第3部 10話 ゲームマスターとバグの原因
開発者あるあるなのですが、バグがあるという言い方は、プログラムの作りに問題があるということなので、開発者に非があることを認めることになります。
なので、開発者はバグではないのにバグと言われるとイラッとします笑
ユーザーから見ると、うまく動作しない場合は全部バグに見えると思いますが、性能不足などのインフラ側の問題だったり、運用上の設定ミスだったりといろいろと原因があります。
開発者にも諸事情があるのです…
2021/06/29 改稿
◆ニューズ・オンライン シーツー 二合目 ギルドハウス”緋龍巣”◆
ヤジマはヒイロの昔話を聞き、愕然とした。
まさか、ヒイロと前GMとの間に大きな因縁があろうとは思いもしなかった。そんな因縁があるにもかかわらず、ヤジマに対するヒイロの態度は紳士的なものであった。話を聞く限り、たとえ罵倒されようともしようがない様に思える。
「先ほど、ヤジマさんに握手を求められた時、私は一瞬戸惑ってしまいました。私は以前のGMにお会いしたことがあるので、ヤジマさんにお会いした時、少し身構えてしまったんです。それなのに、握手を求められて面食らってしまいました」
ヒイロは自らの手をひらを眺めながら呟いた。そして、顔を上げてヤジマへ微笑を向ける。
「ヤジマさんは、私たちプレイヤーの話を親身に聞いてくれる。そして、困りごとがあれば何とかしようと努力してくれる。ヤジマさんがGMになってくれて本当によかった」
ヒイロの言葉は嬉しくも気恥ずかしくもあり、ヤジマへの期待感に身が引き締まるようであった。
「ヒイロさん、前GMが犯した非礼の数々、心よりお詫び申し上げます」
ヤジマを深々とお辞儀した。ヒイロはヤジマが頭を下げる様子を見て、あたふたする。
「ヤジマさん、顔を上げてくださいっ! こちらこそ昔話をしてしまい、申し訳ありませんでした。ヤジマさんが真摯に私と向き合ってくれるので嬉しかったんです。むしろ、お礼を言いたいくらいです! ありがとうございます!」
ヒイロがヤジマに向かって頭を下げる。お互い頭を下げ合う格好となり、その様子を見ていたカスミが鼻を啜りながらバシバシと二人の肩を叩く。
「よかった……よかったな!」
「「カスミ!?」」
ヤジマとヒイロは思わず顔を上げた。カスミが上ずった声で言葉を続ける。
「だってそうだろ? ヒイロが長年抱えていたニューズ・オンラインの運営に対する想いがGMに通じた瞬間なんだぜ? 感動しないわけにはいかないだろ……」
「カスミ~泣いてるニャ~? カスミは昔から強がってる癖に涙もろいニャ☆」
ニャンダがカスミの脇腹をツンツンとつついた。カスミは顔を隠すように、くるっと後ろを向く。
「ば、バカッ、泣いてねーよ! ってコラッ! 乙女の顔をそんな間近で覗き込むな!」
「地味っ子のカスミの泣き顔、つくづく不細工ニャ~」
「殺す!」
カスミがニャンダと追いかけっこを始め、張り詰めた場の空気が和んだ。
ヤジマには今回ヒイロの話を聞いて、もう一つわかったことがあった。ニューズ・オンラインは、元々は生産活動がメインの生産系のゲームであったのだ。そして、何らかの理由で後から戦闘機能が追加された。
この事実から推測するに、運営側としてはニューズ・オンラインのリリース当初、生産系ゲームとしてサービス展開していくつもりだったのだ。生産系ゲームには終わりがない。だから、グランドクエストがなかった。いや、必要なかったのだ。
しかし、戦闘機能が追加されたことにより、アクション系なのか生産系なのか、コンセプトのよくわからないクソゲーに成り果ててしまった。
これらのことを踏まえると、そもそも、プレイヤーたちがこのゲームに求めているもの――彼らがゲームを続ける理由は何なのだろうか? そんな疑問が湧いてくる。
ヒイロは元々は秘密の隠れ家を作りたかったと言っていた。ヒイロのように生産活動メインにゲームをプレイしている者もいるだろう。しかし、カスミのような冒険好きなプレイヤーもいる。ヤジマは彼ら全員が腹落ちするようなグランドクエストを作ることができるのか一抹の不安を抱えるのだった。
◆RXシステムズ 本社ビル チーム・ニューズオフィス◆
山田は、ニューズ・オンラインからログアウトすると、チーム・ニューズのメンバーと環を集め、緊急のバグ対策会議を開いた。
環に参加してもらったのは、今回のバグは“ヒモ化作戦”による影響が考えられたためだ。ニューズ・オンラインがバレンタイン・オンライン配下となったことが引き金となり、今回の事象が発生していることを危惧していた。
「“ヒモ化作戦”以前に使えていた生産系の“成形”スキルが今は使えなくなっているというのは、“ヒモ化作戦”の影響と考えるのが妥当ではないでしょうか?」
山田が今回のバグの事象と見解を述べると、メンバーは皆、腕組みをして押し黙った。皆の仕草が、それだけ深刻な状況であることを物語っている。
