第3部 27話 ゲームマスターとブラインド・テイスティング1
◆ニューズ・オンライン シーツー十合目 GMイベント会場 闘技場◆
タマキが闘技場のど真ん中に降り立つと、背中にくっついていたジーモの羽が小さく縮んだ。そして、タマキは両ギルトを一瞥してから凛々しい声で話し始める。
「バレンタイン・オンラインのゲームマスター、タマキです。今回はニューズ・オンラインの運営側の一員として参加しています。これから行うギルド戦争の一つ目の勝負、ブラインドテイスティングは、私が取り仕切りますのでよろしくお願いいたします」
『ブラインド・テイスティングだって!?』
『目隠しした状態で口にした食べ物の名前を当てる、あれのことだよな? ニューズ・オンラインでは食べ物を摂取することなんて出来ないはずだぞ……?』
タマキのアナウンスに戸惑う観客が騒ぎ出した。その反応は予想通りであった。タマキは背筋を伸ばして宣言する。
「この”ブラインド・テイスティング”勝負を行うにあたり、今この瞬間から、ニューズ・オンラインの味覚機能をリリースします!」
『味覚機能だって!?』
観客の騒めきが大きくなる。
「味覚機能のリリースにより、アイテムを口にできない制限は解除され、食べ物を口にした際の味覚が再現されるようになります!」
観客の騒めきが歓声に変わる。そして、観客席に熱狂の渦が巻き起こり始める。
『今まで指をくわえてみているしかなかった食い物を食べられるってことかっ! こりゃあ大ニュースだっ!』
『すげー! 早く試してみたいなあ!』
そんな観客の好意的な反応を見て、タマキは口元を緩めた。
「今日は味覚機能のリリースを記念して、ここにいる皆さんには、これから行うブラインド・テイスティングで、出場者が口にするアイテムをお配りしたいと思います! ぜひお楽しみに!」
観客席から「おおおおお!」という絶叫にも似た歓声が湧きあがった。勝負の開始前から、既に熱狂の渦の真っ只中である。GMイベントを機に新機能のアピールをし、ニューズ・オンラインの宣伝を行うという作戦。まずは掴みはOKといったところだろう。
「それでは、ブラインド・テイスティングのルールを説明します」
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【ブラインド・テイスティングのルール】
① 出場者を両ギルドから一名ずつ選出する
② 出場者は椅子に座った状態で目隠しし、タマキが出場者の口へと食べ物を運ぶ
③ 実食後、タマキへDMで食べ物の名前を回答する
④ 正解した出場者の所属するギルドの勝ち。出場者二人共正解、もしくは不正解の場合はドローとし、もう一度別の食べ物で①から執り行う
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「これからブラインド・テイスティング勝負を始めます! 両ギルドの出場者は前へ!」
タマキの号令に従い、両ギルドが動き出す。緋龍の翼側からは四翼の大男、ノワードがゾウのようにゆっくりとした足取りでタマキに近づいてきた。
『おい、あれって“雷鼓”だろ? ニューズ・オンライン最強の雷使いだよな?』
『ああ、本物の“雷鼓”ノワードだ。見ろよ、あの鬼の形相。それに後ろに背負っている大槌…』
『“雷鼓”が現れると途端に雷がゴロゴロと鳴り始めるって聞いたぞ……』
観客席からノワードに関する噂が聞こえてくる。
対して、シキゾフレニア側からはキツネ目の男、ノバラが相変わらずの軽やかな足取りでタマキに近づいてきた。そして タマキを挟んで両者が対峙する格好となる。
「うひゃー、これまたおっきい図体やなあ。家ん中おる時動きづろうて困るやろ?」
ノバラが早速ギルド戦争の真剣な雰囲気を壊しにかかる。
「……」
