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第1部 5話 ゲームマスターと初めてのパーティー

2021/05/17 改稿

◆ニューズ・オンライン ギニーデン城下街◆



 ヤジマはギニーデンの街を「早歩き」しながら「視察」をしていた。


 ギニーデンはオタゴ王宮を街が取り囲むようにして円形に形成されており、街の建物は屋根がオレンジ色、建物は白色で統一されていた。


 しかし、グラフィックは酷いもので、教会の前の大木と大差のない不出来さであった。それとは反対に路面は不揃いな石造りのタイルが一つ一つ緻密に描かれており、見事な出来であった。そのため全体の調和が取れておらず、街並みとしては最悪だった。


「ジーモ、だいぶ早歩きにも慣れてきたぞ」


 ヤジマはそういうと、腕を組んで得意気に片足を上げて下ろす動作をする。すると周囲の景色が一瞬で切り替わり、壁にぶつかる寸前のところで止まった。


「よかったナ」


 ヤジマの横でふわふわと浮きながら興味がなさそうにジーモが言う。ジーモはヤジマがどんなに早く移動しても、ついて来ることができるようだった。


 ヤジマは「早歩き」についていろいろと試してみたところ、瞬間移動する以外にも使い方があることがわかった。足を振り下ろす速度を加減すれば、普通の速度で歩くこともできた。また、地面を踏み込む力を下側に向けると、ヤジマの体が周囲の建物の屋根が見えるところまで上昇した。使い込むうちに他にも使い方を見つけることができるかもしれない。


 ヤジマは街の中心に位置するオタゴ王宮を目指していた。ジーモからの情報によると、オタゴ王宮はGMの住処という位置づけとなっており、それはヤジマ自身の住処ということになるので一度確認しておきたかった。


「そこの仮面を被った剣士さん、パーティー組みませんか!?」


 先を急ごうと足を進めようとしたところで、少女の大声が聞こえてビクっとする。一瞬なんのことかわからなかったが、振り返ると通りにはヤジマと少女の二人しかいない。仮面を被った剣士=ヤジマだと認識するのに時間はかからなかった。


 その場から逃げようか迷っていると、少女が近づいてきていきなり手を握られ、逃走のタイミングを逸してしまった。少女は薄ピンク色のショートカットの髪を揺らし、猫のようにまん丸の眼でヤジマの顔を見上げる。


「剣士さん!?」

「な、何でしょう?」


 ヤジマは少女の距離の近さと言葉の圧に圧倒され、たじろいでしまう。少女は華奢な体のラインが浮き出るタイトな黒い帷子(かたびら)を着こみ、その上からなめし皮でできた防具を(まと)っていた。腰の辺りには二振りの短剣を下げている。


「パーティー組みませんか!?」

「パーティー!? 仕事中なので懇親会は業務終了後にしたいのですが……」

「懇親会って何のことですか!? 私とギニーデンの南側にあるダンジョンに行ってほしいんです!」

「い、いやそれはちょっと……」

「じゃあ業務とやらが終わった後でもいいので!」


 ヤジマは少女の押しの強さに圧倒されて反論する言葉が出てこない。


「……そこでパーティーするんですか?」

「はい! レベル上げをしたいのですが、ボスクラスのモンスターを討伐するだけの戦力が不足してまして……私はギニーデン周辺の地理には明るいので、お手間取らせずに攻略できると思いますよ!」


 ヤジマは目線を落とし、少し考え込む。どうやら懇親会が目的ではないらしい。


 今のヤジマの目的は、GMとして采配を振るうために必要な情報の収集、所謂(いわゆる)「視察」をしている状況である。少女についていき、より現場に近いところで一般プレイヤーの行動を視察できるのであれば、より多くの情報を収集できるかもしれない。


 さらに、ヤジマ自身がモンスター討伐といった一般プレイヤーの行動を体験する、所謂(いわゆる)「実習」も併せて行うことができる。一石二鳥といったところだ。


「わかりました。これも仕事の一貫です。私で良ければ一緒に行きましょう」

「仕事の一貫? いずれにせよ、ありがとうございます!」


 少女はパァっと猫目を輝かせ、握りしめたままのヤジマの手をブンブンと振り回す。


「そうと決まればパーティー登録してっと……」

「……パーティーって何?」


 ヤジマはジーモに向かって小声でささやく。


「複数人でモンスターを討伐するための運命共同体を構築することナ」

「なるほど、道理で話が噛み合わないわけだ……」


 少女は眼前にコンソールを開き、手慣れた手付きでスワイプを繰り返した。すると少女の頭上に「カスミ」という文字と、いくつかのステータスバーが表示された。


「もうパーティーになったからタメ口使わせてもらうからね。よろしく、ヤジマ!」


 パーティーになったらタメ口……ヤジマは目から(うろこ)が落ちるようであった。ゲーム内の用語の理解は深めようと心がけてはいたものの、ルールの外にある文化、常識のようなものの存在をケアしていなかった。ヤジマにしてみればまさに盲点だった。今後は文化、常識の側面においても視察が必要と認識を改めた。


「よろしく、カスミ。パーティーになったらタメ口という文化には慣れそうにないけど……」

「いや、自分ルールだから気にしないで!」


 カスミに翻弄される自分が情けなくなり、ヤジマは天を仰いだ。

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