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第3部 13話 ゲームマスターと交渉術

うぅ…悪役難しいよお…

頑張れ、アンデル!(謎)


2021/06/29 改稿


◆ニューズ・オンライン シーツー 二合目 ギルドハウス”緋龍巣”前◆



「な――!?」


 アンデルの自己紹介を聞いた緋龍の翼のメンバーが一斉に殺気立ち、臨戦態勢に入る。


 ニャンダとカイザーが駆け出し、瞬間的にアンデルとの間合いを詰める。ニャンダの拳とカイザーの槍先がアンデルに触れようとしたその時、アンデルの目の前に漆黒(しっこく)の霧が出現。二人の攻撃と霧が激突すると衝撃波を生んで霧が飛散した。攻撃の行く手が(はば)まれたニャンダとカイザーは後方に跳躍してアンデルとの距離をとった。


 アンデルは両手を挙げて降参のポーズを取る。


「まあまあ、皆様落ち着いてください。私はヒイロ様と話をしに来ただけです。わたくしのことは会話した後、煮るなり焼くなりお好きなようにしてください」

「私がヒイロです。お話とは何でしょうか?」


 ヒイロが背中の大剣の柄に手をかけながら、一歩前に進み出た。


「クククク……。シーツーの街をわたくし共に譲ってはいただけないでしょうか? もちろん、タダとは申しません。それ相応の謝礼はさせていただきます」

「単刀直入で良いですね。それでは私も単刀直入に、お断りさせていただきます」

「クククク……。では、ここで一つお耳に入れておきたいことがありまして。その後に、もう一度ご判断いただければと思います」

「後だろうと先だろうと私の意見は変わらないと思いますが?」

「クククク……。今、シーツーの崖上では、わたくし共の魔導師団が詠唱(えいしょう)を済ませて、大質量の土砂を街に向けて放てる状態となっています。街を半壊させる程度の破壊力はあるかと存じます」

「「な、なんだと――!?」」


 ヒイロの顔色が変わり、驚きの表情を浮かべた。緋龍の翼のメンバーが浮足立ち始める。


「シーツーを乗っ取ることが目的ではなかったのですか? シーツーの街を破壊したら元も子もないでしょう!?」


 アンデルはヒイロの切羽詰まった表情を見て口元を大きく引き上げた。


「手に入らないのであれば、壊してしまうことも選択肢に含めなければ。さあ、選択肢は壊すか、渡すかのいずれかです。如何なさいますか?」


 ヒイロはアンデルを(にら)みながら歯を食いしばる。


「そんなの選べる訳ないでしょう!?」

「では十秒間お考え下さい。もしお選びにならないようであれば、攻撃を開始します」


 アンデルのカウントダウンが始まる。ヒイロの額から冷や汗が一筋流れる。他のギルドメンバーもヒイロと同様に動けず、肝を冷やしている状況だ。


 その様子を見ていたヤジマは絶句していた。まさかこんな緊迫の場面に出くわすとは思ってもみなかった。ヤジマは今すぐにでも飛び出してヒイロたちを助けてやりたいと思った。しかし、ヤジマはこのゲームのGMである。規約違反でもない限り一般プレイヤー同士のいざこざには介入できない。GMという肩書がここにきて足枷となってしまっている。


 ヤジマはヒイロたちのために何かできることはないか必死で考える。


「――ちょっと待ってください!」


 アンデルのカウントダウンが五まで来たところで、ヤジマが叫んだ。


「GMのヤジマと申します。あなた方はAIでアバターを動かしているという通報を受けています。あなたの言う魔導師団がAIによって操作されているとしたら、今すぐにアカウント凍結措置を施します」

「クククク……。こんなところでGM様にお会いできるとは思いもしませんでした。しかし、善良なプレイヤーに向かって濡れ衣を着せるなど、GM様の所業とは思えません……。ではどうぞ、心ゆくまでお調べください」


 アンデルが表情を一切変えずにそう言うと、背後の暗がりから、アンデルとは対象的な白装束の魔導師二人が現れる。


 彼らは一切声を発さずに直立不動の体勢をとった。頭はすっぽりと白色のローブに覆われ、彼らの顔を(うかが)い知ることはできなかい。


「……ジーモ、彼らがAIで動かされているか確認できる?」


 ヤジマが(つぶや)くと、ジーモがどこからともなく姿を現す。


「もちろんナ。ヘッドギアから出力される生体信号の有無を調べれば一目瞭然(いちもくりょうぜん)ナ」


 ジーモは、そう言うと、白装束の魔導師を青色の光で頭からスキャンし始める。足先までスキャンが終わるとジーモが騒ぎ出した。


「ナナナナナ! 生体信号を検知できるナ! AIとは判断できないナ……」

「なんだって!?」


 ヤジマは思わぬ展開に頭を抱えた。コミュニケーションなしで連携できるなど、プレイヤーの所業とは思えない。しかし、生体信号があるという事実は無視することはできないものだった。


「クククク……。これで身の潔白は晴れましたでしょうか?」

「し、しかし、このシーツーはGMイベントの開催予定地です! 勝手に壊されるのは困ります!」

「“運営側が困る”という表現は、強制権を執行できないから、そうおっしゃるのでしょう。なので、わたくし共としてはGM様のご意見に従う気はごさいません。さらに、破壊するというお話も、ヒイロ様がシーツーを明け渡さない場合のみの話です。ヒイロ様がシーツーを明け渡すという英断を下せば、運営側もお困りになることはないでしょう」


