第3部 23話 ゲームマスターと模擬戦2
◆ニューズ・オンライン シーツー十合目 GMイベント会場◆
両手を地面について四足歩行となるニャンダを見て、ハセベは思わず失笑してしまった。
猫のコスプレだから猫に前倣えして四足歩行ということだろう。しかし、猫を真似たところで何の意味があるのだろうか。猫の気持ちが分かって猫のような素早さが手に入るとでも考えているのだろうか。だとしたら、何とも非論理的な話である。
AGIは絶対である。それ以上でも以下でもなく、絶対的な数値としてアバターの素早さに反映される。どんなに素早く見えようとも、AGIが低ければ遅い。ハセベの一見動きが鈍そうなアバターでもこれだけの素早さが出せるのは、単純にAGIが高いからである。
猫真似して素早くなるような非論理的なゲームをハセベが作っていると思われているなら、何とも不愉快な話である。
「それじゃあ、四足歩行の実力見せてもらおうか?」
ハセベは不満げに吐き捨て、ニャンダと瞬間的に間合いを詰める。そのままの勢いで大きく振りかぶった大鎌の刃先を、ニャンダの脳天目掛けて振り下ろす。この一撃はニャンダの横っ飛びによりヒラリと躱される。しかし回避は想定内であり、連続攻撃のために続けて刃をニャンダへと向けようとする。
ニャンダの姿を目で追おうとしたその時、ハセベは異変に気づいた。ニャンダの姿が見つからないのだ。大鎌を躱されるまでは確かに見えていた。それにもかかわらず、まるで瞬間移動でもしたかのように、忽然と姿を消した。
「ここだニャ☆」
突然、背後からニャンダの声が聞こえ、ハセベは振り返ろうとする。その時、下あご部分に衝撃が加わる。衝撃の正体がニャンダのアッパーだということに遅れて気づいた。
ニャンダの後を追うようにして旋回させた大鎌の刃がニャンダの残像を両断する。
「くっ――」
すると今度は背面に衝撃が発生。堪りかねたハセべは一旦ニャンダと距離を取った。
四足歩行を続けるニャンダと対峙し、ハセベは恨めしそうにニャンダを見つめる。
明らかにニャンダのAGIが上昇していると見ていい。しかも大幅に。プレイヤーの限界値である「9000」を超える「10000」程度のAGIと推定された。
しかし、何故なのかがわからなかった。上昇率が大幅であるため、魔法、スキルやアイテムを使った一時的なAGI上昇というのも考えづらかった。四足歩行以外に特別な行為は見受けられず、絶対的である”ステータス”という理を破壊しているようにしか見えない。
「何故AGIが高くなった!?」
ハセベは思わず叫んだ。ニャンダは面倒くさそうに答える。
「何って”ステータス変換”ニャ」
「”ステータス変換”!?」
ハセベが聞き返したところで、ヘルの実況が流れてくる。
『ニャンダ選手、”ステータス変換”を使用した模様です! 奥の手なのでしょうか!? カンナバルさん、”ステータス変換”とは何でしょう!?』
『”ステータス変換”はその名の通り、ステータスを別のステータスの値に変換して使用することです。通常、アバターの移動速度はAGIの値に依存します。しかし、ニャンダ選手は、AGIの値にプラスしてSTRの値を付加して移動しています。そうすることで、AGIの値以上の素早さを実現しているわけです』
『そんなことが可能なのですか!? もはやチートに近いスキルに思われますが!?』
『いえ、これはスキルではなく、”腕を使って移動する”ことにより発生している現象です。通常、AGIは”足を使って移動する”ときに効いてくる値です。しかし、”腕を使って移動する”と、何故かSTRの値が効いてくるのです。ニャンダ選手は、後ろ足で地面を蹴るのと同時に、腕を使って地面を蹴って移動しています。そうすることで、AGIの値にプラスしてSTRの値が加わって、通常よりも素早く移動することができています。しかし、デメリットとして操作が極端に難しくなるのと、グローブ以外の武器を装備することが出来ないので、攻撃力が低下してしまいます。”ステータス変換”といった機能があることは有名な話ですが、実戦で使っているプレイヤーはほぼ皆無ですね……』
