターミリアから見れば雲の上のような存在の人物。まさか、そんな人物から声を掛けられるとは思わなかった。


 その人物は、ターミリアの活躍を耳にして、相談したいことがあるとのことだった。自尊心を満たすことに躍起になっていたターミリアは、もちろん怪しむことなく、その人物へ会いに行った。


 指定された場所へと赴くと、大理石の大階段の上り口で、男が微笑を浮かべながら待っていた。その場所は長年ニューズ・オンラインをプレイしているターミリアですら足を踏み入れたことがなかった。天井から床まで白磁のように滑らかなパールホワイトで統一された内装。2階へ続く大階段の手すりや壁にはふんだんに彫刻が施されている。二階部分の壁に(はめ)め込まれているアーチ型の窓からは光が差し込み、白色の内装がより輝きを増していた。まるで、王様でも住んでいるかのような豪華な造りだった。


 ターミリアはその素晴らしい内装に感嘆の吐息を漏らす。


「お初にお目にかかります、ターミリアさん」


 男はターミリアに手を差し出し、ターミリアはその手を半ば夢見心地で握り返した。


「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。こんな綺麗な内装は初めて見ました……」

「普段はあまり人を招かないので、ターミリアさんは特別ですよ」


 ”特別”という言葉に、ターミリアはさらに舞い上がってしまう。


 2階に上がり、男に勧められるがままに椅子に腰掛けると、男は早速話しを始める。


「ターミリアさんの活躍は、私の耳にも届いています。実力もさることながら、見た目も”花の妖精(フラワーフェアリー)”の名に相応しい姿でいらっしゃいますね」


 男が三角帽子に飾られた薔薇を見ながら言った。お世辞だとはわかっていたが、雲の上のような存在の相手から褒められると、悪い気はしなかった。そして、男は緋龍の翼へ加入や、”花の妖精(フラワーフェアリー)”という二つ名が付くまでの経緯などを事細かに尋ねていった。ターミリアはそれらの問いに対して饒舌に答えた上で、最後に「今は四翼になることが目標なんです」と締めくくった。


「ターミリアさんほどの実力があるにもかかわらず、ギルドの幹部になれないなんて、勿体ない話ですね」

「いえ、そんなことは……」


 男がターミリアを高く評価していることがわかり、ターミリアは頬を赤らめる。そして、男は一息おいてから、真っ直ぐにターミリアの目を見据えた。


「ターミリアさん、私の仕事を手伝ってもらえませんか?」


 ターミリアは思わぬ男の申し出に目を丸くするのであった。

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