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第3部 24話 ゲームマスターと模擬戦の決着

◆ニューズ・オンライン シーツー10合目 GMイベント会場 闘技場◆



「おいおい、嘘だろ……」


 ハセベはその驚きの光景を目撃し、思わずため息まじりで(つぶや)いた。


 ニャンダは肉球の盾から飛び出し、四足歩行から二足歩行に切り替えた。そして、ニャンダ目掛けて次々に飛翔する(くい)を自らの拳で片っ端から叩き落としていく。そして、ジワジワとハセベとの距離を詰める。


『――驚きました! ニャンダ選手が弾丸のように飛んでくる(くい)を拳で撃ち落としていきます! これも”ステータス変換”でしょうか!?』


 ヘルがカンナバルに尋ねた。


『そうですね。おそらく、拳で(くい)の攻撃を受けることで、拳闘士の低いVIT(バイタリティ)の代わりにSTR(ストレングス)を充てているのでしょう。いや、しかし、こんな芸当は私も見たことがありません。高速で飛んでくる(くい)を漏れなく叩き落とすなど、尋常なプレイではありません。これにはたまげましたね……』


 またもや”ステータス変換”という裏技。ニャンダのプレイを目撃すると、ニャンダのアバター操作技術の高さが伺える。ここまで来ると最早、ハセベの持論である「ステータス=プレイヤーの力量」は幻想であるとさえ思えてくる。


 しかし、高めのSTR(ストレングス)の値を防御に回しているといっても、攻撃は有効である。少なからずニャンダのHPステータスは削っている。ニャンダのHPステータスは残り僅かとなっているはずである。


 ニャンダとの間合いが詰められ、またもや近距離戦へと移行する。


 ハセベは(くい)による中距離攻撃を諦め、ニャンダに向かって大鎌を振るう。ニャンダは大鎌の刃を紙一重で(かわ)し、そのままの勢いでハセベの(ふところ)に入り込んだ。先程の中距離戦に持ち込まれるのを嫌ってのことだろうと推測。ハセベは大鎌の間合いを保とうとバックステップし距離を取る。しかし、ニャンダはしつこく食い下がり、(ふところ)に潜り込む動作を繰り返す。


 仕方なくハセベはさらにバックステップ。そこで、過ちに気付く。


 いつの間にか闘技場の隅に追いやられていた。闘技場の縁に立たされ、試合の終了条件が頭をよぎる。


――闘技場の外に出た場合


「――チッ!」


 ハセベは大きく舌打ちした。


 ニャンダは自らのHPステータスが不利な状況と判断し、ハセベを場外に追いやることで決着させる戦法に変更したのだと気づいた。ニャンダのHPステータスを削ることに気を取られ、闘技場での立ち位置を気にしていなかったことを悔やむ。


 ハセベは再度、スキル”死神の舞踏(デス・パレード)”を発動。ハセベの巨体が五体に分かれ、分身に紛れてその場からの脱出を試みる。


 それに対して、ニャンダは再度、スキル”肉球壁(ミート・ウォール)”を展開。五体のハセベの前に、巨大な猫の手が現れ立ちふさがる。そしてニャンダは猫の手を展開したままの状態でハセベを押し潰さんと迫ってきた。


 ハセベはニャンダの肉球壁ミート・ウォールと正面からぶつかった時、VIT(バイタリティ)値勝負となると断定。VIT(バイタリティ)低いニャンダが高いハセベとぶつかれば、吹き飛ぶのはニャンダの方である。


 ハセベはそのままの勢いで、肉球壁ミート・ウォールに体当たりする。次の瞬間、ハセベは自らの過ちに気付いた。ハセベが肉球壁ミート・ウォールにぶつかった瞬間、ハセベの体が肉球壁ミート・ウォールの肉球にめり込んでゆく。


「弾力――!!」


 束の間の静けさの後、肉球壁ミート・ウォールの肉球が体当たりの反作用により、ハセベの体を勢いよく射出する。ハセベの体はパチンコ玉のように場外へ弾き飛ばされ、そのままシーツーの大穴へ落下していく。


『――け、決着っ!! 衝撃の結末でした!! 圧倒的有利に戦いを進めていたハセベ選手が場外となり、試合終了となりました!! ニャンダ選手!! 圧倒的なアバター操作技術を駆使して、高いステータス値を誇るハセベ選手に見事打ち勝ちました!!』


 観客の大きな歓声とともに、ヘルの模擬戦終了を告げる実況が聞こえた。





 ハセベはシーツーの大穴へゆっくりとその身を落としていく。目に映るのは、闘技場の裏面で、闘技場と崖の隙間がリングを描き、そこから地上の光が漏れている。そして、ハセベの背後には奈落の底。


 完敗だった。ニューズ・オンラインに関する知識面、操作技術面、いずれの面でも負けだった。


 しかし、落下中に全身で受ける風が妙に心地がよかった。底に落ちるまでしばし目を(つむ)ろうとしたその時、ふとシーツーの崖沿いに広がる街並みが目に飛び込んでくる。


 ハセベはその街並みを見てハッとした。


「これがシーツーなのか……」


 角砂糖のような立方体が崖沿いに所せましと積み重なっている。現実では見たこともないような光景。その様子はまるで超古代文明を目撃したかのような錯覚を受けた。ハセベがいつもアバターを動かしている開発環境は、ニューズ・オンラインをそのままコピーしたものである。しかし、プレイヤーが作った生産物に関しては開発環境に反映されているわけではない。ただの大穴が広がるシーツーの原型を知っているからこそ、その違いに驚かされた。


「どうやったらこんなものが作れるんだ……」


 ハセベは、称賛のため息を漏らす。生産系スキルの自由度をフル活用して作ったのだろうが、それにしても「街を作る」などといった使い方ができるとは思ってもみなかった。


 ニャンダとの戦闘の時もそうだった。”ステータス変換”という開発者が把握していない裏技、そして”肉球壁ミート・ウォール”の思いもよらない使い方。


 プレイヤーは開発者の想像を超える使い方を見つけたのだ。


 ハセベの口元から笑みがこぼれる。ここまでニューズ・オンラインをやり込んでくれたのであれば、開発者冥利(みょうり)に尽きると言ってよい。


 ニューズ・オンラインのサービスが開始してからの二年間、こんなクソゲーを生み出してしまったという罪悪感にずっと(さいな)まれていた。こんなゲームに価値はない、楽しんでプレイする者など誰もいないのではないかとさえ思った。しかし、プレイヤーはニューズ・オンラインをやり込み、新たな使い方を発見してくれている。


 ハセベは二年以上前に参画したニューズ・オンラインの開発プロジェクトでの出来事を思い出す。


 生産系スキルの開発を行ったのはハセベであった。あの時の興奮と苦渋の思い出が脳裏に蘇る。


 開発に誇りを持ち、情熱を燃やし、ニューズ・オンラインの開発に熱中したあの頃のことを。


ここまで読了いただき、ありがとうございました!

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