「……報告ありがとう。山田くんの見解はわかりました。まずは山田くんの見解が正しいのか確認をしないとね。長谷部くん、確認をお願いできる?」
PCのスピーカーから、リモートで参加の辻村の声が聞こえてきた。
「少し待ってください。なんとなく原因は想像できています」
長谷部が膝上のノートPCを操作し、画面を凝視しながら何やらブツブツと呟いている。そして、急に天を仰ぐようにのけぞったかと思うと、体を元に戻して環の方を見る。
「バレンタイン・オンラインのミドルウェアには、”成形”スキルの機能はないのか?」
「”成形”スキルというのは、生産系のスキルですか? バレンタイン・オンラインでは聞いたことのないスキルですねえ」
環の回答に長谷部は舌打ちする。
「じゃあ、バレンタイン・オンラインにおける、生産系スキルの体系はどうなっている?」
「生産系スキルとしては、2種類に分けられますねえ。まず、生産物を設計する”設計”スキル、そして、部品から生産物を生成する加工”スキルがあります」
「なるほどな……。ニューズ・オンラインでは、生産は設計→成形→加工という三段階の流れを辿る。しかし、バレンタイン・オンラインでは、同様の生産でも、設計→加工という二段階しかないということか……。となると、バレンタイン・オンラインのミドルウェアに”成形”スキルのAPIが存在しない訳も納得できるな……」
「どういうことですか?」
一人で納得した風の長谷部に、山田は早る気持ちを抑えきれず尋ねた。
「そうだな……。例えば、家を建てるとしよう。元々ニューズ・オンラインでは、”設計”スキルでどんな家を建てるのか設計して、”成形”スキルで鉄骨や扉などの部品を作る。そして”加工”スキルで組み立てると家が完成する。しかし、バレンタイン・オンラインでは、”設計”スキルでどんな家を建てるのか設計した後、買い付けた部品を”加工”スキルを用いて組み立てて家を建てているということだ」
山田はなるほど納得した。
バレンタイン・オンラインでは、”成形”スキルがないため、部品が作れない。つまりは、バレンタイン・オンラインは、生産物のパターンがニューズ・オンラインよりも少ないのだ。結論としては、ニューズ・オンラインはバレンタイン・オンラインより生産系スキルの自由度が高いと言える。
山田は、今まで気づかなかったニューズ・オンラインの長所に驚かされた。長谷部は饒舌に話を続ける。
「やはり、山田くんの予想通り、”ヒモ化作戦”による影響だな……。”ヒモ化作戦”によって、ニューズ・オンラインは、バレンタイン・オンラインのインフラ上で稼働している。このため、バレンタイン・オンラインのミドルウェアを使用し始めた。しかし、そのミドルウェアには、”成形”スキルのAPIが存在しないんだ。だから、ニューズ・オンラインでは”成形”スキルが発動できなくなったというわけだ」
長谷部はどういうわけか、軽快に説明して述べた。そして次の瞬間、山田は長谷部の言葉に耳を疑った。
「あーびっくりした。バグかと思ってヒヤヒヤしたよ」
「――!? これはバグではないんですか?」
「いや、違うだろ? プログラム的には不具合なんてないんだから、これはバグではない。何かと問われれば、”ヒモ化作戦”中の作業ミスかな? だから俺の責任ではない。バレンタイン・オンラインへの移行前によく検証しないからこうなる」
長谷部の言い分には一理あるが、バグだろうと作業ミスだろうと、正しく動作しなければ意味がない。そして、山田にとって重要なのは、責任の所在ではなく、どうすれば早く直せるのか、その一点だけであった。
「長谷部さんの話はよくわかりました。では、どうすれば早くこの状況を改善できますか?」
「無理だな。運用でカバーするしかない。”成形”スキルが無くても、バレンタイン・オンラインのようにどこかで買い付けた部品を使えば、今まで通り”加工”スキルを使うことができる。だから問題ないだろう?」
山田は長谷部の心無い言葉に愕然とした。
「いや、問題ありまくりですよ! それでは今まで通り自由度の高い生産物を制作することができませんし、これまでに作られた生産物を修理することもできません」
「じゃあどうするんだ? また、ニューズ・オンラインのインフラ上に移動するのか? そうしたら折角良くなったグラフィックも、また元の劣悪な状態に戻ってしまうぞ?」
山田には反論の余地が見つからなかった。”ヒモ化作戦”を強力に押し進めた身としては責任を感じずにはいられない。山田は一縷の望みをかけて頭をフル回転させて解決策を考える。
「バレンタイン・オンラインのミドルウェアに、”成形”スキルのAPIを追加することはできないんですか?」
「フンッ、愚問だな。”成形”スキルのAPIは新規開発が必要だ。開発予算がつかない限り、今のチーム・ニューズでは開発できないと思え」
山田の提案は長谷部の一笑に付した。梯子を外され、奈落の底に突き落とされた気分だった。
――”ヒモ化作戦”は失敗だったのか?
