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第3部 8話 ゲームマスターと花形プレイヤーの過去

ヒイロの過去編始まります。次話まで少しお付き合いください!


2021/06/29 改稿

◆ニューズ・オンライン シーツー 10合目 荒野◆



「ったく何勝手に行動してんだよ!? お前はすぐに何か問題を起こすから、独断行動は慎めよ!」


 カスミがヤジマの首に腕を回して羽交い絞めにする。


「うっ、ごめんごめん……」


 ヤジマはカスミの腕をタップしながら言った。そして、独断行動により早速プレイヤーひとりを島送りにしたことは伏せておこうと思った。その様子を見ていた四翼たちは呆気にとられているようだった。


「GMさんの首を絞める彼女は何ものニャー!?」


 ニャンダがカスミを指さしながら、慌てた様子で大きな猫目をヒイロに向ける。しかし、ヒイロは微笑を顔に張り付けたまま言葉を発することはない。


「お、みんな久しぶりじゃんか。元気だったかー!?」


 その言葉を聞いた四翼の面々が息を飲んだ。


「この敬語というものを知らない語り口は……まさか、カスミですか? 阿呆が」

「そうだよ、カスミだよ! 勘違いするといけないから言っておくが、カイザーも敬語できてないからな!?」

「カスミニャ!? 昔のアバターと比べて随分と地味っ子になったもんだニャ! 猫耳貸してあげようかニャ?」

「いらねえよ! レベル低いんだからしゃーないだろ!?」


 カスミの周りをニャンダとカイザー、そして無言のノワードが取り囲む。そして、ターミリアだけが、その様子を遠巻きに眺めていた。そんなターミリアの姿に気づいたカスミが声をかける。


「ターミリアも久しぶりだな! お前、四翼になったんだって!? おめでとう!」

「……ありがとう」


 ターミリアは伏し目がちに答えた。そんなターミリアの様子を見て、ヒイロは(つぶや)く。


「ターミリアはカスミの後釜として、四翼になったんです。以前からカスミを慕っていたので複雑な心境でしょう……」

「え!? ということはカスミって緋龍の翼の四翼だったんですか!?」

「はい、そうですよ。本人から聞いていませんでしたか? カスミの凍結されたアバターは、”気まぐれな晴天乱気流フィックル・エアポケット”という二つ名でニューズ・オンライン全体にその名が轟いていました。それこそ私と同等、もしくはそれ以上の力量だったと思います」


 カスミが強いプレイヤーだったとは聞いていたが、まさか花形プレイヤーのヒイロ並ぶほどの実力――つまりはトッププレイヤーであるとは思ってもみなかった。ヤジマは、皆に取り囲まれて笑顔を見せるカスミの姿をじっと見る。


――あのカスミがトッププレイヤーの一人?


 カスミがトッププレイヤーであることも驚きだったが、今までトッププレイヤーであることを鼻にかけることもなく、ヤジマに接してくれていたことも驚きだった。


 ヤジマは皆から慕われるカスミの姿を見て、まるで自分のことのように嬉しくなったのだった。





 ヤジマたちは七合目でカンナバル、タージルと合流し、そのまま回廊を下って二合目までやってきた。シーツーの二合目は大穴の底に位置する。そして、ヤジマの目先には巨大な鳥の巣のような建物、その先には露出した岩肌が地面と崖の間で五メートルほど大きく裂け、まるで地獄に誘うかのような洞窟の入口を形成している。


「あの裂け目が渓谷ダンジョン”恵の渓谷(グレイス・バレー)”の入口、そして手前に見える鳥の巣のような建物がギルドハウス”緋龍巣(ひりゅうそう)”です」


 ヒイロの言う通り緋龍巣の外観は、まさしく鳥の巣のようであった。巨大な茶碗のような形をし、茶碗の表面を覆うように、所せましと無垢(むく)な木材が組木されている。近くで見ると全容がわからないが、離れて見ると巨大な巣に見えるのだった。


「名前だけでなく、見た目もまさしく”龍の巣”ですね。素晴らしいです……」


 ヤジマがそう(つぶや)くと、ヒイロがフッと笑い、「ありがとうございます」と礼を言う。


「この緋龍巣はギルドハウスという位置づけですが、現在は様々な役割を担っています。シーツーの今後をどうしていくのか意思決定を行う場、プレイヤーたちの交流の場、ダンジョン最寄りの休憩の場……。しかし、元々は私個人の秘密の隠れ家を作りたかっただけなんです。その隠れ家がギルドハウスになり、回廊にたくさんのユニットができ、今のシーツーを構成するまでに大きくなりました」


