第3部 12話 ゲームマスターと二つの立場
初めて(?)悪役を出してみる
2021/06/29 改稿
◆ニューズ・オンライン シーツー 二合目 ギルドハウス”緋龍巣”◆
遅めのランチの後、ヤジマはニューズ・オンラインに再ログインし、”緋龍巣”の正面扉の前でうろうろしていた。
まずは緋龍の翼の面々にすぐにはバグが修正できない旨を伝えなければならない。それと同時に、GMイベントへの参画依頼もしなければならなかった。緋龍の翼への迷惑のかけ方を考えると、負け戦と思わずにはいられない。
扉の取っ手に手をかけたものの、扉を押す勇気が湧かなかった。押し入ろうかどうか躊躇していると、急に扉が開き、中にいたカスミと目が合う。
「おお、遅かったじゃねーかっ! バグの件はうまく決着ついたのか?」
中には、カンナバル、タージル、ヒイロや緋龍の翼のメンバーがおり、ヤジマへ皆の注目が集まる。ヤジマは思わず居たたまれなくなった。
「それが……」
「おい、まさかうまくいかなかったのか……?」
カスミの言葉にヤジマはなんとか頷く。
「嘘だろ……。じゃあ”成形”スキルは使えないままだって言うのか……」
カスミは落胆の声を上げた。緋龍の翼のメンバーがざわつき始め、頭を抱えるもの者や悪態をつく者さえ現れる。ヤジマは皆の前で頭を下げる。
「申し訳ありません。私の力不足ですぐにバグを修正することができませんでした。今回のバグはグラフィックのクオリティを向上させるために、ニューズ・オンラインのプラットフォームを移行した関係で――」
『そんなこと聞いてねえ! 対応策はあるのか!?』
周囲からヤジが飛ぶ。ヤジマに集まる敵意の視線。皆の視線が針のように体に突き刺さる。
「まず暫定対応として、商店で売られる部品の種類を増やして、生産可能な物の自由度を向上させること。これにより、完全復旧とまではいきませんが、ある程度は修理可能だと思います」
『それなら街は直せるか……』
緋龍の翼のメンバーから安堵の声が聞こえる。
「そして、根本対策としてバグの修正を行います。しかし現状、バグ修正のための予算がなく、すぐにバグの修正に着手できない状態です」
『な――!?』
緋龍の翼のメンバーがざわつき始め、カイザーがヤジマに鋭い視線を投げかけた。
「困りましたね……予算化の目途はついているのでしょうか? 阿呆が」
「はい。しかし、現時点では100%バグを修正できるという保証ができません。というのもバグを修正する予算を得る条件として、ユーザー数を700人増やすことが求められていまして……」
「ふむ……それは一大事です。阿呆が」
「おっしゃる通りです。そこで緋龍の翼の皆さんにお願いがあります。ユーザー数を増やすために、ニューズ・オンラインのプロモーション活動にご協力いただけないでしょうか?」
緋龍の翼の面々は一同顔を見合わせ、驚きの表情を作る。そして、床にお座りしていたニャンダが尻尾をピンっと立てながらヤジマを睨みつけた。
「そんなの反対ニャ! もし緋龍の翼が協力してユーザー数が700人増えなかった場合、緋龍の翼のせいにする気だニャ!? 責任転嫁する思惑が見え見えニャ!」
「いえ、そんなつもりは――」
「黙るニャ! バグの修正すらしてくれないのに、緋龍の翼に協力しろだニャ!? 厚かましいにもほどがあるニャ!」
まるで針のむしろだった。ヤジマは思わず項垂れる。そんなヤジマの様子を見かねたヒイロが奥のソファーから立ち上がる。
「ニャンダ、そのくらいにしてあげて。ヤジマさんだって藁にも縋る思いでここにいらしているはずだよ」
「ニャァ……」
ヒイロは、しょげるニャンダの頭を撫でてからヤジマの方を見た。
「バグが直せない――つまりは”成形”スキルがない状態では、街づくりに使用する部品は、買い付けた既製品に頼らざるをえない。となると、今まで通りの自由度の高い生産物を作成することができなくなります。さらに、街の完全復旧ができないということは、拘り抜いて作ったシーツーの景観が失われてしまう。これは、タージルたちシーツーの整備にかかわっている生産系プレイヤー全員に影響が出てきます」
ヒイロは壁にもたれて佇んでいたタージルを一瞥して言葉を続ける。
「さらに、この問題は緋龍の翼だけではなく、ニューズ・オンラインで生産活動を営むプレイヤー全員にかかわる大きな問題です。バグを修正できなければ、彼ら全員がこのニューズ・オンラインをやめてしまうかもしれない。それを覚悟の上でおっしゃっているんですか?」