しかし、ノワードは仏頂面を一切変えることなく、無言を貫いた。
「なんや、何も話さんてことはあんさんもゾンビかいな? うちのゾンビの方が可愛げありまっせ」
すると、ノワードが声を発することなく口パクのように口を小さく動かす。
「あん? 何も聞こえへんわ! 拡声器でも持ち歩いたらどうなん!?」
すると、ノワードが蚊の鳴くような声が聞こえてきた。
「……緊張しているだけだ。気にするな」
「その仏頂面で可愛いこと抜かすな! ギャップでワイを惑わそうとしてるんか!? 次はプーさんが好きだとでも抜かすんかいな!」
「プーさんは好きだ」
「って好きなんかい! あー、調子狂うわー!」
ノバラが頭を掻きむしりながら言った。
「お二人とも、そろそろ準備はいいかしら? それじゃあジーモくん、準備をお願いできる?」
「はいナ! 可及的速やかに準備いたしますナ!」
タマキの背後で待機していたジーモが小さな羽で敬礼し、テキパキとした動きでブラインド・テイスティングの準備を始めた。ジーモは一人掛けの椅子を二脚出現させ、ノワードとノバラの二人を別々の椅子に掛けるように誘導する。二人が腰掛けたところで、タマキは観客席に向けてアナウンスする。
「それではこれから、二人の視覚機能を停止します。ジーモくん、よろしく」
「かしこまりましたナ」
すると、ノワードとノバラの頭上に緑色の魔法陣が現れ、魔法陣から緑色の光が放射。二人の全身を包んだ。
「うひゃー! 真っ暗闇で何も見えまへんがな! まるで夜中に起きて小便しに行くときみたいに心細いわあ……」
ノバラは辺りをキョロキョロしながら、落ち着きなく騒いでいる。それとは対照的に、ノワードは全く動じずに、仏頂面のまま正面に視線を据えたまま無言を貫いている。
「ノワードはんは怖くなんかいな!? われは大パニックでっせ!!」
「怖すぎる」
「怖いんかいな! ならちゃんと主張せな勝手に体弄られてしまいまっせ!」
タマキはぎゃーぎゃーと騒いでいる二人の前に向き直った。
「さあ、これから今の視覚が閉ざされた状態で、”あるもの”を食していただきます。”あるもの”の名前を当てた方が、この勝負の勝者となります。これから”あるもの”を取り出しますが、観客の皆さんは”あるもの”について口外しないようにお願いします」
タマキはそう言い終わると、アイテムボックスから”あるもの”を出現させた。その時、ドッと観客席からザワメキが聞こえ始める。タマキは”あるもの”を手に取って一口大の大きさに千切り、座ってキョロキョロとしているノバラの口に押し込んだ。
「むお!? もきゅもきゅ……ゴクンッ。おお!? 味がする!?」
「このようにアイテムを口に入れると、味覚機能によりアイテムの味が再現されます。但し、アイテム本来の効果は発揮されないため、効果を望む場合は通常の”使用”コマンドにてご利用ください」
「……もう一回試してもええか? 味を感じた衝撃でどんな味がするのか記憶が吹き飛んでしもうたわ」
タマキはため息をつきながら、再度”あるもの”をノバラの口に押し込む。
「ふむふむ、なんやこの水分持っていかれる感じ……むお、甘い!? 甘味が後から来るさかいに。そしてなんや口ん中ヒンヤリするなあ。食べた後にお茶が欲しくなる感覚……」
「ちなみにノバラさんの声は、ノワードさんにも聞こえてるので、ヒントになってしまいますよ」
「しまったー!! 先に言ってーな、タマキはん……」
そう言ってノバラはガクッと肩を落とす。しかし、その状態から目線だけ上げ、細いキツネ目が少しばかり大きく見開かれる。
「でも分かってしまったでえ、タマキはん! 伊達に長く生きとらんがな!」
嘘とも本気とも取れるノバラの言動に、タマキはノバラの真意を汲み取れずにいた。
ここまで読了いただき、ありがとうございました!