ハセベは絶句していた。
”ステータス変換”などという機能を作りこんだ覚えは無かった。ということは、運営側が把握していない使われ方をしているということである。
確かに、”腕を使って移動する”ことを開発後のテストで試したことはないように思える。ある意味”ステータス変換”という機能は、テスト段階で見つけ出せなかったバグに近い裏技と言ってもいい。
このニューズ・オンラインで”腕を使って移動する”ことを試す輩がいるとは考えもしなかった。どれだけやりこんだら、こんな裏技を発見できるというのだろうか。
ハセベは目の前の戦闘へ集中するために、頭を横に大きく振る。AGIがハセベより少し高くなったところで、STRやVITが大きく上回るハセベが有利であることには変わりない。落ち着いて対応すればどうということはない。
大鎌を振りかぶり、再度ニャンダとの距離を詰める。しかし、大鎌の刃はニャンダに軽々と躱され、背後にニャンダの一撃を食らう。そして、ニャンダの残像を大鎌が追うという、先ほどと同じパターンに陥ってしまう。ニャンダはまさにヒットアンドアウェイの戦法を見事に体現しているといってよい。しかし、このパターンを乱してしまえば良いだけの話である。
ハセベの大鎌が空を切った瞬間、ハセベはスキル”死神の舞踏”を発動。大鎌を空振った状態の重戦士の巨体が五体に分身して横一線に並ぶ。ハセベの背後に回り込んでいたニャンダはその内の一体に殴りかかったものの空振りに終わる。ニャンダの隣にいたハセベの本体が大鎌を一閃。しかし、ニャンダはまたもや大鎌を後方に跳ねて躱した。
思わぬ攻撃により流石のニャンダも体勢を崩す。そのニャンダ目掛けて、ハセベは新たなスキル”死神の祝祭”を発動。
ハセベの前方に数百もの杭が出現し浮遊。ニャンダに向かって一斉に射出された。線での攻撃はなく、数百もの杭による面攻撃。回避不可能の杭群がニャンダを串刺しにせんと迫った。
ハセベのスキル発動に呼応する形で、ニャンダはスキル”肉球壁”を発動。ニャンダの前方に巨大な猫の手が現れ、杭群の行く手を阻んだ。
ニャンダのスキル発動を見て、ハセベはすかさず新たなスキル”死神の涙”を発動。今度は上空から杭の大群がニャンダへ雨のように降り注ぐ。”死神の祝祭”による二次元での攻撃に加えて、上方向からの攻撃も足した三次元での攻撃。ニャンダはスキルで出現させた肉球を斜めに傾け、何とか防ぐが一歩も動くことはできずに防戦一方となる。
『ニャンダ選手、防戦一方になってますが大丈夫でしょうか!?』
ニャンダの状態を心配するヘルの実況が響き渡った。
『ハセベ選手は、近距離戦は不利と見て中距離戦に切り替えましたね。それにしても火力が凄まじい。ニャンダ選手もなんとかガードしていますが、じわじわとHPが削られています。長くは持ちこたえられないでしょう』
カンナバルが淡々と見解を述べた。
ハセベとしては「近距離戦は不利」というカンナバルの見解には異議を唱えたかった。ハセベのHPステータスはニャンダから数撃を食らったにもかかわらずHPステータスの残りは90%以上ある。対してニャンダのHPステータスは30%くらいであろう。この結果を見てどこが不利と言えるのだろうか。
「そろそろ、降参したらどうかな? 子猫ちゃんも十分いいところ見せられたでしょ。開発者相手によく健闘したと思うけど?」
ハセベが杭を撃ち続けながらニャンダへ向かって声をかける。
「お世辞は不要ニャ☆ それに勝負はこれからだニャ☆」
ニャンダがそう言った次の瞬間、ニャンダの行動にハセベは目を見開いた。
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