ヒイロの燃えるような鋭い眼光がヤジマを突き刺した。ヤジマは思い出す。ヒイロは緋龍の翼のギルドマスターであると同時に、シーツーの長なのだ。彼の背後に背負うものの大きさが垣間見える。ヒイロは今、ニューズ・オンラインのプレイヤー代表として話をしている。
しかし、ヤジマもニューズ・オンラインのゲームマスターとして話をしている。背負うものの大きさではヒイロには負けていない。ヤジマは固唾を飲み、そして答えた。
「もちろんです。私はニューズ・オンラインをプレイする全てのプレイヤー全員を想いを背負う覚悟でここにいます!」
一瞬の静粛が緋龍巣の空気を包んだ。そして次の瞬間、ヒイロは燃えるような笑顔を見せ、静粛を破った。
「――わかりました。協力しましょう。具体的には何をすれば?」
「「ヒイロ!?」」
緋龍の翼の面々がまさかのヒイロの返答に驚き、一斉にヒイロの方を見た。ヤジマとしても青天の霹靂のような事態に、思わず声を失ってしまう。ヤジマを見つめ続けるヒイロが「ヤジマさん?」と顔を覗き込んできて始めて我に返った。
「あ、ありがとうございます! 新規ユーザー獲得のため、三日後にGMイベントを開催する予定です。GMイベントでは運営側と一般プレイヤーの模擬戦を行います。つきましては、シーツーでGMイベントを開催させてください! そして、緋龍の翼から運営側のプレイヤーと勝負するプレイヤーを一名選出いただきたいです」
シーツーでGMイベントを開催するというのはヤジマの思いつきだった。シーツーを初めて見た時のあの感動が脳裏にこびりついて離れない。そんなシーツーの素晴らしい景観は、イベントを見に来た人たちを確実に魅了する――そんな確証がヤジマにはあった。
「なるほど、そういうことですか……。シーツーで開催することは全く問題ないです。そして、模擬戦に出場するプレイヤーは――ニャンダ、君にお願いするよ」
「ニャー!? なんでニャーが……」
「ニャンダなら実力も申し分ないし、何より|見てる人たちを驚かせる《・・・・・・・・・・・》プレイスタイルだ。模擬戦も大いに盛り上がるだろう。頼むよ!」
「ニャァ……ヒイロが言うなら仕方ないニャァ……」
ニャンダが猫耳を折りたたんでげんなりした表情を見せる。そんなニャンダを横目にヒイロは微笑んだ。
「ヤジマさん、これで良いですか?」
「はい! ありがとうございます!」
緋龍の翼の協力を得られたことはバグ修正に向けた大きな一歩だった。あとは長谷部の協力を得ること、そして、イベントのスケジュールを組むことが求められる。ログアウトしてチーム・ニューズのメンバーと検討しよう――そう思った矢先であった。
――カンカンカンカン!!
その時、突如としてシーツーに鐘の音が再び鳴り響いた。
「敵対ギルドの襲撃!? また!?」
ヤジマは鐘の音にかき消されないように大声で叫ぶ。
「妙ですね……一日のうちに二度も襲撃に遭うなんて、これまでに無かったパターンです」
ヒイロが首を傾げた。
「また“ゾンビ”共か、阿呆が」
カイザーが呟きながら緋龍巣の外に出て行ったので、ヤジマもその後に続いた。
「しかし、妙じゃな。奴ら、いつもは真っ先に街へ攻撃してくるじゃろ? 今回は街から白煙が一切上がっとらんのう」
タージルの言う通りであった。前回の敵襲では、爆発音がいくつも聞こえてきたが、今回は全く聞こえてこない。タージルの言葉にヒイロが頷く。
「そうですね……。ですが、シーツーの何処かに潜んでいるかもしれません。四翼の四人は回廊を登りながら、敵を各個撃破。私は十合目まで上がって様子を見てきま――」
「クククク……。いやあ、皆さんお揃いのようで何よりです」
ヒイロの声を遮るように、男の粘着質な声が響き渡る。
「――誰だ!?」
夜の闇に溶け込むような黒装束を纏った魔導師だった。ロザリオを首に掛け、聖書のような分厚い書物を手にしている。まるで神父のような佇まいであった。
「わたくし、“シキゾフレニア”のギルドマスターで、名前をアンデルと申します。シーツーには度々、集団戦闘の演習でお邪魔させていただいている者です」
アンデルは青白い顔に不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりとお辞儀した。
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