第3部 7話 ゲームマスターと街の課題
新キャラがたくさん登場!
名前覚えられないよお……
2021/06/29 改稿
◆ニューズ・オンライン シーツー 10合目 荒野◆
「シーツーに侵入した敵アバターは、ギルドハウスにいたメンバーが掃討していると思いますよ」
ヒイロがそう言うのでヤジマは、その場で大人しくしていた。すると、ひとり、またひとり、ぽつぽつとプレイヤーが荒野へ登壇してくる。
「性懲りもなく奇襲をかけてきますね。また敵兵の数が増えたんじゃないですか? 阿呆が」
まず最初に登場した槍使いの男が、ヒイロを鋭い眼光で睨みつけながら毒を吐いた。そんな乱暴な言動とは対照的に、身体には神々しさを覚えるほどの真っ白の軽鎧を纏う。かなりの長身で、毛筆のように纏められた銀色の前髪が青白い顔を半分以上隠していた。
「何人でかかってこようとニャーの拳で返り討ちニャー!」
次に上がってきたちびっ子が、槍使いのボリューミーな前髪をパンチングボールに見立てて素振りし始める。少年とも少女ともとれる中性的な顔立ち。袖なしのチョッキに短めの外套を羽織ったフォーマルな衣装。それにもかかわらず、トラ猫の耳飾り、肉球のついたグローブ、さらには縞模様の尻尾まで付けて、フォーマルが崖崩れを起こしたような可愛らしい格好だった。
「ニャンダ、何度も言いますが、これは猫じゃらしではありませんので、私の髪で遊ばないでください、阿呆が」
槍使いの鋭い眼光が、ニャンダと呼ばれた子をギロッと睨みつける。
「カイザーは怖いニャ~。”ゾンビ”を倒す練習してただけだニャ~」
「ニャンダ、あなたが返り討ちにしてくれるのは結構なことなのだけれど、街に被害が出ているのが問題よ。バグが発生してユニットの修復ができないのだからね」
どこからともなく女のため息が聞こえ、竹箒に横座りした魔女が荒野へ舞い降りた。小さな顔の何倍もある大きな三角帽子を被り、そのつばには一輪の赤い薔薇がささっている。羽織っているのは薔薇の刺繍が施されたワインレッドの上品なローブ。アッシュグレーの髪は胸元まで下され、薔薇の髪飾りでツインテールに纏められていた。
「ターミリアはいろいろ細かいニャ~」
ニャンダはターミリアと呼ばれた魔女の言葉を聞いて、口を尖らせた。
そして、少し遅れて巨人のような大男が、のっそのっそとゆっくり歩いてきた。上半身は裸であり、その筋肉質な体躯はゾウの肌のようにグレーで岩のように硬そうだった。広い背中には大槌を背負い、腰にはまわしのような大綱を巻いている。誰とも挨拶も交わさず、仏頂面で終始無言を貫いていた。
「この四人は“四翼”と呼ばれている緋龍の翼の幹部です。以後、お見知りおきを」
そうヒイロは言って、ヤジマに四翼のメンバーを紹介してくれた。
槍使い ⇒ カイザーハーデン(通称:カイザー)
猫 ⇒ ニャンダフルパワー☆(通称:ニャンダ)
魔女 ⇒ ターミリア
大鎚使い ⇒ ノワード
すると、四翼たちの訝しげな視線がヤジマへ集中する。
「ヒイロ、こちらはどなたかしら?」
ターミリアの呟きに反応し、ヤジマが急いでお辞儀する。
「あ、GMのヤジマです。よろしくお願いします」
「「――!?」」
ヤジマの一言に反応して、皆の顔が一斉に驚きの表情へと変わる。
「驚いた……こんなところでGMさんに会うなんて……。確かにギニーデンでロックゴーレム討伐イベントのときに見た姿と一緒ね」
ターミリアが口を手で覆いながら目を丸くした。
「GMさん、初心者丸出しの格好してるから、全然気づかなかったニャー!」
ニャンダは、かぎしっぽを立てながらヤジマの周りを歩き回る。
「ははは……。すみません、ニャンダさん」
「ニャーのことはニャンダでいいニャー!」
――最早何を言っているのかわからない!
