第3部 37話 ゲームマスターとシーツー市街地集団戦3
◆ニューズ・オンライン シーツー5合目 商店街エリア◆
投擲した槍がカイザーの手元にリロードされると、カイザーは手元でバトンのように回転させる。そして辺りを見回した。市街地集団戦の全体像を把握しているようだった。
ゴエモンの目からも、その状況は確認できた。階下の鉄橋上では、緋龍の翼のメンバー2人がゾンビたち相手に悪戦苦闘している。いくら緋龍の翼といえど、異常に強化されたゾンビたちを倒すのは至難の業のようであった。
さらに、5合目の北側では両陣営の睨み合いが始まっていた。分裂した緋龍の翼のグループのひとつが6合目の上側からシキゾフレニアの背後に回り込むような形で裏を取り、もう片方のグループが5合目南から回廊を下って正面を取り、挟み撃ちにした形だ。その中心にはアンデルがおり、両陣営は膠着状態に陥っている。
現状を把握したカイザーが次の行動に移る。カイザーは再度、槍を右肩に構えた。
「ま、まさか――」
ゴエモンが呆気にとられている間に、カイザーがスキル「嵐鬼弩手」を再展開。一瞬の溜めの後、大砲のような必殺の一撃が射出された。その穂先は階下で苦戦するメンバーを助太刀するのかと思いきや、一直線に5合目北で睨み合いを続けているアンデルへと向かう。
着弾直前にアンデルが、自らを狙い撃ちする槍の存在に気付き、顔に張り付いていた笑みが消え失せる。しかし、時既に遅くアンデルの機動力では回避が間に合わない。咄嗟にアンデルの近くにいたゾンビ2体が槍の射線上に入り、槍の行く手を阻もうと試みた。剣士ゾンビ一体が盾を構えたものの、槍の穂先が盾に触れた瞬間、粒子と化して爆散。もう一体のアーチャーゾンビは両手でガードしたものの、槍はその両手ごとゾンビの体を貫く。槍の進行はアンデルの目と鼻の先でようやく停止。槍とゾンビは、ほどなくして霧散して光の粒子と化した。
アンデルは槍の出所に目をやり、鋭く睨みつけた。
カイザーとアンデルの距離はまだ100メートル以上はあるだろう。カイザーはそんな遠距離からアーチャー顔負けの正確さで、槍を投擲したのだ。しかも一度の投擲で2体のゾンビを破壊するという凄まじい破壊力であった。
カイザーが槍のリロードを待っていると、そこに階下の鉄橋上で戦闘していたゾンビ2体が、カイザーの遠隔攻撃を阻止すべく飛び込んでくる。
「危ない――」
ゴエモンは思わず声を上げてしまった。カイザーは槍を持っていない丸裸の状態でゾンビ2体の攻撃を受けることになり、ゴエモンの目には絶体絶命のピンチと映ったのだ。
しかし、「足彩」によりAGIが飛躍的に上昇しているカイザーは、2体の猛攻をものともしない。涼しい顔でゾンビたちの繰り出す刃を潜り抜けていく。ほどなくして、カイザーの手元に槍がリロード。階下から2人の緋龍の翼のメンバーも上がって来てゾンビ2体と狭い鉄橋の上で対峙する格好となった。
しかしここに来て、カイザーたちを纏っていた青い蒸気が徐々に消え失せ、「足彩」の効力が失われる。AGIが元に戻り、ゾンビたちの強力な攻撃が命中しやすくなったことで、緋龍の翼の面々の顔がより一層引き締まった。
両陣営が武器を構え、両者が衝突しようと駆け出す――と思われた次の瞬間、突如としてゾンビたちに異変が起きる。
「――タイムオーバーですね、阿呆が」
槍先を下ろしたカイザーがそう呟くと、ゾンビたちはがうめき声を上げながらガクッと膝を折る。そして、そのまま地面に突っ伏すと、体が徐々に霧散していった。強力なバフである悪魔の抱擁の反動がここに来て現れた形だ。毎分5%のHPステータス消費により、ゾンビたちは自滅してしまったのだ。
カイザーは胸で十字を切った後、眼下のアンデルへと目を向ける。
アンデルは再度口元を引き上げて不気味な笑みを作ると、自らの体から黒い霧を噴出させて、霧でその身と周囲のゾンビたちを覆い始める。黒い霧は直径10メートルはあろうかという巨大な暗黒の球体を形成し、球体の内部に雲隠れした。
「……これでは遠隔から攻撃できませんね、阿呆が」
この状況を見かねたカイザーは、グループを組んでいた2人と共に階下の鉄橋へと飛び降り、そのまま鉄橋上を駆けてアンデルの元へと足を向ける。そして、暗黒の球体から少し離れたところで立ち止まった。球体の中は一切の光を遮断し、内部を見渡すことはかなわない。
「これでは迂闊に手出しできませんね……。広範囲攻撃で押しつぶすしかなさそうです、阿呆が」
「――手間取っているみたいね」
カイザーが声の出どころを見上げると、その視線の先には四翼の魔女、ターミリアが竹箒に横座りし、微笑を浮かべていた。
「丁度良かったです、ターミリア。ここまで追い詰めたのですが、籠城されてしまいまして……。この球体には迂闊に近づけないので、遠隔魔法攻めしていただいてもよろしいですか? 阿呆が」
「……わかったわ。でもあなたたちのバフが切れてしまってるから、まずはバフを掛け直しましょう。少しお待ちなさい」
ターミリアはそう言うと、浮遊した状態のまま詠唱を開始。ターミリアの体の下に暖色系の光で魔法陣が形成される。その後、魔法陣は拡散。緋龍の翼のメンバーそれぞれの直上から、彼らの体に真っ赤な花吹雪が吹き付けた。そしてこの時、緋龍の翼のメンバーに異変が起こる。
「「!?」」
カイザーやその他のメンバーはその場から一切動かずに、皆一様にして驚愕の表情を浮かべた。




