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第3部 34話 ゲームマスターと2戦目

◆ニューズ・オンライン シーツー10合目 GMイベント会場 運営側ブース◆



 ヤジマはシベリア配りを終えた後、運営ブースでへたり込んでいた。眼下の闘技場を見下ろすと、同じくシベリア配布が終わりを迎えていた。


 シベリアを受け取ったプレイヤーたちの満足そうな表情を見ると、シベリアのお土産は大成功だったように思える。途中で配布予定のシベリアが消失するという未曾有(みぞう)のトラブルに見舞われたにもかかわらず、タマキの冷静な対処で乗り越えることができた。GM経験の長いタマキだからこそ対処できたのだと思う。


 本来であれば、タマキはバレンタイン・オンラインのGMであり、ニューズ・オンラインのイベントを手伝うことなど、彼女の立場上必要のないことである。しかし、そんな立場を顧みず、味覚機能のリリースやブラインド・テイスティングの準備など、何から何までこのGMイベント成功のために尽力してくれた。


 彼女の存在がなければ、無事にここまで辿り着くことは難しかっただろう。感謝してもしきれなかった。


 ホッとひと息したのも束の間、ヤジマは重い腰を上げる。次のイベントであるギルド戦争の2勝負目、”シーツー市街地集団戦”が始まるからである。


 ギルド戦争の取り決めとして、2勝負目の内容はシキゾフレニアが提案、3勝負目は緋龍の翼が提案としていた。このため、”シーツー市街地集団戦”は、シキゾフレニア側から提案があったものである。ヒイロが予め予想していた通りシキゾフレニアは、ゾンビによる強力な連携がものを言う、”集団戦闘”を指定してきた。


 しかし、予想外だったのは、シキゾフレニア側が”シーツーの街中”での集団戦闘を指定してきたことだった。シーツーの街は言わずもがな緋龍の翼のホームである。地の利は緋龍の翼にあると言っていい。


 闘技場からプレイヤーたちが()けるのを確認すると、ヤジマはカマタに一声かける。


「カマタさん、お願いします!」


 ヤジマの言葉にカマタが(うなず)き、自らのコンソールを操作する。すると、シーツーに蓋をしていた闘技場の盤面が端から霧散していく。闘技場の盤面が完全に姿を消すと、シーツーの大穴の全貌が姿を現した。そのヤジマたちの動きを察知したヘルがアナウンスを始める。


「次はギルド戦争第2戦目、”シーツー市街地集団戦”です! それでは、ルールを説明します」


――――――――――――――――――――――――――――――――

【シーツー市街地集団戦の概要】

・ 各ギルドは10名のパーティーを結成して対戦

・ 緋龍の翼は、シーツーの5合目(商店街)の南にパーティーを配置

・ シキゾフレニアは、シーツーの5合目(商店街)の北にパーティーを配置


【勝利条件】

・パーティーが全滅した時点で相手側ギルドの勝利

・30分経過時点で、生き残っているプレイヤーの多いギルドが勝利


【シーツー市街地集団戦のルール】

・アイテムの使用は不可

・スキルの使用無制限

・リスポーンなどでシーツーから退場したプレイヤーは、その時点で失格

――――――――――――――――――――――――――――――――


「それでは、両ギルドとも配置についてください!」


 ヘルの声がシーツー全体に響き渡った。





 ”シーツー市街地集団戦”の開始地点であるシーツーの5合目は、商店街がある区画である。タージルと一緒に行った7合目の一般居住区と同じく、サイコロのような立方体の形をした“ユニット”が今にも崩れそうな積み木のように、アンバランスに積み重ねられている。そして、5合目の南北を渡すようにして鉄橋が掛けられていた。


 ヤジマが何故5合目を戦闘開始場所として選んだかというと、5合目を推すカスミの助言があったからだった。もし対戦ギルド双方が10合目と1合目のように上下で分かれてしまうと、10合目の方が相手の上側を取れて攻撃がしやすいため、圧倒的に有利になってしまう。5合目同士であれば、ほぼ高低差はないため、ハンデなしの公平な条件となるというのだ。


