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第3部 11話 ゲームマスターと集客案

2021/06/29 改稿

◆縦浜近郊 和食処白岸(はくがん)



 山田は環、成瀬、長谷部の三人と、集客案の検討も兼ねてランチを共にすることになった。長谷部をランチに誘うと、「俺の行くところに勝手についてくるんだったらいい」と言うので、一行は長谷部の後に続いた。訪れた店はビル街の路地裏の一角にある小さな和食屋だった。開けっ放しにされた引き戸にかかった真っ黒の暖簾(のれん)には「和食処白岸(はくがん)」と白抜きで書かれてあった。


 店の内装には装飾感がなく、ステンレスでできた厨房の無機質さが目立つ。時刻は既に14時近かったため、店内に他の客はいなかった。座席はなく、厨房を囲むように設置されたカウンターのみが設置されているため、立ち食いなのだろう。


「長谷部さん、カウンターじゃ検討会にならない――」

「お前らが勝手についてきただけだろ? 嫌なら他のところに行けばいい」


 長谷部はカウンター内にいるおばさんに「天ぷらそば」と、短く告げると、おばさんは「はーい」と明るい声で返事をした。まるで山田たちのことなど眼中にない素振りを見せる長谷部に苛立ちを覚える。


「山田、まあここでもいいんじゃないか?」


 成瀬はカウンター上に貼られたメニューにをしげしげと見つめながら言った。何かと思って山田もメニューを眺めると、その安さには目を見張るものがあった。最も安い「かけそば」が200円、その上に「天ぷら」を載せても250円、天丼やかつ丼ですら400円という安さだ。この価格設定を見て、成瀬が何故この店でもよいと言ったのか理由がわかった。


「成瀬、お前値段で判断したろ?」

「馬鹿な。時間もないし他に店を探している暇もないだろう? おばさん、納豆ください」

「納豆!? お前そんなんじゃ腹減るだろう……」

「朝にくねくねでステーキ食べたから気持ち的にお腹いっぱい」

「ついにとんでもない節約手段に出たな!?」


 山田はため息をつくと、環に目を向ける。


「環さんもここでいいですか?」

「うん、いいよお。おばさーん、天丼と……羊羹」

「いや、環さん! 羊羹は流石にないでしょ……」

「はーい、460円よ!」

「あるの!? しかも格安!?」


 成瀬も環もこの店で問題ないようなので、山田は渋々かつ丼を注文する。


「で、山田には何か集客案はあるのかよ?」


 成瀬が割り箸を二つに割り、納豆をかき混ぜながら言った。


「前に辻村さんが言っていたようにトッププレイヤーをプロモーションに活用できないかなとは思ってるんだけど、これと言って具体的な案は思い浮かばないんだよな……」

「トッププレイヤーって言うとやはり緋龍の翼か……。まあ、簡単に思いつくのは”デモンストレーション”とかか」

「ああ、ヒイロたちに超絶プレイを披露してもらって、それを動画に編集して広告に利用するのがいいんじゃないかとは思ってる――」

「はあ?」


 長谷部が山田の隣でそばを(すす)りながら一笑した。


「何がおかしいんですか?」

「俺らが動画を作ったところで拡散力なんてねえんだから、時間の無駄だろ。そもそも、生産系スキルの件で散々迷惑かけてる緋龍の翼が協力してくれると思うか?」


 棘のある言い方に山田はムッとしたが、長谷部の言うことはあながち間違いという訳ではない。ヒモ化作戦の際はゴエモンというインフルエンサーが動画を拡散したため、奇跡的に集客できた。しかし、今回は運営側で動画を作ろうとしているため、ゴエモンの拡散力は期待できない。さらには緋龍の翼にはバグの件で迷惑をかけている。バグを直すという報告ができれば緋龍の翼も協力してくれるかもしれないが、バグの修正すら確約できない状況。そんな中、運営側の都合に協力してくれるほどのお人よしがいるだろうか。