山田の頭にふと、そんなネガティブな考えがよぎった。
ニューズ・オンラインのユーザ数を増やすために、”ヒモ化作戦”は必須と踏んだ。しかし、蓋を開けてみれば、ユーザ数は増えたものの、バグが発生して生産系スキルの自由度を奪う結果となった。それは生産活動を楽しみとするプレイヤーたちとって致命的な結果である。まさに彼らの存在意義にかかわる問題であった。
こんなことではヒイロのGMコールに取り合わなかった前GMとやっていることが同じではないか? 既存ユーザの存在意義を取り上げるくらいだったら、元に戻した方がいいのでは? 否、グラフィックのクオリティが上がったことで、新たな楽しみを見つけたプレイヤーだっているはずである。しかも、グラフィックのクオリティ向上は、今ではニューズ・オンラインの大きな強みとなっている。もはや後戻りはできないだろう。
黙り込む山田を見て成瀬がため息をつきながら言う。
「辻村さん、やはり開発予算を確保するのは難しいんですかね?」
「難しいわね。サービス終了危機のニューズ・オンラインには、維持開発の予算すら雀の涙よ。バグが発生したとしても、今のニューズ・オンラインにはそんな一から開発をする体力は残ってないわ。どうにかコストのかからない方法で切り抜けるしかないわね」
「コストがかからない方法となると、やっぱりニューズ・オンライン内で購入可能な部品のパターンを増やすしか手はないんじゃないですか? ”成形”スキルほど自由度を出すことは不可能ですけど、バレンタイン・オンラインと比較して自由度の高い生産物を制作することは可能ですよね。どうですか、先輩?」
「そうねえ、運用でカバーできるのは成瀬くんの言った案が限界……。それでも今までと同じようにシーツーの街を修理することは不可能ねえ」
成瀬と環の憐れむような視線が山田の心をさらに傷つける。チーム・ニューズオフィスに重い空気が漂っていた。そのどんよりとした空気を晴らすようにして、辻村が元気な声で言い放つ。
「一つだけ開発予算を確保する方法があるわ!」
「「え!?」」
皆が辻村の声が聞こえてくるスピーカーに視線を集めた。
「な、なんですか!? 教えてください!」
山田は藁にも縋る思いで叫んだ。
「社内ではゲームの格付けとして”松竹梅”の三段階があるの。どのポジションに格付けされるかで、社内のゲームに対する扱いが変わってくる。格付けが上になればなるほど、開発予算も付くし、人員も補充される。バレンタイン・オンラインだとか一番上の”松”だと、年間数十億という予算が付くから、新規開発もかなりできる。ニューズ・オンラインは一番下の”梅”だから、予算なんて数百万しかない。そうなると、今みたいにバグの修正すらできないほど困窮する。でも、もし中間の”竹”に格付けされれば、通常一億程度の予算が付くわ。ニューズ・オンラインはサービス終了危機の状態だから、そこまでの予算は付かないだろうけど、二千万くらいは取ることができるでしょう」
辻村の話を聞いた山田は目を見開いた。
「長谷部さん! 二千万くらいの予算があれば、バグの修正は可能ですか!?」
「まあ、な。できなくはないだろう」
長谷部は渋々といった面持ちで呟いた。その言葉を聞いた山田は目を輝かせる。
「じゃあ――」
「――ただし!」
辻村が大きな声で山田の言葉を遮った。
「ニューズ・オンラインの格付けを”竹”にするには、ユーザ数3000人を超える必要があるわ。ニューズ・オンラインのサービス終了が近づく中、すぐにそんなことが実現できるかしら?」
山田は視線を床に落とした。今のニューズ・オンラインのプレイヤー数は約2300人である。その三分の一の人数を増やす必要があるということだ。これは多少工夫したところではどうにも集客できない人数である。しかし、山田には残された道がない。ヒイロたち、生産活動をメインとしてプレイする者たちのためにも、諦めることなどできなかった。
山田は顔を上げ、真っすぐにスピーカーの方を見据えた。
「今やらなければどのみち終わりが見えています! 是非やらせてください!」
スピーカーからクスッと笑い声が漏れ、その後に「集客案を考えなさい! 今日中!」と凛とした無茶ぶりが聞こえてきた。
ここまで読了いただきありがとうございます!