「いよいよ緋龍の翼とシキゾフレニアのガチンコ勝負っすね!」


 ゴエモンが声を弾ませながらシーツーの大穴を(のぞ)き込む。おもちゃを見つけた子供のように目を輝かせているため、“シーツー市街地集団戦”への期待感が伺えた。ゴエモン自らのメディアで取り上げようとする場合、やはり食べるだけのブラインド・テイスティングよりも、迫力のある戦闘シーンが期待できる”シーツー市街地集団戦”の方が絵になるのだろう。


「ゴエモンはどっちが勝つと思う?」


 ヤジマはゴエモンに尋ねた。


「そうっすね〜。順当にいけば、やっぱり緋龍の翼っすかね〜」

「順当にいけば?」


 ゴエモンの歯に物が挟まった言い方に、ヤジマは眉をひそめる。


「緋龍の翼はトップギルドっすから、そもそも地力が高いっす。それにまだ、“雷鼓”ノワードを除いた三翼に加えて、ギルドマスターのヒイロが残ってるっすよ。加えて、この”シーツー市街地集団戦”は本拠地であるシーツーが戦いの舞台っす。誰がどう見ても緋龍の翼が負ける要素は見当たらないっす。でも――」


 ゴエモンの明るい表情が打って変わって、神妙な面持ちになる。そして言葉を選ぶようにして続けた。


「そんな不利な状況はシキゾフレニアとしても百も承知のはずっす。そんな不利な条件を提示してくるのはただ無謀な集団なだけなのか、はたまた――」


 ゴエモンの言わんとしていることは理解できた。シキゾフレニアの動きが不穏すぎるのだ。


 3日前にヒイロと話した際に、緋龍の翼のメンバーに内通者がいる可能性に言及があった。シキゾフレニアがギルド戦争中に何か仕掛けてくるかと警戒していたが、ブラインド・テイスティングではあっさりと敗北を喫した。


 ブラインド・テイスティングに出場したノワードは、前日にシベリアのレシピを探し当てたと言っていた。ということは、内通者に情報が()れていれば一勝負目ばドローとなったはずである。内通者の存在は杞憂であったのか。それとも何か裏があるのか。謎は深まるばかりである。


「ヤジマくん、両ギルドが配置についたみたいだよ」


 カマタの声掛けにハッと我に返ったヤジマは、気を取り直して(うなず)き返す。


「カマタさん、モニターにシーツーの様子を映し出してもらえますか?」

「了解~」


 カマタがコンソールを操作すると、シーツーの上方に浮かぶモニターにシーツー内部の様子が映し出され、緋龍の翼とシキゾフレニア、両ギルドのメンバーたちの緊迫した様子が手に取るようにわかる――はずだった。


「豆粒!?」


 まるで航空写真でも見ているかのようだった。モニターにはシーツーの内部が映し出されているものの、両ギルドのメンバーたちは豆粒程度、しかも数人しか見てとれない。大体のメンバーは立体的に積み重なるユニットの影になり、姿が見えないのだ。これではメンバーたちの表情どころか、どんな行動をしているかさえ把握ができない。


「カマタさん、もう少しズームできませんか?」

「えーこんな感じかな?」


 カマタが再度コンソールを操作すると、モニターに映し出されているライブ映像が少しズームされる。しかし、詳細を把握するには程遠い状況だった。


「これが限界ですか!? 全然見えないんですが!?」


 ヤジマの苦悶の叫び声を耳にして、カマタは肩をワナワナ震わせ始める。ヤジマが「あ、しまった」と思ったら時既に遅し、カマタは鬼の形相で怒鳴り始める。


「これが限界に決まってるだろうがぁあああ! こっちは短い製作期間で準備しとんじゃぁあああ! 文句言うなぁあああ!」

「ですよね~」


 ヤジマは愛想笑いを浮かべてカマタの機嫌を取り戻そうと務める。しかし、観客席の方からは、モニターに映し出された映像を見て、早くも失笑が起こり始めていた。


 念のため運営ブースからシーツーを肉眼で(のぞ)き込んでも、やはりメンバーたちの様子は豆粒どころか米粒程度にしか見えない。


 このイベントの見どころでもある“シーツー市街地集団戦”を観戦できないのは痛すぎる。さらに、このイベントの様子を自らのメディアで紹介しようとしてくれているゴエモンの取材にも支障をきたしてしまう。


「ゴエモン――ってあれ!?」


 ヤジマが顔色を伺うようにしてゴエモンの方を一瞥(いちべつ)したところ、ゴエモンの姿は忽然と消えていた。


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