第3部 41話 ゲームマスターと憧れ
◆ニューズ・オンライン シーツー1合目 ギルドハウス緋龍巣 一年前◆
カスミと初めて出会った日のことは今でも覚えている。ターミリアが緋龍の翼に加入して3か月ほど経過した頃だった。その日はギルドハウス緋龍巣で、新加入したメンバーの紹介式が行われていた。
「今日から緋龍の翼に加入したカスミだ。みんな、よろしく頼むよ」
ギルドマスターであるヒイロの声に反応し、集まっていたギルドメンバーの視線が隣りにいるカスミへと注がれる。そして、カスミが一歩前に出て自己紹介をし始める。
「カスミだ! 好きなものはレアアイテム! 嫌いなものは敬語! みんな、よろしく!」
カスミの物怖じしない陽気な声が緋龍巣の中に響いた。一瞬知り合いかと思うほどに馴れ馴れしさのあるタメ口。ターミリアは部屋の隅から遠目にその様子を眺めていたが、カスミの姿に釘付けになってしまった。
太陽のように明るい屈託のない笑顔。ショートパンツ、そして胸元の開いたコルセットのような露出度の高い軽鎧。腰には鮮やかな空色のマントを巻き、二振りの短剣を下げている。手足にはそれぞれ、同じく空色のグローブとブーツを身に着けていた。
まるで青空の下に咲くヒマワリのような人だと思った。
ターミリアは自らの格好と見比べる。紺色のオーバーサイズで地味なローブ。同じく紺の三角帽子に黒縁の眼鏡。魔女っぽいと言えばその通りであるが、どこか芋っぽい。洗練された外貌のカスミとは住む世界が違うんだと思った。
挨拶が終わると、カスミはギルドメンバーたちと談笑し始める。ギルドメンバーも、カスミに対してはまるで旧知の仲のように接していた。隅っこにいるターミリアよりも、既に緋龍の翼に馴染んでいるようにさえ思える。
そんなカスミをじーっと見つめていたことに気づいたのか、カスミはターミリアの元にずけずけとやって来る。
「ターミリア、はじめまして!」
呆気にとられてしまった。初対面にもかかわらず、ターミリアの名前を認識していることにどぎまぎした。そしてまさかの呼び捨て。自宅に土足で上がられた気分だったが、「しょうがないな」とため息一つついて許してしまいたくなる不思議な感覚だった。
しかし、どう返事したらよいのかわからず、いつものように床へと視線を落として押し黙った。見かねたギルドメンバーがカスミの耳元で囁く。
「カスミ、この子、話しかけても無視するから、あんまり関わらないほうがいいわよ。見た目も地味で気味悪いのよ……」
その言葉を聞いたカスミがターミリアの顔を覗き込んでくる。カスミと目が合い、ターミリアは目を見開いた。
「そうか? そんなことないけどな?」
カスミの目はお世辞を言っているようには見えなかった。カスミは小声でターミリアに呟く。
「カイザー曰く、シーツー1合目にある渓谷ダンジョンの中、ターミリアが詳しいらしいじゃん! 後で少し付き合ってくれよ……!」
その言葉を聞いたターミリアは目を丸くした。他のギルドメンバーを差し置いて、無愛想なターミリアが狩りに誘われることなど、今までにない経験だった。仏頂面をしているターミリアの表情を鑑みてか、カスミは「待った」と言いながら手のひらを見せる。
「もちろん、ただとは言わない。えーと、ちょっと待て。ターミリアに似合いそうなローブがあったはずなんだ」
カスミがそう言ってアイテムボックスから取り出したのは、薔薇の刺繍が入ったワインレッドのローブだった。カスミは有無を言わさず、ターミリアの体にローブを合わせて見せる。
「眼鏡も取ってと……」
カスミはターミリアの顔から眼鏡をもぎ取って自らの顔に収めた。そして、ターミリアの肩をがしっと掴み、鏡の前に連行する。ターミリアは恐る恐る視線を上げた。
「――!?」
目の前の鏡にはターミリア自身の姿が、今まで見たことがないほど華やかに映った。
「これでもまだ気味悪いか?」
カスミが得意そうに鼻を鳴らし、ギルドメンバーたちに問う。
「いや、まあ、悪くないかな……」
チラッとギルドメンバーたちの顔を伺うと、皆一様に目を丸くし、バツが悪そうに頭を掻いているのが伺えた。
「……ありがとうございます」
ターミリアは伏し目がちに言葉を振り絞るようにしてお礼を言い、ローブを返そうとする。しかし、カスミはニカッと笑って、ローブを受け取ろうとはしなかった。
「いいのいいの! その代わり、渓谷ダンジョン同行の件、よろしく!」
カスミの言葉を聞きつけたギルドメンバーがカスミを取り囲み始める。
『え、カスミ、渓谷ダンジョン行くの? それなら私たちもついて行きたいな』
『俺たちと一緒に行こうぜ!』
「バカ! 大人数で行ったら一人ひとりの取り分減るだろ!? だから後衛で地理にも詳しいターミリアに声をかけたのにっ!」
そんなカスミの表裏のない言い方に、フッと笑みがこぼれる。この時から、カスミがターミリアの”憧れ”となった。




