第3部 35話 ゲームマスターとシーツー市街地集団戦1
◆ニューズ・オンライン シーツー10合目 回廊入口◆
”シーツー市街地集団戦”が全く観戦できない状況に、ゴエモンはいてもたってもいられなくなり、運営ブースを飛び出した。そして、両ギルドが出揃っているはずの5合目を目指して一人、人気のない回廊を下っていく。
ゴエモンにGMイベントへの参加依頼があったのは、遡ること2日前だった。突然ヘルから連絡があり、GMイベントを見に来ないかと誘われたのだ。
その打診を聞いて、ゴエモンは返事に迷ってしまった。前回のロックゴーレム大量発生イベントのように、今回のイベントもまた動画で紹介してほしいのだろうと思ったからだ。
ゴエモン自身が動画配信サイトに投稿しているゲーム紹介動画は、「二次創作」のような位置づけである。ゲームのプレイ後感から、「ああだったらもっと面白くなりそう」「こうだったら驚きの展開だな」などと妄想を膨らませる。その妄想をただ愚直に動画という形で表現しているに過ぎない。動画の中で実際にあることないこと言っているのは、そのせいである。
その妄想が見たいという視聴者たちの声もあって、ゴエモンは動画投稿を続けているのだ。
だからこそ、ゲームのプレイ後感から妄想が膨らまなければ、何も作る気はない。ゴエモンはあくまでも、作りたくなるものを作りたいのだ。
そのことを正直にヘルに伝えると、ヘルは笑ってこう答えた。
「そんな深刻にならなくていいぞ。今回のイベントはお祭りのようなものだ。一人のプレイヤーとして、このお祭りを楽しんでくれればいい。俺は司会者として出るから俺のマイクパフォーマンスにだけは注目しておけよ! いいところ見せるから!」
ゴエモンはヘルの学園祭のような軽いノリが可笑しくて思わず吹き出してしまった。
ニューズ・オンラインは、運営側とプレイヤーの距離が近い。運営側がプレイヤーと同じ土俵に立ってプレイしている感覚だ。その妙な親近感によって、どうしても彼らに協力したくなってしまうのだ。
ヘルの言葉を聞いて、ゴエモンは決意した。
――感性という名のアンテナを張れるだけ張って精一杯、このお祭りを楽しもう
そのためには、”シーツー市街地集団戦”を”特等席”で観戦するしかない。その想いがゴエモンの足を前に進めた。
※
ゴエモンは6合目の一般居住区に差し掛かると、下層の5合目の様子が見えてきた。
5合目の南側、南北を渡す鉄橋の入口前に緋龍の翼の面々が集まっている。その中には、四翼の槍使いカイザー、魔女のターミリアがおり、真剣な表情で反対の北側を見据えている。
彼らが見据える先には、シキゾフレニアのギルドマスター、アンデル。そしてその後ろに9体のアバターが直立不動で整列している。
驚いたのはシキゾフレニアのギルドマスターが2戦目にして現れたことだ。てっきりギルドマスターは最終戦まで温存しておくのではと予想していたが、ゴエモンの予想は早速裏切られた形となった。
ゴエモンは眼下の彼らの動きを注視しながら、6合目の東西に渡る鉄橋を渡り始め、中ほどまで進んだ。
この位置であれば、いずれのギルドの動きもよく見て取れる。“シーツー市街地集団戦”観戦の特等席と言ってよいだろう。特等席を確保したゴエモンは、早速ヤジマとコンタクトを取る。
「――ゴエモン!? どこ行ったんだ!?」
「今、シーツーの6合目にいるっすよ~」
「おいおい、”シーツー市街地集団戦”がもう始まるぞ!? そこは危ない! 早く帰ってこいよ!」
「”特等席”で観戦するつもりっすから、それは出来ない相談っす。ところでヤジマさん、俺の視界を観客席のモニターに投影することってできるんすか?」
「……そんなことできるわけ――ないこともないみたいだぞ!? え、どうやるんですか、カマタさん。ここをああしてこうして――いや、俺の視界を投影しても意味ないじゃないですか。ゴエモンの視界を……。」
ヤジマの四苦八苦する声が聞こえてきてから少しすると、ゴエモンの頭上にあるモニターに映し出されていた映像が左右に二分割される。左側には先程と同じシーツーを真上から見た図、そして右側はゴエモンが今まさに注視しているモニターが映し出された。
ゴエモンが視線を下層の5合目に移すと、観客席の方から「おおー!」という感嘆の声が聞こえてくる。どうやらうまく映っているようだ。
やはり一人で特等席を独り占めすることは性に合わない。楽しみは皆で分かち合えばより一層楽しくなるものだ。
「うまくいったようっすね」
「ああ、確かによく見えるようにはなったが……。しかし、戦闘が行われる場所の近くでカメラマンしてても大丈夫なのか? 流れ弾が飛んでくるかもしれないぞ?」
「大丈夫! 何とかなるっすよ!」
ゴエモンとしても、流れ弾に当たる可能性は覚悟の上だった。これから行われるのはトップギルドの戦闘である。流れ弾が当たっただけでも、レベルの低いゴエモンでは即リスポーンかもしれない。そして、リスポーンした場合は”シーツー市街地集団戦”をこれ以上見守ることができなくなってしまう。ヤジマの心配も尤もな話である。
「……わかった! カメラマンをよろしく頼む!」
「了解っす!」
ヤジマとの会話が終わるとすぐにヘルの声がシーツーに響き渡る。
『それでは、“シーツー市街地集団戦”を開始します!』
こうして、ギルド戦争第2戦目”シーツー市街地集団戦”の火蓋が切って落とされた。