 ヒイロが緋龍巣の入口に掲げられた石板を見上げ、昔の出来事について語りだした。






 ヒイロは二年前のニューズ・オンラインのサービス開始と同時にプレイをし始めた古参である。そしてその時、ヒイロが感じたニューズ・オンラインの第一印象は、「生産系の大本命のようなゲームだ」ということであった。グラフィックには難があるものの、生産系のスキルが豊富で自由度が高い。そして、広大な土地が未開拓の状態で残っており、地道に歩いて土地を開拓していく。現実では味わえないリアルなアドベンチャーが体験できた。


 そんなニューズ・オンラインをプレイし始めて二か月ほど経った頃に、偶然にも荒野のど真ん中にある巨大な谷に出くわしたのだった。この谷の周りは荒れ果てた土地が地平線の彼方まで広がっており、いくら歩いても草木一本生えていない退屈な景色が広がっている。そのせいか、荒野を開拓しようとするプレイヤーはほぼ皆無で、ヒイロが一番乗りで発見することができたのだ。


 この谷では、太陽が昇ると崖上の障害物によって陽の光が遮られ、切り立った崖に「〇」を縦に真っ二つにした特徴的な陰影が映し出された。その陰影が、アルファベットの「C」と「C」を逆さにしたような二文字に見えることから、この谷をシーツーと名付けることにした。


 シーツーの非現実的な景観に心奪われ、秘密の隠れ家を作ろうと思ったのは、ただの思いつきだった。もしこんな絶景の中に自分の隠れ家があったらどんな気分だろうか。そんなワクワク感がヒイロの身体を突き動かしたのだ。


 ヒイロが隠れ家作りに使うための資材調達に奔走(ほんそう)する過程で、タージルやカイザーといった志を共にする仲間ができた。彼らと隠れ家作りを始めて約一か月が過ぎたところで、巨大な鳥の巣のような屋台骨はほぼ完成。後は装飾や内装を施すのみとなり、ついに念願の隠れ家竣工(しゅんこう)間近というところまできた。


「ヒイロ! 隠れ家の表に掲げる看板には何の文字を入れるんじゃ?」


 タージルが大きな一枚岩を加工しようとスタンバイしている。


「隠れ家に看板建てたら最早、隠れ家じゃない気が……」

「うははは! それもそうじゃが、一人で使う家ではないんじゃろ? 誰が来てもわかるようにしとかんとな」

「そうかあ……。じゃあドラゴンが住んでそうな谷にある巣のような建物だから、“龍巣(りゅうそう)”なんてどうかな?」

「ええんじゃないか? ヒイロ、お前の一文字も入れて“緋龍巣(ひりゅうそう)”じゃ!」


 そう言うとタージルは勢いよく石板を加工し始める。


「えぇ!? いいよ、僕の一文字なんて……。僕だけの隠れ家ではないんだから……」

「はい、完成じゃ! もう遅い! うはははは!」


 ヒイロがため息をついたその時、突然空が端から赤く塗り替えられていく。


「な、なんだ!?」


 次の瞬間、世界を青白い光が包み込む。光は巨大な風呂敷のように、ヒイロたちを押し潰さん勢いでゆっくりと落ちてきた。そして、そのままヒイロたちの体を通り過ぎ、地面の中へと消えていく。


 すると、空の色は元の青空へとすぐに戻った。ヒイロはタージルと目を合わせる。


「何だったんじゃ?」

「さあ?」


――ぎゃぁあああ!!


 谷に甲高い叫び声が響き渡る。”恵の渓谷(グレイス・バレー)”の方から聞こえてきたようだった。”恵の渓谷(グレイス・バレー)”は、その名の通り様々な素材が採取できる恵み豊かな渓谷である。その内部では現在進行形で仲間が素材集めに励んでいるはずであった。


 ヒイロはタージルと共に急いで”恵の渓谷(グレイス・バレー)”へと駆けつけ、入口付近で右往左往するカイザーに声をかける。


「どうしたんだ!?」

「洞窟の中に突然モンスターが現れたんです。仲間たちが襲われて、体が青い粒子となって消えてしまいました……阿呆が」

「モンスターだって? そんなバカな……」


 ヒイロは静止するカイザーの手を振り切って、”恵の渓谷(グレイス・バレー)”の中に入っていく。戦闘機能もないニューズ・オンラインでモンスターに襲われるなど考えられなかった。ヒイロは真相を突き止めようと、洞窟の奥へ足を進める。


 ヒイロの予想を裏切る形でモンスターと出くわしたのは、それからすぐのことだった。ヒイロはモンスターの恐ろしい姿を見て、恐怖で思わず体が硬直してしまった。


 人間より二周りは大きい体躯(たいく)、ワニのように大きな(あご)と牙、見るからに硬そうなタイルのような肌。リザードマンだった。


 リザードマンが雄叫びを上げながら、引き抜いた曲刀をヒイロに向かって振り下ろす。思わず身体をこわばらせ、目を(つむ)ってしまった。ガツンと頭を襲った衝撃の後、恐る恐る目を開けると、ヒイロはキングスタウンにリスポーンしていた。


ここまで読了いただきありがとうございます!

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