ヤジマは、ニャンダの話し方に辟易してしまったものの、苦笑いでその場を凌ぐ。
「ニャ!? GMさんの隣に浮かんでいるのは……猫ニャ!?」
ニャンダは目を輝かせながら、ヤジマの隣で浮遊するジーモに顔を寄せる。
「猫じゃないナ! GMOのジーモナ!」
ジーモが煩わしそうに、ニャンダの顔から遠ざかる。それにもかかわらず、ニャンダがジーモに追いすがろうとする。
「猫耳見せてくれニャー!」
「嫌だナ! 猫耳じゃないナ! ジーモの耳ナ!」
ジーモはその場から逃げ出した。
「いいニャンか! 語尾も猫っぽいニャー!」
ニャンダがジーモのことを追いかけるので、荒野で鬼ごっこが始まった。ジーモが飛び回り、ニャンダがジーモを捕まえようと飛び跳ねる。まるでじゃれ合う小猫たちのようであった。
「……それで、GM様がいらっしゃるということは、例のバグの件でしょうか? 阿呆が」
元気な小猫たちを横目に、槍使いのカイザーが丁寧なのか乱暴なのかわからない物言いでヤジマに尋ねる。
「おっしゃる通りです。タージルさんからバグのご報告をいただきまして、調査をしに来ました」
ヤジマは四翼たちの前で“成形”スキルが何らかの原因で発動しないこと、その原因をログアウトしてから社内で調査することを説明した。
「そうでしたか……。復旧の目処は立っているのでしょうか? 阿呆が」
「帰って開発担当に確認しないとなんとも……ですが、可能な限り早く直したいとは思っています」
「復旧が早いに越したことはないので是非お願いします。またいつ“ゾンビ”が襲ってくるかわからない状況です。襲撃が続けばいずれシーツーは崩壊してしまいます、阿呆が」
「ご迷惑おかけします。ちなみに、今襲撃してきた”ゾンビ”の掃討はもう終わったんでしょうか?」
「もちろん掃討は完了しております。シーツーに侵入したのはおそらく20体程度だったでしょうか。阿呆が」
ヤジマは四翼たちの手際の良さに舌を巻いた。20体をこの短時間で掃討できる四翼とは相当な実力者の集まりなのだろう。
「でも、ユニットはいくつか壊されてしまったわね。また、タージルが忙しくなりそうね……」
ターミリアのため息交じりの言葉に、ヤジマは素朴な疑問を投げかける。
「四翼の皆さんは相当な実力者とお見受けしました。皆さんの力でユニットが壊される前になんとか防衛できないんでしょうか?」
ヒイロが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「それが、やりたくてもできないんです……。シーツーの弱点は、”街であって街でないこと”ですから」
「どういうことですか?」
「通常、ギニーデンなどの運営側が用意した街では、街の中で建物を破壊したとしても運営側にて修復を行うのがルールです。しかし、シーツーはプレイヤーが作った街なので、そういった通常の街のルールが適用されません」
ヤジマは、なるほどと思った。運営側としてはシーツーの存在を街として認知していない。ニューズ・オンラインの中でのシーツーの立ち位置は、あくまでも”家が密集しているだけの場所”なのだ。ヒイロはさらに言葉を続ける。
「さらに、シーツーには城壁のような街を守るための設備が無く、守備兵がいるわけでもありません。見張りを立てて異常を察知したら対処していますが、どうしても対処が後手後手に回ってしまいます。もしPKされでもしたら、ギニーデンとシーツーの中間に位置する街”キングスタウン”までリスポーンしてしまいます」
確かに荒野から谷底へ向かって魔法の一つや二つ放てば、街に簡単にダメージを与えることができるだろう。襲う側としては格好の標的である。それに、もしPKされた場合、リスポーンするのがシーツーから離れた位置というのも利便性が悪い。
「お手数おかけして申し訳ありません。シーツーの立地についてはどうしようもありませんが、リスポーン先については変更できるか確認してみます。暫定対応として、そこにある掘っ立て小屋の扉でも良ければ、キングスタウンと繋げましょうか?」
ヤジマは、”どこでもドア”として使用した扉がある掘っ立て小屋を指差した。
「「――えぇ!?」」
”四翼”たちが一斉に驚きの声を上げる。
「そ、そんなことが可能なのですか? シーツーとキングスタウンを繋ぐ?」
ターミリアが訝しげな声を上げた。
「できるよね、ジーモ?」
追いかけっこを続けているジーモに尋ねると、「当然ナ」と息を切らしながら言った。
「で、でも、GMの独断で決められることじゃないでしょう? そんな裁量がGMさんにあるの?」
ターミリアが表情を引きつらせる。
「上司には後で報告しておきます!」
ヤジマが胸を張って言い切ると、四翼たちは戸惑いからなのか言葉を失っているようだった。しかし、その静粛も束の間、突然「フフフ……」という微かな笑声が上がり、その声は次第に大きくなる。
声の主の方に目をやると、ヒイロが腹を抱えて笑い出していた。その様子にヤジマは訳もわからずポカンとする。
「失礼しました……。シーツーの積年の課題の一つが、ヤジマさんと会ってものの数分で解決の目処が立つなんて……。ヤジマさん、あなたは本当に面白い方ですね。以前のGMとは全然違います……」
――以前のGM
ヤジマはヒイロの言葉に驚き、目を見張った。
「ヒイロさんは前のGMに会ったことがあるんですか!?」
ヒイロがふっと遠くの方に視線を外し、微笑を浮かべる。
「はい、お会いしたことがありますよ」
ヤジマはごくっと生唾を飲み込んだ。これまで何故グランドクエストがないのか、古参プレイヤーであるカンナバルとカスミに尋ねたものの、その理由は不明のままでいた。ニューズ・オンラインの花形プレイヤーでもあるヒイロが前のGMと会ったことがあるのであれば、その理由を突き止めるヒントが隠されているかもしれない。
ヤジマは藁にも縋る思いで、ヒイロに頭を下げた。
「お願いします! もしよろしければ、前GMと会話したことなどを教えていただけませんか!?」
「構いませんが……あまり楽しい話ではありませんよ?」
ヤジマの瞳には、そのように問うヒイロの横顔がどこか儚げに映った。
「どんな些細なことでも構いません! お願いします!」
「……わかりました。ここで立ち話もなんです。ギルドハウスへ向かいましょう。カスミやタージルも待っているでしょうし――」
「ヤジマああああああ!!」
噂をすれば、怒声を発しながらこちらに向かってくるカスミの姿が見えたのだった。
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