 ヤジマは目を丸くした。アンデルはヤジマの言葉の意味だけでなく、言葉の端まで理解して返答してのけたのだ。アンデルからは危険なニオイを感じた。ヤジマは頭をフル回転させ、なんとか時間を稼ぐ方法を模索する。


「そうだとしても、”シキゾフレニア”はシーツーを手に入れたいはずです。緋龍の翼が交渉の机につくのであれば、それでもいいのでは?」

「それはわたくし共としても望むところですが、交渉するからにはシーツ―を手に入る可能性が少なくとも五割以上なければ割に合いません。その可能性をどう担保するおつもりですか?」


 なんとかこの場は「ドロー」で終わらせなければならない。そんな焦燥感がヤジマを前のめりにさせる。


「私が両ギルドの争いの調停を取り仕切りましょう」


 緋龍の翼のギルドメンバーがザワつく。アンデルはヤジマの提案を一笑に付した。


「ご冗談を。最早、話し合いによる交渉は決裂しています。調停の余地などないかと存じます」

「いえ、話し合いだけが解決の方法ではありませんよ?」

「話の意図が見えません。どういうことでしょうか?」


 ヤジマの頭の中では、調停方法のアイディアが現れては消えてを高速に繰り返し、まるでパラパラ漫画を見ているかのようだった。そして、とある一コマが投写された瞬間、そこで思考が一時停止する。


――全国羊羹味比べ対決


「――対決をしましょう」


 ヤジマは不敵な笑みを浮かべながら言い放った。咄嗟に思い浮かんだのは環が見せてくれた”羊羹祭り”のチラシである。「全国羊羹味比べ対決」はその中で行われる予定の目玉コンテンツであった。


 ヤジマの提案を聞いたアンデルの顔から笑みが消える。アンデルは口に手を当てながら熟考する。


「ふむ……。GM様お立ち会いの元、”ギルド戦争”を行うということですね……。方法はいかがなさるおつもりですか?」

「ギルド……戦争……? そう! それです! 方法は――」


 ヤジマが頭を捻っていると、カンナバルがヤジマの困り果てた姿を見かねたのか口を挟んだ。


「ギルド戦争は事前に取り決めたルールに基づいて勝負を行い、勝利したギルドが事前に取り決めた報奨を得るというギルド間の紛争解決手段です。方法については、運営側が検討した上で両ギルドへ方法を通知、双方の了承を得ることでいかがでしょうか?」

「クククク……。お話になりませんね。その条件では、緋龍の翼にとって一方的に有利の方法で固められてしまうかもしれません。方法についてはわたくし共からご提案させていただくのはいかがでしょうか?」


 カンナバルは眉間に(しわ)を寄せる。


「それでは逆にシキゾフレニアにとって一方的に有利となってしまう可能性があります。それでは、三番勝負とするのはどうでしょうか? 一番目はシキゾフレニアから提案。二番目は緋龍の翼から提案。三番目は公平性を保つ形で運営側から提案。いかがでしょうか?」

「クククク……。いいでしょう」

「ヒイロさん、緋龍の翼としてはいかがですか?」


 カンナバルはヒイロに目配せする。


「ギルド戦争は望むところですが、緋龍の翼としては強制的にシーツーを賭けて戦うことになります。それなりの対価がなければ、ギルド戦争を承諾する訳にはいきません」


 ヒイロの言葉にカンナバルは大きく(うなず)く。


「おっしゃる通りです。要求事項があればお伺いします」

「“シキゾフレニア”に対しては、ギルドの解散を要求します。そして、シーツーは緋龍の翼で管理することを運営公認としてください」


「クククク……。運営公認となると最早、シーツーを貰い受けるスキはなくなってしまいますね。承知いたしました。わたくし共といたしましても、このギルド戦争を最後のチャンスと捉え、奮起することといたしましょう」


 ヤジマはアンデルが思った以上に乗り気で驚いた。ギルド戦争は、確かにシーツーを穏便に貰い受ける方法ではあるが、相手はトップギルドとして名高い「緋龍の翼」である。生半可な実力では渡り合えないだろう。ヤジマのシキゾフレニアに対する違和感は増すばかりであった。


「それで……開催場所と日取りはいかがいたしましょうか? わたくし共といたしましては明日でも問題はございませんよ?」

「まだ勝負方法も決定してませんので、少し時間は頂きたいと思ってます。そうですね――」


 その時ヤジマにはある考えが芽生えていた。先ほどGMイベントへの協力を緋龍の翼に取り付けたばかりだったが、まだまだGMイベントのコンテンツは不足している状況。”全国羊羹味比べ対決”に匹敵するような物珍しいコンテンツが喉から手が出るほどに欲しい状態だった。


 そこでヤジマは思い切って提案をする。


「ニューズ・オンラインでは三日後にGMイベントを行う予定なのです。開催場所は、ここ――シーツー。そのイベントのコンテンツのひとつとして実施してもよろしいでしょうか?」

「わたくし共といたしましては問題ありません。多くのプレイヤーにトップギルド相手にチャレンジするわたくし共の雄姿をしっかりと目に焼き付けていただきたい」

「緋龍の翼も大丈夫です。開催場所がシーツーであれば、ホーム開催のようなもの。望むところです」


 アンデルとヒイロの双方が(うなず)き、GMイベントのコンテンツのひとつとしてギルド戦争の開催が決定したのだった。


ここまで読了いただきありがとうございます!

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