「確かに長谷部さんの言う通りかもしれませんが、開発予算を確保するためにはいろいろ試してみるしかありません」

「ああ、そうかい。無駄な努力、ご苦労なこったい。万が一開発予算取れても、俺は維持開発で手一杯だから他をあたってな」

「……前から思っていたのですが、長谷部さんは開発を避けていますよね? なんでなんですか?」

「別にい」


 長谷部は眉とぴくっとさせたが、何事もなかったかのように丼ぶりに口をつけてスープを飲む。環がそんな長谷部を山田、成瀬越しに覗き込む。


「長谷部さんてニューズ・オンラインの立ち上げメンバーでしたよね? それなのにニューズ・オンラインには思い入れとかないんですねえ」


 長谷部がスープを飲み干した丼ぶりをカウンターの上に叩きつけて、立ち上がる。


「そんなもんねえよ!」


 長谷部がカウンター上に小銭を置き、暖簾(のれん)をくぐって風のように立ち去っていった。


「……私、墓穴掘っちゃったかなあ?」


 環は羊羹をムシャムシャと食べ、付け加えるように「あ、これおいしい」と言った。





「先輩、今週末って予定空いてます? 映画のチケットがあるんですけど、一緒に行きません?」


 長谷部がいなくなって検討会は終わりと踏んだのだろう。成瀬が唐突に環と約束を取り付けようとする様子を見て、山田はげんなりした。


「ごめーん、私今週は重要な予定があるの」


 あからさまにしょげる成瀬を横目に、山田は小さくガッツポーズをする。納豆食いながらデートの誘いに成功するかと思ったら大間違いである。


「予定って何ですか?」


 山田がそう尋ねると、環は光沢ある薄紫色のポーチの中から一枚の紙を取り出して山田に見せる。


「羊羹フェスがあるのよ……!」


 待ってましたと言わんばかりに環は鼻息荒く言った。その紙には小倉羊羹、水羊羹、そして色とりどりのフルーツ羊羹などの絵が貼り付けられ、「第24回羊羹祭り 開催決定!」と大きく書かれていた。


「年に一度全国47都道府県から選りすぐりの羊羹が集結するこの羊羹祭り。去年の来場者数は一万人を超えたそうよ……!」

「一万人ですか!?」

「それだけフェスのコンテンツが充実しているのよ。これ見て頂戴」


 環の指さす部分を見ると羊羹祭りのスケジュールが書かれていた。全国から集めた羊羹の試食販売だけでなく、「羊羹作りの実演」「新商品の試食・販売」「全国羊羹味比べ対決」といった目玉コンテンツを準備し、来場者を飽きさせない工夫をしているようだった。羊羹作りの様子や、羊羹の味を争うコンテストなどといった普段目にすることができないもの珍しい体験ができるのであれば、集客もできるのだろう。


――もの珍しい体験


 その時ふと、山田の頭にあるアイディアが思い浮かんだ。


「ゲーム内でイベントをやるっていうのはどうですかね?」

「GMイベントをやるっていうこと?」

「え、GMイベント?」


 山田は逆に聞き返してしまった。


「GM主催のプレイヤーと運営側の交流イベントのことだよお。バレンタイン・オンラインの場合は、アップデートのタイミングとか、クリスマスやハロウィンとかのイベント事がある時にやったりするなあ。ニューズ・オンラインではやったことないのかなあ?」


 環が成瀬の方に目を向ける。


「ニューズ・オンラインでは、今までGMイベントどころか運営側との接点は、ほぼ皆無でしたね。山田がGMになってからは、プレイヤーとの接点は増えたんですが、GM本人がGMイベントを知らないくらいなんで、開催されるはずもないっすね……」


 成瀬がやれやれと首を振りながら答えた。山田は成瀬を睨みつけた後、環に尋ねる。


「例えば、緋龍の翼と運営側の誰かで模擬戦のようなものを行うのはどうでしょうか? 運営側のプレイなんて普段は見ることなんてできないですし、一般プレイヤーと運営側の交流としても良い機会になるのではと思います」

「なるほど、面白そうねえ。今までGMイベントをやっていないからこそのインパクトを期待できるかも。やってみる価値はあるわねえ。でも、もし緋龍の翼の誰かと模擬戦をするのであれば、運営側としてもそれなりの実力者を出さないといけないわよ? となると――」


 環の言うことはもっともだった。初心者の山田は論外。成瀬や環もバレンタイン・オンラインでのプレイ経験は豊富だが、ニューズ・オンラインのプレイ経験は少ない。そうなると、緋龍の翼に対抗できそうなのは一人しか思い浮かばない。


「長谷部さんしかいないですね……」


 緋龍の翼、長谷部、いずれをとっても模擬戦への出場の承諾を得ることは困難を極めるだろう。山田は覚悟を決めて、環の言葉に大きく(うなず)いた。そんな山田を怪訝そうな目で見ながら成瀬が口を挟む。


「でも、模擬戦だけではコンテンツは全く足りないだろう。GMイベントの尺がものの数分で終わっちまうだろう」


 成瀬の言う通りだった。模擬戦だけではGMイベントのコンテンツとしては心もとなさすぎる。羊羹フェスの「羊羹作りの実演」が模擬戦に値するとなると、「新商品の試食・販売」や「全国羊羹味比べ対決」に並ぶコンテンツが欲しいところである。


 山田は何もなくなった丼ぶりの中を見つめ、ため息をついた。

ここまで読了いただきありがとうございます!

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